ヤクートの寒中水泳愛好家たちは酷寒の中、どう体を温めているのか?

 小さな村の住人たちは凍った水の中に数分間浸かったり、頭まで潜ったりするのを恐れたりはしない。

 薄手のガウンを羽織り、首にふわふわしたタオルを巻いて、近くにある小屋から氷の穴まで歩いているのは30歳から90歳までのごく普通の人々。男性、女性、痩せた人、中肉中背の人。雪の上にゴム草履を置いて、不安定な木の階段を伝って、ゆっくりと氷の穴の中に入って行き、最大で10分そこでじっとしている。

 そして最後に頭まで水に潜る。このとき、後頭部、新生児のとき小泉門がある辺りを覆う。これは体の中でもっとも敏感な場所なのである。水から出るときはゆっくりとした動きで、急いだり焦ったりはしない。その後、雪で体をこするのだが、これも瞑想するかのようなプロセスである。この一連の流れは、見ているだけで、トランス状態に陥ってくる。携帯電話は寒さのために一瞬で使えなくなるため、一瞬一瞬を覚えておかなければならない。この寒中水泳が行われているのは世界でもっとも寒い場所の一つであるヤクートの小さなチュラプチェ村である。

 サハ共和国(ヤクーチヤ)はその面積が、ヨーロッパやアフリカの一国を上回る大きさのロシア最大の地域である。地域は「二重の寒さ」で知られる。下からは永久凍土帯―地下の氷は深さ400㍍に達する―からの風が吹き、上からは常に氷点下45℃ 以下となる冷たい風が吹く。これに加えて、北半球の寒さが他でもないこのヤクーチヤにはある。地球上で人が住む場所の中での酷寒の地として、共和国のヴェルホヤンスクとオイミャコンが一位を競っている。

 一般の観光客にとっては、0.1℃の違いなど重要ではないかもしれない。いずれにしても、ティーカップから飛んだお湯が空中で凍る「ヤクートの花火」、あるいはまつ毛の凍った自撮りは保証されている。 

 さらに進化した「寒さに魅せられた人々」はロシア気象センターの特別な方法により、記録を打ち立てている。そしてこれは単なる愛好家の遊びではなく、科学的な実験を行い、自身を試す一大プロジェクトである。だからこそ「寒さに魅せられた人々」と名付けられているのである。

寒中水泳愛好家との出会い

 参加者らは、1年でもっとも寒い、1月末の「洗礼祭の酷寒」の時期に、冷たい空気が入り込む低地に向かう。挑戦は賭けである。さまざまな気象観測所や観測点を選び、そこまでトナカイか雪上車に乗って行く。最高の賞は、今年の公式な最低気温の記録である。それは地球温暖化を考慮すれば、最後の記録となるかもしれないものである。

 しかし低地に向かう途中で、「寒さに魅せられた人々」は必ずチュラプチェ村に立ち寄らなければならない。これは守り続けたい伝統である。ヤクーチヤに行けば、3日目には、大地、水、タイガの神がいるのを自然と信じるようになる。この魔術的なリアリズムの大きな要素の一つであるのが、氷の穴に入って、鍛えるのではなく、体を温めるチュラプチェの寒中水泳見学なのである。

 危険な水泳の愛好家にはさまざまな呼び名がある。フィンランド人は「ユーラシアカワウソ」、「ゼニガタアザラシ」、北米の人々は「シロクマ」とそれぞれ呼ぶ。しかし、もっとも印象深いのは、果てしない雪の中に開けられた小さな隙間の中に動物ではなく、人間が潜っていくということである。しかも、プロのスポーツ選手でもなければ、アーティストでもない。

 水から湯気が上がり、穴は定期的に薄い氷に覆われるので、それを割らなければならない。しかし、普通のチュラプチェの人々はまさにここで体を温めている。というのも、外気の温度はマイナス30℃以下でも、水温はプラス4℃くらいなのである。これは水がちょうどどろっとした氷に変わり、生物学的に慣性となり、どろっとした氷は生物学的細胞膜の管を通じて、浸透しなくなるのである。このような気温は「生物学的ゼロ」と呼ばれる寒と暖を分けるポイントで、このとき、生物体は発展することは不可能で、ストレス反応を示すようになる。

 しかし、ヤクートの「セイウチ」(=寒中水泳愛好家)らはリラックスした様子で、穴の中に入るときには瞑想している。暖かい格好をして近くに立っている「寒さに魅せられた人々」は、「なんの話?」と当惑している。寒さに対する即興のホサナが地元のヤクート語で始まる。この言葉は聖なるものに敬意を払い、翻訳されない。

「寒中水泳」への道

 その後、「冬季水泳クラブ」の創始者が水から出て、雪の塊の上に座ると、今度はロシア語で話し始める。シュールな感じが強まり、雪の塊から90歳のアファナシー・ドロフェーエフがざっくばらんな言葉で、48歳のときから寒中水泳をやっていて、そのとき、重い遺伝のため、病気が治療不可能であると言われたと話す。しかし家族や親族を一人ずつ失ったアファナシーは、死を欺くことにしたという。

 それから水着1枚で家路につきながら、彼は定期的に北極地方での水泳するようになったという話をしてくれた(わたしたちは熱を逃がさないアウトフィットに身を包んで、暖かい場所へと急いでいた)。しかし、別に何も話さなくてもよかったわけなのだが。アファナシー自身、筋肉質で、背筋が伸びていて、頭もはっきりしていて、その年齢のよくあるような病気にもかかっておらず、酷寒の中で肉体の老化を遅めることができるという仮説を証明するような存在であった。

 同じくらい元気な信奉者たちのグループが、アファナシーの周りに集まってきた。寒中水泳愛好家らは皆、それぞれの事情でこのグループに入った。皆、それぞれ異なる運命によって、ここに導かれてきたのである。グループの中心的人物は15人から20人で、近くの同じ村の住民と他の地域からきたヤクート人である。1年中、体を鍛えるという条件の下、数日に1度の頻度で、寒中水泳を実践している。このリズムを守ること、そして少しずつ温度差への準備をすること、これが成功の鍵である。

 氷の穴の水泳も少しずつ慣れ、それぞれが自分のリズムで乗り越えていく。しかし、参加者の誰一人として、これをただの遊びだとか一時的なチャレンジと捉えている人はいない。

 アファナシーの言うことを皆、絶対的なものとして聞き入れる。彼はそれぞれのメンバーの事情を知っている。ある者は代替医療としてこのプロセスに参加し、またある者は肉体の可能性を広げるためにここに来た。わたしの目の前で、経験豊富な愛好家が9分間水の中にいた。初心者らは2分から3分以下である。アファナシーの指示に従って皆、穴の中から出る。早く出ても、遅く出てもいけない。アファナシーは「ピッタリその時」を知っているのだという。チュラプチェの寒中水泳愛好家たちはときに新興宗教団体と呼ばれる。しかし、それはもちろん冗談であり、彼らは興味を持って集まった開かれた社会であり、自分の経験したことをいくらでも共有したいと考える人々である。ただある点では間違えることがあるかもしれない。それは目を見て年齢を当てるとき、そして寒中水泳を始めてから、彼らの生活がどのように変わったのかを見極めるときである。アファナシーを師事するメンバーたちは実際の年齢より10歳以上若く見えるからである。

 「でも最初はやはり怖かったでしょう?」と彼のしっかりした足取りを追い越さないよう懸命に努力しながらしつこく訊くと、「寒さは外だけで、わたしたちの内面はとても温かいのです」とアファナシーは笑顔で言った。 

 そして彼はわたしをお茶に誘ってくれた。

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