聖霊、供物、悪魔祓い:バイカルのシャーマンたちが信者をめぐって抗争した

イリヤ・ピタレフ撮影/Sputnik
 シャーマンにとっては聖なる島であるバイカル湖のオリホン島に観光客が押し寄せたとき、島民たちは観光客相手にお金を稼ぐことを覚えた。俗世と聖霊たちを執りもつシャーマンたちには、死者の魂に対する権力を護るために真剣な闘いの火ぶたをきった。

 黄昏が大地に降りてくると、シャーマンは儀式の準備を始める。片方の眼に仕掛けのある鯉の形をした南京錠で、木造のユルタ――シャーマンの秘儀が行われる場所――の扉を開く。中は寒く、吐く息が白い。

 ワレンチン・ハグダエフのことを、多くの人が、バイカルの代表的なシャーマンだという。彼は自分のことを、いかさま師たちに囲まれた中で、聖霊たちの世界へと繋ぐ真の媒介者だと考えている。彼が執り行おうとしている秘密のシャーマンの儀式がそれを証明する。

余計な骨

 来年の私を護ってもらうために火の聖霊と先祖の霊を呼び出す儀式を開始する一時間前、ハグダエフは自分の家の台所に座り、現代のシャーマニズムについて論じていた。「私は、ネオ・シャーマンたちを信頼しない。彼らがやっているのはショーだ」と彼は言う。「真のシャーマンには余計な骨があるはずだ――天の承認なんだ」。

ワレンチン・ハグダエフ

 彼の右手には指が六本ある。台所のテーブルの上にはパン屑がまき散らされており、小さな茶碗の中には煮たバーミセリ(細いパスタ)が湯気を立てている。ハグダエフは、職業としてシャーマンをやっている人たちを痛烈に批判する。「本物のシャーマンは金銭を求めたりなどしない。人々は余裕のあるものをシャーマンに贈る。食料品でもらうこともある」。

  彼は大っぴらに非難はしないし、名前を挙げることもないが、誰のことを言っているのかは誰にでも明らかだ――ハグダエフが暗に言っているのは、島の有名なシャーマン、ミハイル・オグドノフで、金儲けに腐心しているということだ。

オリホン島

 ワレンチンは、トランス状態に入り、聖霊たちと交信し、未来を透視 し、人びとの問題をひと目で当てることができると言う。「代々続く伝統的なシャーマンは、同時に、儀式を執り行う司祭でもあり、未来を予言する魔法使いでもあり、病を治す治療師でもある」とハグダエフは語る。

 先祖伝来のシャーマンの言葉は次々に変わっていき、彼は聖なる話を語り始めることになる――もつれてはっきりと聞き取れない口調が平坦になっていき、声は低く、催眠術にかけられたように抑制されていく。「我々の寺院の丸屋根とは――空高くにある天だ。大地は――我々の家で、自然は――宇宙なのだ」。

オリホン島

 彼は、信仰を享楽にしているとして正教会やイスラムをあまり好まず、シャーマニズムの真の後継者を失墜させるとして「新しい」シャーマンたちを軽蔑している。「都市に住んでいる新しいシャーマンたちは、一日中、都市の住人たちを受け入れている。金、金、金、金のことばかりだ…」。

 ハグダエフは、彼自身の言葉によれば、代々続いた最後のシャーマンが亡くなった後に長老たちからシャーマンに任じられたのだという。「なぜなら、私の祖父がシャーマンだったことを誰もが分かっていたからだ」。

 伝統的なシャーマンは、家系と、神が降りてきたことを語る話し方と、超自然的な能力によって選ばれる。「だが新しいシャーマンたちは…。何万も支払って――シャーマンになるんだ」と彼は言う。

シャーマン病

 シャーマンであり、オリホン島の保養所のオーナーでもある、50歳のミハイル・オグドノフは、「シャーマン病」の結果、選ばれし者となったのだと言う。

 「私は恐ろしい事件に遭いました。銃で撃たれ、切りつけられたのです」とオグドノフは語ってくれた。

ミハイル・オグドノフの保養所。オリホン島。

 シャーマンに任じられる以前の38歳のとき、オグドノフはロシア内務省に勤務していた。この危険な仕事からして、彼に起きた災難は何もかも説明がつくのだが、彼自身は、これを「シャーマン病」だと確信している。

