ロシアのシャーマンの世界

ロシア通信

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トゥヴァ共和国(東シベリア南部)で7月末、国際フェスティバル「13人のシャーマンの叫び」が行われ、世界中からシャーマニズムの実践者が集結した。13人の中には、モスクワの信仰治療師、シャーマン、非営利団体「シャーマンの家」の代表であるマルク・グスリャコフ氏も含まれた。ロシアNOWがグスリャコフ氏に取材を行い、ロシアのシャーマニズムとは何なのか、シャーマンは現代世界で何をしているのかなどについて聞いた。

モスクワのシャーマン

 「私のもとには貧困者、富豪、可哀想な人、不幸な人、アルコール中毒者などが来る。課題は人々に救いの手を差し伸べ、できる限りのことをすること」とグスリャコフ氏は話す。2人で座っているこの場所は書斎だそうだが、正しくは何と呼べばいいのだろうか。部屋の壁には正教のイコンがかけられ、隅にはオオカミの毛皮からつくられたシャーマンの装束と、シャーマニズムには欠かせない鈴鼓がある。

 さて、グスリャコフ氏自身がどのような格好をしているかというと、Tシャツにショートパンツと今風。ステップやタイガではなく、モスクワのソコリニキ地区にいて、喉歌のかわりに空調の音が聞こえているからか、古代の世界や奇跡を感じることはできない。

 私がここに入って来た時、グスリャコフ氏は私のまわりを注意深く見回しながら、私がたくさんの人を引き連れて来たと真顔で言った。取材の過程で、それは私の先祖であり、人には常についているという説明を受けた。先祖を見ることができるのは、教義を知っている者、信仰治療師、師匠だけだという。

 重要なのは、このような話を聞きながら、ディクタフォンを握り続け、流れを維持することである。一方では、記者として話を心理トリックまたは他の何かととらえつつ、他方では、私の祖母と曽祖母が信仰治療を行い、それより以前の先祖がイコン画を描いていたことを思い出す。疑問は疑問のまま残った。

 グスリャコフ氏は取材を好まず、インターネットのホームページもつくっていない。カザフスタンで生まれ、5歳の時に初めてシャーマンの儀式を受けた。自身についてはあまり語らずに、この道を自ら選んだわけではなく、生まれた時から能力が備わっていたとだけ語る。「設計図を書いたり、絵を描いたり、音楽をつくったりと、何かに人は常に引っ張られる。私は皮膚の色、足の指から、その人が抱える慢性的な病気、先祖の暮らしていた場所を言い当てることができる。特別に学ぶ必要はない。私の先祖は信仰治療や儀式を行っていた。私の姓でさえ魔法使いを意味している。1日に1回、同じ時間に、私の体は15~20分ほどけいれんする。この状態で現実は変化し、もとに戻るための非現実的な力が必要になる。今のところ、私はすべてを理解できていない」

国際フェスティバル「13人のシャーマンの叫び」

 本当に支援を必要としている時、人は自らそれを見つけるという。シャーマンに求める助けとは何だろうか。多くの人に医療では解決しきれない出生時の問題があり、そのまま人生を台無しにしてしまうという。国際フェスティバル「13人のシャーマンの叫び」では、シャーマンとの対話を求めて地元住民の行列ができた。うち半数の親族に、精神的問題による死がもたらされたという。

 このシャーマン・フェスティバルはシャーマンの実践者にとって、重要な催しである。グスリャコフ氏は選ばれた13人の一人。主催者はトゥヴァ・シャーマンであるニコライ・オオルジャク氏。「世界でいくつもの軍事衝突が起こっている時とフェスティバルの開催期間が重なるとは。イベントの目的は、世界中のシャーマンが結集して、人や地球に何が起こるのかを霊にたずねること。現在、多くの実践者が敵対し、双方の伝統を受け入れようとしていない」

 グスリャコフ氏はフェスティバルで本当の奇跡を見ることもできたと話す。「参加者は山に入った。地元住民も驚くような40~50度という気温条件で、シャーマンは3日間隠居するために登山した。多くの人は水さえ持参しなかった。モンゴルのシャーマンが儀式を行い、水入れを出して、それぞれの人の前に置き、これで足りるだろうと言った。鈴鼓を叩き、儀式の歌をうたうと、3分後に大雨が降りだした。皆の服がびしょぬれになり、水入れは満杯になった。これは古代の知識、守られ、継承されているシャーマニズムの真の現象」

 グスリャコフ氏の付き人のユリヤさんは、ロシアのシャーマンが苦労し、支援を必要としている現状について話す。「ロシアではシャーマンは誰からの支援も受けていない。他の国では多くのシャーマンが国から保護され、ユネスコの無形文化遺産にもなっているのに。唯一そのような人物となっているのは、トゥヴァのシャーマン代表のモングシュ・ケニン・ロプサン氏」

 モスクワには治療を行える、パワーを持った人がたくさんいると、グスリャコフ氏は話す。その多くはシベリアからの移住者。

 シャーマンが活用しているシャーマニズムの知識は、師匠から弟子へと伝えられるもので、本に書かれているわけではない。

シャーマンとはどのような人なのだろうか。

 シャーマニズムが人の遺伝子に組み込まれていると、グスリャコフ氏は話す。「装束、儀式の炎、歌、祈りがなくとも、感じられるものがある。それは体の中にある。昔は目の色、静脈の形状など、身体的な特徴からシャーマンを見つけていた。この伝統は今は失われている。人は目の前のシャーマンが本物かどうかを感じとることができる」

 「真の才能」に従って行うすべての活動を、シャーマニズムと呼ぶことができるのだという。「シャーマニズムは宇宙的な芸術の才能。どのような形でその才能をあらわすかを、我々が決めることはできない。シャーマンの才能は境界の解釈の拡大、人生の定義の拡大。シャーマンは自分と宇宙に関する知識を蓄えている。自由であり、行動や物ではなく、感覚に従って生きている」。シャーマンの儀式について本を書くのは無意味だという。「シャーマニズムは本に書くものではなく、感じるもの。誰にでも五感以外に予知能力と鮮明知識を含む七感がある。現代の特徴とは、人がこの二感を抑制してしまうところ。我々の先祖はインターネットと電話の代わりにこの二感を活用し、互いに感じあい、離れたところで理解し合っていた」とグスリャコフ氏。

 私はメモを読みなおし、パソコンの画面の文字を見ながら、グスリャコフ氏の言っていることを理解した。説明されたことを文字で表したところで、壁に絵の描かれた部屋の中で私が感じたことを伝えることはできない。グスリャコフ氏が本物のシャーマンか否かということはもはやどうでもいい。別世界、異世界を見るために、正しく、論理的に、理性的に考えるこのような人々を我々は必要としているのだ。

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