モスクワから車で数時間行った所にタルスという小さな町がある。ここに「ツァーリ・プーシカ」と書かれた看板の掛かった一階建ての小さな建物がある。この建物は目立たず、一見特に注目すべき点はないように思える。だが、建物の中には工場があり、ここで世界最大級の威力を持つライフルが製造されているのである。
この企業はロシア初の民間兵器会社である。面白いのは、兵器設計主任として会社を率いるヴラド・ロバエフ氏が射撃技術と銃器の製造法を学んだのがロシアではなく米国だったということだ。米国で彼は工場に必要な設備を数百万ドルで購入した。
「理由は至って簡単だ。米国には兵器をライセンス生産している民間企業が数百社ある。したがって、米国は世界で最も発展した兵器市場だ。そのため、プーチンの護衛スナイパーの一部が使用している『ツァーリ・プーシカ』のライフルの一部は、米国のノウハウを利用して作られている」と有限会社KBISの技術主任、ユーリー・シニチキン氏はロシア・ビヨンドに語る。
彼によれば、同工場が作った中で最も強力な銃がSVLK-14Sだ。この銃はその威力の大きさから「スムラク」(「薄明かり」)という愛称で呼ばれている。
「この銃はフェラーリやポルシェの車と同じく、高性能ライフルの真価が分かる人、遠距離射撃の腕を競うプロのスナイパーのために一つひとつ個別に作られてきた」とシニチキン氏は続ける。
使用弾薬は408 CheyTac弾(10.3mm)で、弾丸の初速は秒速900メートル以上だ。
「この弾薬の威力は、厚さ3センチメートルの金属製のレールを貫通するほどだ。このような弾丸が敵に当たったらどうなるか。どんな防弾チョッキも無意味だ」と技術主任は指摘する。
しかしこのライフルは、高級車と同じく、戦闘任務をこなすために開発されたのではない。射程距離と集弾率を高めるため、設計者らはトリガー・ハンマー機構を作る際に可動部品の数を極限にまで減らし、マガジンもなくした。したがって同銃の装弾数は一発だ。
「スムラク」の特徴の一つが、純度の高いアルミニウムでできた約1.5メートル(1430ミリメートル)の重い銃身だ。マイナス40度からプラス65度までの気温の差に左右されることなく正常に機能する。この銃身によってライフルは相当の威力と重量を持つことになった(重量は9.6キログラム)。
「2種類のマズルブレーキが設計されており、射撃時の反動を快適なレベルにまで抑える。同口径のライフルのうち、中級の射撃手が健康に問題なく一日に150~200発撃てる銃は世界に一つもなかったが、これが「スムラク」では可能となった。ストックの形状は古典的だが、部品を極限まで減らした点に大きな特徴がある。余分なものは一切なく、最大限の射程距離と精度だけが追求されている」とシニチキンは話す。
このライフルを持って森を走り回ることはできないが、世界で初めて4200メートル先の標的を仕留められる。9月末にロシアのスナイパーがこれを実現し、遠距離精密射撃の世界記録を樹立した。
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