結婚宮殿の前=PhotoXpress撮影
結婚相談所長のアンナ・オシポフさんは、怪しい花婿は電話ですぐわかると言う。「『アンナさん? モスクワに自宅がある女性を探してもらえませんかね?』とあけすけなんです」。
花嫁の年齢や外見はどうでもよい、モスクワの居住証明証さえ持っていてくれれば、彼の入国ビザはもちろん、「一時滞在許可」も簡単に下り、長期のモスクワ滞在が可能になるのだ。
「一時滞在許可」には、毎年割当数があるが、ロシア人配偶者がいれば、割当外で申請できる。
「一時滞在許可」で 1 年以上ロシアに滞在すれば、「永住許可」を申請できる。また、ロシア国民と結婚した人は、一般的な帰化の要件を免除されて、ロシア国籍を取得できる。
とくに旧ソ連圏出身で、モスクワで中小のビジネスを営もうとする人にとっては、偽装結婚は手っ取り早い方法だ。ロシア全体で毎年5千~7千組という推計がある。入国管理局のデータで、「一時滞在許可」を申請した外国人の約80%はロシア人と結婚した人だが、その約 15 %は、明らかに偽装だという。
インターネットには、何百という偽装結婚の広告が載っている。朝、金を払い、夕方には結婚という超電撃コースもある。
モスクワ南東部のペローワ地区。老朽化した5階建てアパートに住むオレーシャさんの「相場」は15万ルーブル(約 37 万円)だ。「ぼくはロシア国籍を取るのに3年の結婚生活が必要なんです。15万ルーブル払えばいいんですよね?ただ、3年のうちに突然愛が芽生えて、なんていうシナリオは無しですよ」
「結構よ、商談成立ね」―という具合だ。
この簡便な結婚が法律で罰せられることはない。ロシアでは伝統的に、偽装結婚は詐欺とはみなされず、「打算的な結婚」の延長と考えられている。お互いに合意の上のことで、誰も被害にあっていないというわけだ。
しかも、社会問題化したのは連邦崩壊後のことで、政府は他の課題に忙殺され、「偽装結婚どころではなかった」と弁護士マリーナ・カシチェンコさんは指摘する。
5月にようやく、与党「統一ロシア」は国家会議(下院)に偽装結婚を防止する法案を提出したが、「ロシア人と結婚した外国人は、初めの1年間はロシアで仕事に就けない」といった無理な内容を含んでおり、法案成立まではまだ時間がかかりそうだ。
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