児童のスポーツ指導者

イラクリ・ミカラゼさん=ニコライ・コロリョーフ撮影

イラクリ・ミカラゼさん=ニコライ・コロリョーフ撮影

スポーツ選手がチャンピオンとして表彰台に上るまでには長い道のりを経なければならない。将来チャンピオンになれる子供を見つけられるのはどんなコーチか、なぜ世代間のつながりと交流が必須か、今時の子供にはどんな特徴があるか――。児童のスポーツを指導する醍醐味と難しさを、青少年ヨットクラブのコーチ、イラクリ・ミカラゼさんが語ってくれた。

発端 

 イラクリさん自身、8~9歳頃からヨットスポーツをやっているが、いつかコーチになる日が来ようとは夢にも思わなかったという。それが、前の仕事を辞めて、ゆっくり次の仕事を探しながら夏を過ごそうかと考えていたら、友人が電話をかけてきて、ヨットクラブで子供のコーチを探していると伝えてきた。面白そうだったので受けることにしたら――。

 「臨時のコーチが必要だというので行ってみたら、常勤を探していた。ひと夏やってみたら、子供たちを途中で見棄てられなくなって」。こう青年コーチは振り返る。

 「コーチを始めたとき、僕のグループには2人しかいなかったのに、この3年間で何百人もの子供と親たちと付き合うことになった。でも、1週間だけ休暇を過ごしたいとか、2~3日だけかじってみたいというのが多くて、真面目にやってる子は少数だね」 

 

現代っ子 

 イラクリさんは、今の子供たちを教えるのは楽じゃないと言う。一番難しいのは、自主性が欠けていて、スポーツへの取り組みも真剣でない点だそうだ。「僕自身はというと、子供の頃にどこかでヨットクラブのことを耳にして、自分でこのスポーツをやると決めたもんだよ。それで母に付き添いを頼んだんだ。最初の1~2週間は連れて行ってもらったけど、あとは自分で往復3時間の道のりを通った。その点どうも今の子供は自主性がないっていうか…」。こうイラクリさんは現代っ子気質を説明する。

 「あと、かなりわがままだね。今日はこのスポーツをやりたいが、明日は別のがやりたくなり、1週間後には音楽のほうがいいや、となる。8~10歳くらいまでには、非常に多くの子供が数種目のスポーツをかじり、音楽やお絵描きの教室に通い、果てはパラシュートやダイビングにまで手を出すけど、問題はどれも長続きしないことだね。真面目にスポーツをやってる子を見つけるのは今じゃすごく難しいよ」

 イラクリさんは続ける。「今の青少年は努力を要するような事は苦手だね。例えば、ボートに穴が開いたとすると、まず穴を少しほじくり返した後で、塞がなきゃならない。子供たちは穴をほじくるのはいいんだけど、その後が続かないんだなあ」。こうヨットマンは嘆く。

 長続きしないことの弊害として、教育にとても大切な「世代間のつながり」が切れてしまうという。「子供たちは、お互い同士で教え合うのが一番うまくいくんだ。低学年は高学年に、高学年は大人にという具合に。でも、こういう先輩後輩の絆は今はなくなってしまった」 

 

金銭面 

 専ら金銭上の問題もある。仮にトレーニングそのものは無料だとしても、両親はいろいろな出費を覚悟する必要がある。備品、スポーツウェアを買い、試合に出かけるための旅費や参加費を払わねばならない。もし、子供が結果を出せなければ、彼はもっとレベルアップしようという意欲を失ってしまう。

 「ロシアのヨット競技会では、一番大規模なものでも、30~40艘の参加にとどまり、年間数回開催されるだけ。全国規模のレガッタでも200艘どまりだけど、例えば、イタリアのガルダ湖での春の児童大会だと1千艘以上になる。この差は大きいよ」。イラクリさんはこう説明する。

 また、ロシアの競技会では、書類提出などの形式ごとが大量にあって、それに多くの時間と精力を取られると言う。

 「ヨーロッパじゃ、どんな大会だって、チーム丸ごとあっという間に登録できて、船の検査もすぐに終わり、トレーニングに専念できるけど、ロシアの大会じゃ、コーチは子供のことはそっちのけで、一日中申請のために駆けずり回らなきゃならない」。イラクリさんは嘆く。

 もう一つの問題は、新たな備品、とくに船を買う資金が足りないことだ。「10年前に造られた船と去年のそれじゃ、全然違う。子供たちは成績ごとに、同一クラスの新しい船と古い船に振り分けられて、レガッタに出る。もちろん、古い船でも、何もないよりはましで、一応操船は覚えられるが、でもそれだけじゃ、スポーツの発展には不十分だね」と、このヨットマンは言う。

 

安月給 

 イラクリさんは、ほとんどのコーチは安月給だと打ち明けた。コーチの給料と自己啓発の可能性は、彼が働くヨットクラブに依存している。つまり、生徒数とその成果、そして所属年数に左右されるから、しばしば熱意だけ働かねばならないこともある。「コーチたちは、自分の仕事に惚れこんでいるので、生徒が成果を挙げられるように、自腹を切って備品を買うこともある」

 とはいえイラクリさんは、コーチの仕事を辞めるつもりだ。真のチャンピオンを育てて、コーチとして認められるには、あまりにも多くの条件を満たさねばならないからだという。そこで彼は、新たな仕事の傍ら、暇な折に趣味で子供たちをコーチしようと思っている。

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