モスクワから車で数時間のところにあるタルスという小さな町に、「ロバエフ・アームズ」という看板の掛かった一階建ての小さな建物がある。一見何の変哲もない建物だが、中には世界で最も強力なスナイパーライフルの一つを製造する工場がある。
ここで2020年6月初旬、世界初の有効射程6~7キロメートルのスナイパーライフルの製造が始まった(現在世界記録を持つ小銃SVLK-14Sスムラクもロバエフ・アームズ社製で、記録は4217㍍)。新兵器の名称はDXL-5で、人間が起立した状態で見ることのできる地平線を越えて敵を仕留めることのできる唯一の銃となる。
ライフルの開発者ヴラド・ロバエフ氏によれば、高さ10㍍ほどの小さな丘か二、三階建ての建物に上るだけで、11キロメートル余りの視界が得られるという。視点が上がるほど、地平線も遠くなる。
DXL-5について分かっていること
DXL-5は、威力の大きさから「スムラク」(「薄明かり」の意)と名付けられたSVLK-14Sのアイデアと技術とを発展させたものだ。
「この銃はフェラーリやポルシェの車と同じく、高性能ライフルの真価が分かる人、遠距離射撃の腕を競うプロのスナイパーのために一つひとつ個別に作られてきた」とロバエフ・アームズの技術主任、ユーリー・シニチキン氏はロシア・ビヨンドに語る。
スムラクの使用弾薬は408 CheyTac弾(10.3mm)で、弾丸の初速は秒速900㍍以上だ。 一方、DXL-5用に火薬を増やした新弾薬が開発されており、弾丸は音速の5倍以上で飛んでいく(秒速1500㍍以上)。
このような実包が求められる理由は単純だ。弾丸の速度が秒速900㍍だと、7キロメートル離れた敵を仕留めるのに8秒かかる。敵は悠々と逃げ、コーヒーを沸かす余裕さえある。そこで新たな高精度ライフル用に弾丸を最低でも秒速1.5キロメートルで飛ばす実包が必要となったのだ。
「この弾薬の威力は、厚さ3センチの金属製のレールを貫通するほどだ。このような弾丸が敵に当たったらどうなるか。どんな防弾チョッキも無意味だ」とシニチキン氏は話す。
将来の弾薬は、防御レベル6の頑丈な防弾チョッキを着た敵を倒すことを想定している。こうした防弾チョッキを貫けるのは、第二次世界大戦中の対戦車ライフル(例えば、14.5 mm口径のシノモフ式自動装填対戦車ライフル)か、威力ではそれに匹敵するが、射程と精度の点で劣る種々のライフルくらいだ。
世界記録を更新すべく開発中のDXL-5は、一丁ずつ製造される。歴史ある高級車同様、コレクションの対象となるだろう。量産型も射程約5キロメートルの超遠距離射撃モデルだ。
「国が兵士に2~2.5キロメートル離れた敵を仕留める技術を身に付けさせるのには、最低でも二、三年かかる。我々のライフルは、これほど離れた敵を撃つことを『ごく普通のルーティン』にし、その作業をあり得ないほど簡単にするだろう。プロの仕事をより効果的かつ簡単にすることこそ、このプロジェクトの要点だ」とヴラド・ロバエフ氏は語る。
同氏によれば、新型コロナウイルスのパンデミックによる外出自粛令の影響で、新型のDXL-5の工場での試験は2020年秋から同年冬に延期されたという。新ライフルの性能が証明されれば、試験に特別委員会が招かれ、記録を確認する。
ちなみにロバエフ・アームズの武器開発は機密扱いではなく、AK-12と違って個人で入手でき、どんな部隊の兵器としても採用できる。軍用DXL-5の概要や、国外から注文した場合の価格が明らかになるのは、2021年初めの科学研究と軍事試験の結果が出てからだ。