ロシアには自然が織りなす驚くべき場所がたくさんある。しかしこの魅力的な土地は、そんな場所の一つではない。ロシア南部のスッコ渓谷にあるラクウショウの林は、人の手によって作られたものである(それによりさらに印象深いものになっている)。ぜひご覧いただきたい。
実際、ラクウショウはこれまでこの地に生育したことはなく、ソ連時代の実験がなければここで目にすることはなかったであろう。ある説によれば、ラクウショウの苗木は1930年代に、北米からソ連に持ち帰られたもので、ここに根付かせようとしたものだという。
ラクウショウはアナパから14キロ離れた、スッコ村近くにあるスッコ渓谷に囲まれた場所に植えられた。
北米から遠く離れた場所に植えられた苗木はうまく根付き、数えきれないほどのテレビ番組で取り上げられ、また写真に収められた。このラクウショウのイメージは、雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」のページを飾ったこともある。
しかし時とともに地形は変化し、32本のラクウショウは浸水した。しかしこれは良いことであった。というのも、ラクウショウは、北米では沼の水浸しの場所に生育しているからである。
林にはいつでも観光客が訪れ、とりわけ葉が炎のように赤くなる秋には大量のツーリストがこのラクウショウを見にきた。しかし、アナパの熱い気候と観光客ブームはこの植物に良い影響を与えなかった。
沼は次第に浅くなり、観光客が乾いた林の土の上を歩いて、写真撮影をしようとラクウショウの根を引っ掛けるようになったのである(ラクウショウの根は地面の少し上を水平に伸びている)。この貴重な植物を守るため、2020年、クバン天然資源省は、ラクウショウが生えている場所を一時的に閉鎖し、消防用の特殊な設備を使って、1週間に1度、ラクウショウに水をやるよう指示を出した。
湖が取り戻されたとき、スッコ峡谷は地域の人々が楽しめる公園となった。ボートや双胴船、カヌーやパドルサーフィンの貸し出しが行われ、アフリカ村と名付けられたアフリカのショーが開催されている。さらに馬上の槍試合やペイントボール、レーザータグなども楽しめる。
湖で泳ぐことは禁じられている。水は濁っていてあまりきれいではない。しかし、ルールを気にしない者はどこにでもいる。2021年にここを訪れたナタリヤさんは、「水泳禁止の看板はあちこちに立っていますが、泳いでいる人も同じくらいたくさんいます。ボートは常にラクウショウの上に浮かんでおり、どんな写真にも必ず映り込んでいます」と話している。
「ラクウショウの木々がもっとも美しいのを見るには1日のいつここに来ればいいのかとよく訊かれます。もっとも良いのは日の出の頃です」と語るのは、エコパーク「ドリーナ・スッコ」のスタッフ。「人が少なく、湖は静かで穏やかで、太陽は目覚め始めたばかりで、まだ暑くもありません。ラクウショウに柔らかな光が降り注ぎ、水面からは薄い煙が立っています」