防空ミサイル・システム「トール」の改良型にできること

Ministry of Defence
 海上の要塞となってドローンからミサイルまであらゆる飛翔体を迎撃することができるようになる。

 ロシアが短距離防空ミサイル・システム「トール」を劇的に改造する。アルマズ・アンテイ社(子会社がトールの製造を担当)が2021年9月初旬に発表した

 同社によれば、「製品の主要な戦闘性能と操作性能をすべて劇的に改良する予定」だ。なお改良の詳細については「国家機密」だとして明かしていない。

 そこで我々は軍事評論家にトールM2の長所と短所を詳しく話してもらった。ロシアの主要な防空システムのどこに問題があるのか、何を今すぐ改良する必要があるのか。

 

改良すべき点 

 目標の一つは、無人機に対する効果を高めることだ。メーカーはすでにトールM2の武装を強化し(専用のミサイルを8発から16発に増加)、極めて小さな飛翔体を検知できるレーダーを開発した。 

 「こうした目的に使うには現在のミサイルは高価すぎる。そこでメーカーは無人機を破壊できる安価な小型ミサイルの開発に取り組んでいる。2020年のナゴルノ・カラバフ紛争では対ドローン兵器が現代の戦争で生き残るために必要不可欠であることが示された」と21世紀技術推進財団発展部長のイワン・コノヴァロフ氏は言う。

 彼によれば、アゼルバイジャン軍はアルメニア軍の装甲車や、ジェット戦闘機や爆撃機を迎撃する防空ミサイル・システムを破壊するのに、爆弾を搭載したドローンを広く使用し、敵を混乱させた。そしてこの戦略は奏功した。

 「この紛争が起こるまで、どの国の軍もその脅威を十分に理解していなかった。今や脅威は明らかとなった。したがってロシアは戦場に現れ得る無人機を無力化する能力を劇的に向上させる必要がある」とコノヴァロフ氏は指摘する。

 「独立軍事評論」紙のドミトリー・サフォノフ編集長も同様の意見だ。

 「最近行われたロシアの軍事演習『ザーパド2021』の重要な課題の一つはドローンを撃ち落とすことだった。ただし今回ドローンを撃ち落としたのはパーンツィリM1の対空機関砲で、軍司令部はその他の短距離防空システム(トールM2など)もこうした目標を破壊できなければならないと述べている」と編集長は言う。

 

他の防空システムでも迎撃できるのに、なぜトールM2でドローンを撃ち落とす必要があるのか。

 トールM2とパーンツィリM1の違いは、前者がキャタピラーを持つ装軌車両であるのに対し、後者が車輪で走る装輪車両である点だ。当初トールM2は進軍中に軍を支援・防御する目的で作られた。装軌車両は地面の凹凸や倒木など、天然のいかなる障害物も乗り越えられるからだ。 

 「演習中、トールM2は障害物を突破して歩兵とともに前線に進んだが、パーンツィリM1は森林を抜けられないため後方で待機しなければならなかった」とサフォノフ氏は指摘する。 

 彼によれば、歩兵に同行して防衛の最前線を進む防空システムは、爆弾を搭載した小さな飛翔体を迎撃できなければならない。ドローンがクラスター爆弾を持つ場合はなおさらだ。

 

現時点での成果

 トールの改良版の一つはすでに公開されている。これはモジュール式の兵器で、車体とミサイル発射装置は分離可能だ。レーダーを内蔵した発射装置はいかなるプラットフォームからでも空中の標的を迎撃できる。

 「国防省はすでにトールを最新の戦艦に載せて試験している。トールの上部モジュールをヘリポートに設置し、海上の飛翔体を迎撃できるか試した。私の知る限り、将校らは試験結果に満足していた」とサフォノフ氏は話す。

 

外国のライバル

 専門家によれば、トールM2に相当する外国の兵器は存在しない。

 「トールM2は周囲360度の標的を迎撃できるが、ライバル(例えば米国のパトリオット)は180度以内の標的しか検知できない」とコノヴァロフ氏は言う。 

 ただし彼は、パトリオットの方が射程が大きく(最大180キロメートル)、トールM2は16キロメートル以内の標的しか迎撃できないことも指摘する。

 「同時にトールは機動性で勝っており、移動しながら標的を仕留めることもできる。一方でパトリオットは戦闘準備のために停車する必要がある」と同氏は締め括る。

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