タルコフスキー映画撮影秘話

「惑星ソラリス」=AFP/East News撮影

「惑星ソラリス」=AFP/East News撮影

映画を観ただけでは、どんな苦労や困難が各シーンの陰に隠されているかまでは分からない。そこで「ロシアNOW」が、タルコフスキー映画の想像を絶するエピソードをいくつか、ここにご紹介しよう。

タルコフスキー映画撮影秘話(写真提供:ロシア通信)

1. 『ストーカー』の撮影場所の選定には長い時間を要した。シーンの一部はモスフィルムのスタジオで撮影され、それから撮影班はイスファラ(タジキスタン)へ向かった。現地の風景は月を彷彿させるものだった。ところがイスファラは地震に見舞われ、多数の人命が奪われ、町は倒壊し、撮影用に選ばれた風景も損なわれてしまったため、別の撮影場所に行くことを余儀なくされた。そこで撮影班は、ザポロージエへと向かった。そこには冶金工場の裏手に採石場と煙をだす鋼滓の山があり、金属の漏れ出た跡が虹色に残されていた。「サイエンス・フィクション」のお膳立ては整ったかに思われた。だが、撮影班はこの場所は環境が人体にとって極めて有害であり、そこでの作業は健康にこのうえなく危険であると告げられた。ちなみにタルコフスキー自身は当時、多くの仕事を抱えており、撮影場所探しにほとんど加わっていなかった。結局最終的に、エストニアの打ち棄てられたピオネールキャンプと、そこに隣接する発電所がロケ地に選ばれた。

2. 『ストーカー』の一シーンは発電所内で撮影された。フィルムを現像してみたところ、ショットにまったく内的緊張が感じられなかった。構想自体が間違っていると判断し、撮影技師を替えて撮り直したが、それでもうまくいかなかった。レンズをより広角なものに替えても、タルコフスキーはやはり満足せずに、こう言った。「そうか。焦点距離を延ばせばいいんだ。遠ざかりながら撮れる場所を探そう」。だが、カメラは壁際に立っており、遠ざかりようがなかった。壁があるのにどこへ遠ざかれようか。 光もなかった。そこで、監督自ら脚本家のエフゲニー・ツィムバルと美術担当のドミトリー・ベルゼニシヴィリとともに、厚さ二メートルの壁に穴を開け始めた。二日がかりで穴が開いた時には、手が血まみれだった。だが、こうした涙ぐましい努力も空しく、タルコフスキーはシーンの出来栄えに納得できなかった。最終的に、そのシーンのための専用撮影セットが造られた。

3. 『ストーカー』のエピソードはいずれも、六回も七回も撮り直された。エフゲニー・ツィムバルはこう語る。「私たちは先に撮影されたものと色彩が統一されるように、森の樹木から黄色い葉をすべてむしり取りました。朝はすべてが青っぽく見えて、日の光できらめいていたので、毎朝霜が融けるのを待ちました。楓は黄色くなり、薔薇色に染まり、赤くなり、深紅に変わりましたが、私たちは緑の葉だけを残して、それらの葉をすべて取り払いました。そして林はだんだんまばらになってゆくのでした」。

4. タルコフスキーは、『鏡』で「通りすがり」の医師(アナトリー・ソロニーツィン)が野原を歩く場面に相当こだわった。野原には特別に蕎麦の種が播かれた。主演女優マルガリータ・チェーレホワはこう回想する。「タルコフスキーにはどうしても蕎麦が必要でした。コルホーズの専門家たちに『ここじゃ蕎麦は育たない』と言われても、監督は引き下がらず、なんと蕎麦は育ったのでした。その農場(モスクワ近郊のトゥチコーヴォ)では、映画の撮影後、蕎麦が栽培されるようになったそうです」。