4月24日、シベリアのトゥヴァ共和国の首都クィズィルで、首輪をつけて散歩させられていた生後わずか1ヶ月の子グマが元飼い主の女性から保護された。女性はどこからそのクマを連れてきたのかきちんと説明することはできなかった。最初は知人から贈られたと話していたが、その後は一転してタクシー運転手が捨てていったと言い、それから森で見つけたと話を変えた。おそらくこの女性は密猟に関与しており、雄クマと雌クマを殺害して、子グマをサーカスか動物園に売り飛ばそうとしていたものと見られている。クィズィルにはクマのシェルターがないため、地元のロシア自然利用分野監督機関はソーシャルネットワークを通じて、一時的に子グマを預かってくれる人を探していた。
シベリアで子グマを救った作家で動物愛護主義者のアンナ・アルバーツカヤさん(33)=スタニスラフ・シャホフ撮影
作家で動物愛護主義者のアンナ・アルバーツカヤさん(33)はクィズィル出身だが、現在はサンクトペテルブルクに住んでいる。4月末に彼女は末娘を連れて、残りの荷物と自動車を運ぶため実家に戻った。長年にわたって動物保護団体を率いているアンナさん、この子グマについての一件を耳にし、ぜひ手助けしたいと申し出た。しかも彼女以外に名乗りをあげる者はいなかった。
アンナさんは次のように話してくれた。「数日間、子グマは(クィズィルの)わたしの家中をあっちこっちに動きまわって大変でした。家具も新しくして、家もリフォームしなければなりません。子グマのことはアドゥイグと呼んでいます。トゥヴァ語でクマという意味です」
同時に子グマのために新しい家を探した。問題は、ロシアにはクマのための訓練センターが1つしかなく、しかもそれがトゥヴァとは遠く離れたモスクワの近くにあるということだった。
一方、その頃、ウラル山脈そばのバシキールにある国立公園「バシコルトスタン」では子グマを探していた。というのも同公園には、自ら森を飛び出し、街に出てきた子グマが一頭おり、野生に戻る訓練をするにあたり、もう一頭仲間を見つける必要があったのだという。二頭で訓練した方が早く習得するのだそうだ。トゥヴァとバシキールの自然保護団体は、自分たちのルートを通じて、数日のうちに互いを見つけ、トゥヴァの子グマを国立公園で引き取ることで合意した。アンナさんはアドゥイグを国立公園まで自分で連れていくと申し出た。この2つの場所が遠く離れていることは彼女にとって問題ではなかった。アンナさんは旅行が大好きで、長距離の引越しにも慣れているからだ。移動の準備は入念に行った。アンナさんの知人らが大きな木の檻を作り、道中の食事のためにオートミールやそばの実のおかゆが入った幼児食セットを買い込んだ。出発前にはあらゆる予防接種をし、警察に検査された場合に備えて必要な書類をすべて用意した。
アンナさんはこう話す。「毎日1000キロ走りました。アドゥイグに食べ物を与えるため、3時間ごとに休憩しました。ほぼ全行程にわたって、遠距離トラック運転手の友人たちが2台のトラックで並走してくれました。彼らは道を教えたり、檻を修理するのを手伝ってくれ、わたしたちは彼らの車の中で眠らせてもらったのです」アンナさんは真っ暗闇の中、公園に辿り着いた。この日、彼女はおよそ1500キロを移動し、ぐったり疲れきっていた。子グマたちにはすぐに特別な小屋が用意されたのだが、二頭は出会いのとき、大きな叫び声をあげたという。二頭にとってそれは大きなストレスだったのである。
アドゥイグを国立公園で出会った二頭の子グマは最初、多くなストレスを受けた。=スタニスラフ・シャホフ撮影
国立公園のウラジーミル・クズネツォフ園長によれば、二頭は今後半年かけて、野生の世界でも自分で餌を見つけることができるよう訓練を受ける。
訓練について園長は次のように語ってくれた。「動物が人間に慣れてしまわないよう、二頭の世話をするのは2〜3人だけで、それぞれ顔を覆って、いつも同じ衣服を着て近づくようにします。そしてできるだけ話しかけないよう注意します。子グマたちは人間の話し声を怖がらないようになってしまうからです。野生の世界では声に慣れるのはよくないことなのです。すべてが順調に進めば、8月か9月には二頭を放し、公園の敷地内で生活させることになります」
動物が人間に慣れてしまわないよう、二頭の世話をするのは2〜3人だけで、それぞれ顔を覆って、いつも同じ衣服を着て近づくようにする。=スタニスラフ・シャホフ撮影
アンナさんの話によれば、最初の夜は二頭とも穏やかに過ごし、次の朝には大声をあげたり、喧嘩したりせず、仲良くじゃれ合っていたとのこと。つまりもっとも困難な場面は無事に乗り越えたといえる。
ロシア・ビヨンドのニュースレター
の配信を申し込む
今週のベストストーリーを直接受信します。