アートグループ「ヴォイナ」のメンバー:オレグ・ヴォロトニコフ(左)とレオニド・ニコラエフ(右)=タス通信撮影
無精ひげを生やしたロシア人が、牢獄の格子の向こうから遠くを睨みつけている - はっと息をのませるようなこの写真が、4×6メートルの横断幕に印刷され、福島第一原子力発電所の20キロ圏警戒区域の入り口で広げられた時、勤務中の警官たちが少々困惑したのも無理はあるまい。
「彼らは外に出てくると、我々に何をしているのかと尋ねました」と、悪名高きロシアのアートグループ「ヴォイナ(ロシア語で「戦争」の意味: 編集部注)」のメンバーであるアレクセイ・プルツセル=サルノ氏は説明した。このグループは、過去数ヶ月間に、同様の「活動」を世界各地で行っている。
「ヴォイナ 指名手配者」という名で知られるこの写真中の男は、オレグ・ヴォロトニコフという同グループのリーダーで、彼は、乗員がいないパトカーをひっくり返しにするという、グループの活動の中でもより挑発的なアートに手出ししたことから、2010年末にロシアで逮捕された。結局、イギリス人グラフィティアーティストのバンクシーが同グループに2万ドルを寄付したことから、ヴォロトニコフは保釈されたが、彼の名は、未だに国際手配者リストに載っている。
「我々は逮捕されることもなく、横断幕も没収されずに、福島から帰ってこられました。良い映像もいくつか撮れました」と、明らかに満足げなプルツセル=サルノ氏は説明した。「目的は、各国で警察がどのような反応を示すかを試すことです」と彼は付け加えた。「世界のどの警察も、これが指名手配者のポスターであることをすぐに理解しましたが、あまりにも突拍子で事情が不明なので、我々が違法行為を何も行っていないということに気づくまで、しばらく時間がかかるのです」。
福島で行ったこの芸当行為の録画は、現在、現代芸術を扱うワタリウム美術館で、今週末に一般公開された「ひっくりかえる展」において公開されている。プルツセル=サルノ氏は2週間日本に滞在し、その間この横断幕を使った「活動」を行い(靖国神社、最高裁判所などの場所でも行った)、展示のオープニングにも参加した。
「ひっくりかえる展」では、チン↑ポムという日本のアーティスト集団がキュレーターを務めている。彼らも、自身の芸術活動が法に触れそうになったことがある。去年彼らは、福島第一原発のイメージを、岡本太郎の「明日の神話」という渋谷駅の著名な壁画に付け加えた。後に「ビラ貼り」罪容疑で告発すると警告を受けると、今度は平和サインのイメージをメンバーの一員の背中にエッチングし、渋谷警察署の前でその写真を撮るという新たなパフォーマンスをしでかした。
この展示は、芸術作品によって社会的変動に反応している世界のアーティストたちを紹介する試みだ。こうした作品の多くは、一般市民の前で制作されたもので、政府当局に対する反抗心を伝え、たいてい皮肉なユーモアを十分に含んでいる。
この展覧会の中で特に注目されているのが、人目を引くヴォイナの芸当行為の中でも最も有名な巨大な写真だ。これは、ロシア連邦保安庁サンクトペテルブルク支部のオフィスの真正面に位置する跳ね橋のアスファルトの路面に描かれた、全長65メートルにもおよぶ男根像である。
アーティストの竹内公太氏は、ロシア当局による拘束と暴行というプルツセル=サルノ氏の話は、日本社会がいかに異なるものであるかを彼に実感させたという。
「アレクセイは、日本は平和社会だと言っていました。彼が講演の中でそう発言したときに、大きな笑いが沸きましたが、私はそのコメントは面白いと思いました」と、竹内氏は語った。「私たち日本人は、暖かい湯に浸かってだらりと過ごしているように感じます。現在の快適さに慣れっこになってしまったために、何も変革することができないのです」。
竹内氏は、「ひっくりかえる展」はヴォイナを対象としているわけではない、つまり、単に当局に対抗することを目的としているわけではないという意味で、この展覧会は成功するであろう、との考えを示した。彼は、この展示会が興味深いのは、上に向かって作用する市民の力や、権威主義的な権力が市民に対して行使する力、そして社会の構成員がお互いに作用しあう力など、展示品が社会のあらゆる相反する動力をうまくとらえているためだと指摘する。彼の説明は、この展覧会を、参加者がピンボールのボールとなり、おたがいにあちらこちらでぶつかり合い、その間、社会にもう一度解放されたときのために少しずつ加速していくという、一種の巨大なピンボールマシーンにたとえている。
(「The Japan Times」紙抄訳)
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http://en.free-voina.org/post/21022828270 「ヴォイナ」のオフィシャルホームページ(英語で)
http://www.tokyoartbeat.com/event/2012/D3C7.ja 「ひっくりかえる展」二ついて
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