ピョートル大帝とチェーホフの街タガンログ

観光・自然
オレグ・クラスノフ
 世界一浅いアゾフ海のタガンログ湾に面する、おいしい魚のある、美女の多いこの街で、4つの観光をしよう。

 ピョートル大帝は1698年、ロシアを海洋の大国にしようと、要塞の街タガンログ(モスクワの1100キロ南)を築いた。これはサンクトペテルブルクの創設よりも5年早い。地元の住民はこれを、誇りを持って話す。ピョートル大帝が、ここ、古代ギリシャの集落をロシアの主要海洋都市にしようと考えていたことも。当時の都市計画は、サンクトペテルブルクの都市計画に似ている。タガンログにあるロシア唯一の「都市計画博物館」(伝説の建築家フョードル・シェフチェリが1912年に建てた地主貴族シャロノフのアール・ヌーボーの豪華な邸宅)に行くと、このことがよくわかる。海と港のパノラマが広がるタガンログの展望台には、19世紀からピョートル大帝像がある(500ルーブル紙幣のピョートル大帝像はロシア北西部アルハンゲリスク市のもの)。

 タガンログの誇りは昔の歴史だけではない。その後の時代、現代においても、重要な拠点となり続けている。ロシア南部のこの居心地の良い街で、何を見学すればいいのか。「ロシア・ビヨンド」がガイドする。 

チェーホフと登場人物のゆかりの場所をめぐる

 タガンログといえば、「かもめ」、「三人姉妹」、「ワーニャ伯父さん」、「桜の園」などの有名な作品を数々執筆している作家アントン・チェーホフ。チェーホフは1860年にここで生まれ、ここのギムナジウムで学び、風刺的な短編小説のインスピレーションを受け、その後何度も帰省している。旧市街地に行くと、まるでチェーホフの息遣いが聞こえてくるようだ。

 チェーホフが両親と暮らしていた緑色の屋根のある小さな白い家は記念館「チェーホフの家」になり、チェーホフが通っていたギムナジウムは「A.P.チェーホフ文学博物館」としてチェーホフの使っていた机を展示し、チェーホフが9歳から14歳まで両親と暮らし、父親が食料品店を営んでいた建物(賃貸)は博物館「チェーホフ家の店」になっている。「チェーホフ家の店」は19世紀の日用品の宝庫である。チェーホフは学校が終わると、兄弟たちと店にかけこんでいた。「チェーホフ家の店」のガイドは、チェーホフの短編小説「イオーヌィチ」、「箱にはいった男」などの登場人物の居住場所のツアーも行っている。

 市内の幹線道路ペトロフスカヤ通りにある「A.P.チェーホフ・ドラマ劇場」では、チェーホフの生前に戯曲が上演されていた。近くには「A.P.チェーホフ図書館」もある。チェーホフはここの管理者であった。図書館の建物もシェフチェリの傑作である。

 19世紀の田舎の邸宅を見学する

 19世紀、建築ラッシュが市の中心部で起こった。これらの建物は現在も残っており、パッラーディオ、バロック、擬古典、アール・ヌーボーの折衷的な商人の好みが垣間見える。19世紀の建築の真珠としては、都市計画博物館になっているシャロノフ邸以外にも、タガンログの市長だったニコライ・アルフェラキのネオバロック様式の建物、アルフェラキ宮殿がある。正面のコリント式の柱、金箔のレリーフ装飾のフレスコ画のある舞踏室、大理石の階段などすべてが、田舎の貴族の生活を静かかつ豪華に語る。宮殿は現在、17~20世紀の応用装飾美術の豊富なコレクションのある「歴史・郷土博物館」になっている。

 ハンドリン邸も折衷主義の傑作である。ここは現在、「タガンログ美術館」になっている。ルネッサンスとバロックの要素を兼ね備えた新古典主義の建物には、ロシア風の中庭がある。この美術館には、ロシアの画家イリヤ・レーピン、イワン・アイヴァゾフスキー、コンスタンチン・コローヴィン、ワレンチン・セローフの厳選作品が展示されている。

 市場を見学する

 この地域の食文化については、歴史・郷土博物館で知ることができる。だが地元の漁師の活動を知るには、「中央市場」に行くのが手っ取り早い。ここではハゼなどの魚が売られている他、今日、エコ食品と呼ばれるであろう近隣の村の香り豊かな野菜や果物もある。ハゼの調理は簡単。下処理をして、小麦粉をまぶし、フライパンにヒマワリ油を引いて、焼くだけ。市場にはスズキの干物もある。この街の名物である。 

世界で一番浅い海で泳ぐ

 夏真っ盛りの時期、また晩夏、初秋のタガンログ旅行は、世界で一番浅いアゾフ海で泳ぐチャンスでもある。アゾフ海の水深は最大で13.5メートル、タガンログ湾の水深は最大5メートルにすぎない。

 タガンログ市はほぼ水域に囲まれており、しっかりと整備されたビーチが複数ある。最高のビーチはソネチヌイ・ビーチ。古い「石の階段」がビーチに続いている。そのわきの崖の上には、「チャイコフスキーの家」がそびえたっている。ここには偉大な作曲家チャイコフスキーの弟が暮らしていた。ピョートル・チャイコフスキー自身もここを訪れている。

 海水浴シーズン以外でも、長い海岸通りを散歩したり、カフェ「アリバトロス」に入ったりして、海のパノラマを眺めるのも心地良い。