=アントン・パニン/ヴャチェスラフ・ヴァジュリャ撮影
コラ半島のなだらかな丘と果てしないツンドラは、レイ・ブラッドベリが『火星年代記』で描いた風景を思わせる。場所もそして人々も。ただ、彼らの頭上には真っ赤な空があり、夜は半年続き、家はそりの上に立ち、風は犬が宙に舞うほど強い。
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タチヤーナさんは、野菜とトナカイの肉でラップランドのスープを煮ている。木の床にはトナカイの毛皮が敷かれ、入り口のそばではストーブが燃え、突風が吹くたびにキイチゴとコケモモの入った容器がかちゃかちゃと鳴る。
「町へは月に1度でかけ、食料を買ってお風呂に入ってきます。息子のエゴールにバーニャ(蒸し風呂)を造ってほしいとせがまれましたが、時すでに遅しでした。6年前に溺れてしまったので…」。小卓の上には黒髪の男の子がほほ笑んでいる白黒の遺影が飾られている。
慣れていないと戸外には5分と居られない。夫のワレーリーさんは、ラシャの外套(がいとう)のボタンを外して薪を割り、暖かいトナカイの毛皮に繭のように包まれたタチヤーナさんは、自分と同じものを夫に着せようとする。2人の顔は、凍てつく風で赤く染まる。
230度 上記掘削坑の地下12㌔地点での気温。
6分の1 6300人が漁業に従事するムルマンスク州の水揚げ量はロシアの全漁獲量の6分の1である。
13万 コラ半島の湖と河川の数。
訪ねてきたミーシャさんは、冬はロボゼロでそりやスノーモービルの旅行を手がけ、夏はコラ半島を徒歩で案内する。時々、旅行者をトナカイ遊牧民のもとへ連れてきては安い料金でトナカイ乗りを体験させている。ミーシャさんはこう話す。
「ムルマンスク州には少数民族のサーミ人を支援するプログラムがあってお金やトナカイが与えられています。しかし、私たちカレリヤ民族のコミ人はここに住んでいるにもかかわらず、そのプログラムに関わることができません。自分たちのトナカイを連れてカレリヤへ行きなさいというわけです。私はここで生まれ育ったのに、なぜよそへ行かなくてはならないのでしょう」
トナカイたちがトナカイゴケをすっかり食べてしまうと、ここを引き払って新たな土地へ移る。
トナカイの毛皮とフェルトでふいた茅屋(ぼうおく)がぽつんと立っている。周りには服を干すための雪に刺したさおとかかしが立っており、さおには永遠に乾きそうにない下着が掛かっている。
ミーシャさんは風を避けてたばこに火をつけながら話を続ける。
「スウェーデン人がこの土地を守っていた頃のほうがよかったですね。今は荒廃の一途。ばらばらで闘うのはしんどいです。トナカイは凍えないように自衛のためにも群れの大将が駆けだすとみんなも駆けだし、眠りにつくまで走っています。ばらばらだとみんながしんどいのです」
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