ソ連とロシアで開発された医療機器、フィットネス器具

テック
アレクサンドラ・グゼワ
 ソ連では多くの人々が健康的な生活を送っていたが、医療に対しては特別な考えを持っていた。そして当時、いくつもの器具が考案、開発されたが、そのうちの多くは今でもよく使われている。

1. クズネツォフの針マット

 ロシアでは、リフレクソロジーや「針」に親しみがあり、一般的な病院でも、肩や背中に痛みがあるとき、物理療法の一環として、そうした治療法が指示される。しかし、そうした治療を家庭でできるものがある。1980年代末から1990年代半ばにかけて、誰も皆、夜になると有名な「クズネツォフの針マット」の上に横になった。現在、この刺激マットはスポーツ選手、ヨギーニ、そしてスターたちの間で人気となっている。

 このマットは筋肉痛を和らげ、血行を良くし、不眠症にも効くとされている。現在、この「針」はマットやクッション、ローラー、あるいはベルトとして売られている。

 イワン・クズネツォフはチェリャビンスク出身の音楽教師であった。1980年代に、中国の鍼を学んで、この「針マット」を考案した。最初のマットは本物の縫い針を使って作られた。熱狂したクズネツォフは特許を申請したが、ソ連保健省は彼を狂人扱いした。そこで彼は自ら、病人の治療を行い、その成功について、まるでがん患者を治療したかのように記した新聞を発行した。そしてその後、何度も保健省に申請を出し、ついにこの「針マット」に特許が下り、大量生産されるようになった。

 一方、クズネツォフは悲劇的な運命を辿った。広められている情報によれば、1990年代にこの「針マット」の特許権を買おうとした何者かが、クズネツォフにそれを拒否されたため、妻を人質に取り、殺害した。そしてクズネツォフ自身は、新たな発明品である真空の宇宙服の実験中に死亡した。

2. イリザロフの創外固定器

 幼いフォレスト・ガンプが特殊な脚装具をつけて歩いていたのを覚えているだろうか?ソ連のイリザロフの創外固定器はまさにあのような形をしている。この固定器には2つの重要な機能がある。骨と軟部組織に持続的な力を加えることで組織を延長させること、そしてさらに重要なのが、骨折した骨を延長させることである。

 この器具を骨に装着すると一定の圧力が加えられ、骨の組織をはるかに早く延ばし、複雑な骨折もギプスを使うよりかなり短期間で治すことができ、またギプスでは治すことができない粉砕骨折の治療にも使うことができる。

 この奇跡のような器具は1947年、クルガン出身のソ連の外科医、ガヴリイル・イリザロフが自身の方法論を用いて開発し、イリザロフは第二次世界大戦で障害を負った人々の治療に尽力した。イリザロフはこの発明により、数え切れないほどの賞を受賞し、また「整形外科学のミケランジェロ」との異名をとった。

 ソ連では、このイリザロフ法を基に、多くの人が、脚、手首、顔面骨のための器具を発明した。イリザロフの創外固定器はロシアの現代医療においても積極的に取り入れられている。

3. ミーニンのリフレクター 

 人々の間で「青いランプ」と呼ばれた器具。1990年代のソ連を経験した人々なら、このランプがどの家にもあり、副鼻腔炎から、耳炎、擦り傷、切り傷、関節炎まで、ありとあらゆる病気やけがを治してくれたことを覚えているだろう。この魔法のような医療器具は、ただ患部の近くに赤外線を当て、温めるというものだった。ランプが青い色をしていたため、熱くならず、触れても安全で、血圧を下げたり、神経系を落ち着かせたりと多くの効能を持っていた。

 この器具は19世紀にミーニンという軍医によって考案されたと考えられている。ミーニンは青い光線を使って痛みを緩和することを発見し、ランプは歯科治療で麻酔の代わりに使われるようになった。

 現在、このランプは使われなくなっており、研究者の間でも、青い光線の効能は認められなくなっている。それでもこのランプは今でも製造されている。デザインもソ連時代のオリジナルのままである。

4. 超音波治療器「レトン」

 関節炎から乾癬まできわめて幅広い疾病を治してくれる小さな医療機器。軟部組織に超音波を当てて治療する。また、軟膏などを塗布するときに使うと、マイクロ振動によって、薬が皮膚の深部にまで浸透すると考えられている。超音波の照射は弱く、一点集中的に照射する。 

 興味深いことに、「レトン」の歴史は洗濯機の発明に端を発する。と言っても、普通の洗濯機ではなく、超音波洗濯機である。1998年、トムスク制御システム・無線工学大学のワレリー・ズャチコフ助教授は自身が発明した洗濯方法の特許申請をした。容器に衣類を入れ、水を注ぎ、超音波機器に入れるというものであった。この機械の開発に成功した助教授は、その後、医療器具を開発したのである。

企業は現在に至るまで成長を続け、数年前には磁気治療と赤外線治療の機能を搭載したいわば“3イン1”のアップグレード版を製造している。

5. 健康ディスク「グラーツィア」 

 実際に誰がこの天才的にシンプルなトレーニング機器を発明したのかははっきりしないが、ソ連時代、どの家庭にも必ずあったことは確かである。インターネットにある、ソ連時代に育った人々の掲示板では、この丸いディスクで目を回したことがネタになっている。大人たちはこのディスクを使ってトレーニングをしていたが、子どもたちは大抵、ただこのディスクの上に座り、ものすごいスピードで回転していたからである。 

 ディスクは2枚の金属製の板が重なった構造になっており、下の板を床に固定すると、上の板は軸を中心に回転する。フィットネスというものがなかったソ連の人々はこの回転盤を使ってありとあらゆる運動をした。とくに多かったのが、ウエストを細くするために腰を回転させる運動。また姿勢をよくするためにも使われた。使用説明書には多くの運動例が掲載されていた。またこのディスクを使って平衡感覚を鍛えることもでき、パイロットや宇宙飛行士になることを夢見ていた多くの人々がこれを使ってトレーニングを積んでいた。

 このディスクは最近、ふたたび人気となっている。プラスチック製のものなど、新しいモデルのものも製造されているが、ソ連の金属製の“ホンモノ”が気に入っている人が多いようだ。レトロ版のディスクはオークションサイトなどで販売されているが、1980年のオリンピック開催に合わせて販売された限定版はとくに貴重なものとされている。

6. アルマグ  

 この医療器具は磁気による物理療法を用いたもので、2000年代初頭にリャザンの医療器具工場エラメドで考案された。上に挙げた医療機器の中でも高級なものと考えられている。値段も一番高い。

 メーカーによれば、この器具の磁場は関節炎、ヘルニア、痛風、脊椎側湾症、そして骨折にも効く。また浮腫をとったり、痛みを緩和することもできる。

 器具はベルトのような形をしており、そこに磁気のコイルが紐で固定されている。医師が一般治療に加えて、これを使った物理療法を指示する場合もある。しかし、ロシア人の多くは、この器具にそれほどのお金を使う意味があるのか疑問視している。ネット上では、アルマグとレトンのどちらが有効かという議論がよく交わされている。

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