自動運転車がモスクワの公道に登場

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 ヤンデックス社が自動運転車の大群を作り出した。人間から必要とするのは燃料だけで、他のことは自分でできる。

 ロシア最大のIT企業「ヤンデックス」が作る自動運転車は、ロシアの道をすでに100万キロメートル走行している。自動運転の直近の未来はタクシー業だ。人が運転を忘れて移動を楽しめるようになるのがいつか、我々は知っている。

ヤンデックスの自動運転車はどのようなものか

 ヤンデックスの自動運転車の大半が、ハッチバックのトヨタ・プリウスをベースにしている。路上では、鮮やかな赤と白のボディーカラーで簡単に識別できる。ヤンデックスが購入しているのは、2014年~2017年に販売された中古のオートマチック車だ。現時点で同社は約90台を保有しており、うち50台がすでに自動運転車に改造されている。

 「改造には数日しかかかりません」とヤンデックスの自動運転車の広報代表、ユリア・シヴェイコさんは話す。「2021年末までに、こうした自動車は1000台ほどになるでしょう。」 このような数値目標の達成のためには、メーカーとの協力が欠かせない。そのため、今春ヤンデックスは現代(ヒュンダイ)自動車の子会社で、部品交換やメンテナンスを担当している現代モビスと自動運転車開発の契約を結んだ。すでにセダン車のソナタの自動運転車が一台完成しているが、ヤンデックスはオフロード車やマイクロバスなど、さまざまなタイプの自動車を製造する考えだ。 

 自動車それぞれに名前がある。最近までは、「ワイアット」「ブライアン」「クリストファー」「ドロレス」など、ロボット・アンドロイドを主題とするテレビドラマ『ウエストワールド』の登場人物に因んで名付けられていた。「しかし最近登場人物の名前が尽きてしまい、技術者らは特別なニューラルネットワークを考案して既存の名前に似た新たな名前を生成することを学習させました。つまり、今ではロボットがロボットのためにロボットの名前を考え出しているのです」とユリアさんは話す。

 

どこを走っているのか

 ヤンデックスが自社の自動車を試験しているのは、タタールスタン共和国、モスクワ、イスラエルのテルアビブだ。初め自動車の試験はモスクワ郊外の閉鎖的な演習場で行われていた。演習場は街を模倣しており、トンネルや信号機、さまざまな道路状況を再現している。そこでは自動車は自動運転モードで24時間走行しており、人のもとに立ち寄るのは燃料が尽きかけた時だけだ。現時点では自分で給油することはできないが、これも時間の問題だろう。これは(広く受け入れられている自動車技術者協会(SAE)インターナショナルの分類では)5段階ある自動運転レベルのうちレベル4に当たり、人間は緊急事態にしか必要とされない。 

 ロシア当局は2018年秋に自動運転車の実際の道路の走行を許可した。この許可を得るためには、長い国家認証手続きを経る必要がある。ヤンデックスの50台の自動車のうち、許可が下りたのは今のところ35台だ。原則として、技術者(品質保証エンジニア)が走行中常に運転席に座り、運転を引き受ける準備ができていなければならない。 

 最初に自動運転車が走り始めたのは、交通量の少ないスコルコヴォ(モスクワ州)とインノポリス(タタールスタン共和国)だ。まさにこのインノポリスで、ヤンデックスは2018年8月にヨーロッパ初の自動運転タクシーを始動させた。希望者は誰でも、ロシア人なら皆が知っているアプリケーション「ヤンデックス・タクシー」を使って完全に無料で呼び出すことができる。営業範囲は今のところあまり広くないが、サービスは活発に発展している。2019年夏の初めには一台しかなかったが、秋には7台になる。ちなみに、他の試験都市とは異なり、インノポリスでは運転席は空いており、技術者は助手席に座っている。 

 モスクワでは、2019年夏からメトロのクンツェフスカヤ駅の周辺、中心部のいくつかの通り、ブトヴォ、ヤセネヴォ、コムナルカなどのベッドタウンで自動運転車の試験が行われている。ヤンデックスは、サンクトペテルブルクやニジニー・ノヴゴロドなど他の都市にも自社自動車を投入することを計画している。

ラスベガス

 2019年1月、ヤンデックスはラスベガスで開かれた展示会「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」で自社製自動運転車を披露し、米国で購入したプリウスから自動運転車を作ってみせた。ネバダでの走行を教えるのには2週間を要した、とヤンデックス自動運転車販売促進部長のアルチョム・フォキンさんは言う。「ルートを作成してみて、大胆にも技術者を運転席から助手席に移動させられると判断しました。試乗希望者はたくさんいました。自動運転車は毎日10時間動いていました。」