 島に広く普及している言い伝えによれば、普通の人たちはシャーマンになりたいとは思わない。この道を彼らに受け入れさせるのは聖霊たちであり、未来のシャーマンが自らの真の使命を自覚し受け入れるまで、重い災難や病を与え続けるのだ。

ミハイル・オグドノフ

 「シャーマン病」は――極めて曖昧模糊とした現象で、島内にはそれについてまとまった見解はないし、さらには、実際にその病が存在するのだという統一された意見もない。

 「誰もシャーマンになりたいなんて思いませんよ。とても厄介な仕事なんですから。ある人物をそこまでもっていくんです。よくあるのは、絶えず病気をさせること。そうするとその人物は先祖の声が聞こえ始めるんです」と語るのは、オリホン島の図書部主任である46歳のスヴェトラーナ・シャタエフだ。「医学では、これは統合失調症と言われるものかもしれません。でも、ブリヤート人たちはシャーマンのところへ行くと、彼はこう言うんです、「選ばれた人の御先祖さまがシャーマンになれ、代々あの世との仲介者になれと頼んできた」と。

 オグドノフは、彼の言い分ではその手の人物だ。彼は、トランス状態に入り、自分の内に先祖の霊を憑依させ、病や呪いを取り祓い、ガンに至る病気までも治し、人びとから悪霊を追い払うのだと主張する。「憑依はよくあることです。魂の中にあらゆる邪悪なものが住み着くんですよ、犬や鹿の姿をした悪魔が。そうするとその人は苦しむことになります」とシャーマンは言う。

 オグドノフいわく、彼は高名なシャーマン「オンゴン(先祖の霊)」の子孫で、島の人が住んでいない未開の場所で三日にわたる儀式を終えた後にシャーマンに任ぜられた。そこで彼は、トランス状態に陥り、犠牲の羊を捧げたという。彼はハグダエフに対し優しい感情はもっておらず、彼の方も、オグドノフは観光客相手に金儲けをしていると非難している。観光客たちは、群れを成して飛行機で島へやってくるのだが、バイカルの手つかずの自然よりはむしろ、神秘や、この場所に満ちている来世の感覚がお目当てなのだ。

聖霊たちの世界で

 「パンを手に取り犬に投げ与えよ、それから走って店へ行け。蒸し肉の缶詰、ウォッカ、牛乳、煙草、バター、お茶を買え」とハグダエフは命じる。

 店員は瞬きもせずに奇妙な組み合わせのものを一式出してくれる。「儀式用ですか?」と聞いてくる。ハグダエフの家の並びにあるこの木造の店には、多くの人がこうした書き付けをもってやってくるのだ。

ハグダエフのユルタ。

 島やその周辺にずっと暮らしている人なら、文字通り誰でも、シャーマンらの来世のパワーを信じている。例外は、一部の若い人たちだけだが、現地の人たちはこれについてこう説明する。

 「今の若い人たちはシャーマンを信じません。彼らは無神論者なんです。ちょうど今きた人たちもそうですよ」と、店員のウラジーミル(46歳)は、ビールを買った三人の若い男性を指して言う。「裏返して言えば、彼らになんの問題があるのかということですよ。彼らはまだ人生を経験していなくて、深刻な問題を抱えたことがないんです。そういうことを抱えるとシャーマンのところへ行くんです」。

 ハグダエフは、シャーマンの儀式を行うために自分で特別に建てた木造のユルタの入口で食料品を待っている 。彼は完全なシャーマン用の祭服を着ている:赤と青の上衣、悪いエネルギーと邪悪なパワーを跳ね返す「反射鏡」を首からぶら下げ、両手には――動物や鳥、人間、木々、天体の絵で飾られたシャーマン用のタンバリンを持っている。彼は儀式を行うためにユルタへ入るよう招く。

ユルタの中のハグダエフ。

 ここには壁際にソファがあり、壁には、手に弓矢と巻物を持ったチンギスハンの肖像画が掛けられている。ユルタの中には、多くの古い物とむき出しのガラクタがある:神秘的なモチーフの絵や動物の毛皮が、鹿の角を載せた帽子や、埃だらけのクッションや、古いぼろ布や古新聞と一緒に雑然とある。シャーマンはペチカ(暖炉)を焚きつけるよう指示する。