イスラエル

 2019年6月、自動運転タクシーがイスラエルに上陸し、試験モードでテルアビブを回った。モスクワと同様、ここでも必要に応じて運転を引き受けられるよう運転席に技術者が座った。必要に応じて、というのは障害物の回避ではない。路上の窪みや他の自動車などの障害物は、自動運転車は容易に回避できる。実は、ロボット運転手の大原則は、道路交通規則の厳格な遵守である。もし規則を破らずに運転し続けることができないとなれば、自動車は停止してしまう。

 「例えば、前を走る自動車が故障し、それを追い越すために対向車線に出なければならないとしても、自動運転車はそうしません。ルール違反だからです」とユリアさんは言う。こうした場合には、運転を代わる技術者が必要です。」

 

ロシア製自動運転車の特徴

 技術的には、世界の自動運転車は多かれ少なかれ似通っている。一秒間に数十回300メートル先までの空間をスキャンするセンサー、カメラ、ライダー(距離測定器)を搭載している。自動車はこうして空間の中での他の物体に対する自分の位置を特定し、道路状況に応じて修正を加えながら最適なルートを選択する。

 最も興味深いのはここからだ。自動運転車はすべての道路交通参加者の動きを予測する必要がある。歩行者は通りを横断するだろうか。この自動車はウインカーを出さずに車線変更をするだろうか。さらに重要なことに、一台の自動車の軌道が別の自動車にどう影響するだろうか。熟練ドライバーは路上での出来事の展開を予測できるものだが、自動運転車もまた何万キロメートルも走行し、行動パターンのデータベースを構築することで、人間同様の経験を積まなければならない。

 ヤンデックス関係者は、自分たちが開発しているのは「例えばテスラ(Tesla)が開発しているような自動運転手補助システムではなく、まさに自分で判断のできるロボット運転手だ」と強調する。まさにこのために、彼らはさまざまな道路条件・気象条件で自動運転車を試験しているのである。ヤンデックスの自動運転車の唯一の事故は、2018年7月にモスクワ中心部のトルベツカヤ通りで起きた。不注意な運転手が自動運転車に追突したのだとユリアさんは言う。この事故では、「賢い自動車」の後部、つまりバンパー、リアフェンダー、トランクが損傷した。

 2年間でヤンデックスは自動運転車を100万キロメートル走らせた。これほどの数字を誇るのは、米国のウェイモ(Waymo)とウーバー(Uber)、中国のバイドゥ(百度)だけだ。ロシアではヤンデックス以外に、モスクワ自動車道路技術大学、ロボット技術を専門とする「アヴローラ」設計局、トラックメーカー「カマズ」、インノポリス大学研究室、タガンログ大学が独自の自動運転車を試験しているが、今のところ本格的な成果は出せていない。個々の試作品があるだけだ。

 

利益はあるのか 

 ヤンデックスの広報によれば、今後5年間で自動運転タクシーの機能をロシアのさまざまな都市で始動させる計画で、二、三年後にはモスクワのさまざまな地区に登場する可能性がある。

 「運賃は安くなるでしょう。週休0日で24時間働き、運転手に給料を払う必要がないからです」と同社の関係者は話し、自動運転車の価格自体が2年間で3分の1になったと強調する。「2017年に始めた頃は、最初の自動運転車は950万ルーブル(1600万円)[ベースとなる自動車本体の価格を含む――編集部註]でしたが、現在では650万ルーブル(1090万円)[ウェイモもほぼ同額を費やしている――編集部註]です。装置は安くなっています。例えばライダーは、10万ドルというとてつもない値段でしたが、現在では価格は5分の1になり、さまざまなメーカーのものを試すことができます。」 ヤンデックスは投資総額を明かしていないが、最も費用をかけているのは技術者・開発者の給料だという。またヤンデックスは、ロシアに米国のセルフ・ドライブ・アクト(自動運転法)のような、自動運転車での旅客輸送に対する法的規制が現れることを待ち望んでいる。 

 UBS銀行の最近の研究によれば、2030年までに自動運転分野でのヤンデックスの事業は64億ドル以上相当になり得る。UBSの専門家らは、自動運転を用いて旅客輸送だけでなく貨物輸送も発展させ、いずれにおいても市場を独占する可能性があると考えている。「プロジェクトが成功すれば、ヤンデックスは格段に大きな企業となり、2030年までに売上高は自動運転車の商用利用を開始した最初の年と比較して85パーセント増加するだろう」と報告書には記されている。しかも、2030年までにロシアにおける自動運転交通市場全体の規模は、商用自動運転貨物輸送を始めた場合は95億ドル、それがなくとも40億ドルになると見積もられている。

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