 儀式が始まるのは、ペチカの炎が強く燃えだし、消える心配がなくなってからだ。ハグダエフは、大きめの握り拳ほどの大きさの石を3つ、金属製のペチカの上に逆三角形になるように置き、上から乾燥した草をかける。

 「まず最初に私は火の精霊に祈り、それから先祖の霊を呼び出し、そのあとで創造の神を呼ぶ」と彼は説明する。「最後に私が“ソク”という言葉を口にしたら、手のひらを合わせて額のほうにもっていき、“エイ、フリ!エイ、フリ!エイ、フリ!”と3回言え」。

 シャーマンの左側には新聞紙の上に店で買ってきた儀式セットが置かれている。そこには――固まった脂の欠片が載ったスプーンが2つと、汚れた茶碗も2つある。「ひとつのコップにウォッカをたっぷり注ぎ、もうひとつには牛乳を入れろ」。これを飲まされるんじゃないかと怖くなってくる。

シャーマンの左側には新聞紙の上に店で買ってきた儀式セットが置かれている。

 コップにウォッカを注ぐ前に、ボトルの細首から金属製のリングを取らないといけない、「そうしないと邪魔になる」。蒸し肉の缶詰も、このために儀式の場にしまっておいた切れの悪い長いナイフで開けないといけない。鉄に力が加えられると、両手を肉汁がつたって流れる。シャーマンは、隣に座れと命じ、タンバリンの大きな音に合わせてマントラを唱える:聖霊たちへの呼びかけ開始だ。

 彼は火の精霊に呼びかける:「エイ、ヘルハン!エイ、ヘルハン!エイ、ヘルハン」。火が音楽に合わせてぱちぱちと音を立てる。「ソク」という言葉が発せられるたびに、聖なる文句「エイ、フリ」が反復され、石の上に一滴ずつ、必ず時計回りに、まずは牛乳が、それからウォッカが、そのあとで、蒸し肉の肉汁が注ぎかけられる。

 バターとお茶と一緒に煙草を包装紙ごとそのまま炎の中に投げいれる。汚れたスプーンですくった蒸し肉の欠片も炎の中に入れる:聖霊たちが供物を受け取るのだ。

 煙草が火の中に入れられると、ペチカの上に屈みこんで、赤熱した金属の上ですでにいぶされ始めた煙草と乾燥した草の湯気を吸い込めとシャーマンが命じる。「ペチカの周りを3回周れ」と彼は言う。

 シャーマンが火に直接ウォッカを注ぐと、炎はユルタの丸天井のほうへと効果的に燃え上がる。催眠にかかりそうなシャーマンの歌、タンバリンの単調な音、煙草と名も知らぬ草の麻酔のような湯気が別の世界の門を開け、真理を探す人を聖霊たちの世界へと導き入れる。

 「一周まわろう。私の後についてこんなふうに歩け」とハグダエフが言い、ペチカの周りをきっちりと時計回りにぐるぐるとまわり始める。突然、彼がいきなり立ち止まると、振り返ってこう言う、「3千、与えなければ」。 

 予期せぬ突然の言葉が、真理を探す人の意識の中で聖霊たちの世界の神秘が粉微塵になる。ハグダエフは炎の上の紙幣を振りながら取り上げると自分のポケットの中にしまう。

 「聖霊たちはあなたの供物を受け取った」と彼はしっかり伝える。これをもって、儀式は終了と説明される。

オリホン島での「シャマンカ」岩

 シャーマンのハグダエフが暮らすエランツイ村からオリホン島――シャーマンのオグドノフの地区――行きの乗り合いバスを待ちながら、大きな星々が一面に広がる群青の空の下で、地元の人たちがシャーマニズムを信じるかについて議論している。

 「私はシャーマンを信じてますよ。私はブリヤート人の女性のとこへ行きました。人生にいろいろと問題があって…、話したくはないですけど。彼女のところへ牛乳と塩を持っていきました。お金も取りましたよ。彼女はタロットカードを並べて、私のことや私の抱える問題についていろいろと話してくれました。何かの草に火をつけたんです。問題は消えましたよ」と一人の男性が言う。

 「そんなものはすべて、金を稼ぐためのサーカスさ」ともう一人の男性が彼に返した。

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