ルーブル安でもおとなしい国民

画像:コンスタンチン・マレル

画像:コンスタンチン・マレル

2014年初めからルーブル通貨が半落し、その分貧しくなってしまったロシア社会。大きな社会不安や革命ムードが起こってもおかしくはない。だが落ち着いている。なぜなのか。

 為替戦場の最前線から「速報」ニュースが到着すると、あたかもロシア国民の誰もがルーブル騰落劇を注視しているように思えてしまう。1日で10%、20%の変動があるというのは、世界の多くの国にとって異常危機であろう。それに続くのは政府の退陣や社会不安だ。

 海外からは、ロシアでもそろそろこれが起こるように見えるかもしれない。貧しくなったロシア人(対ドルで半減)はデモを始め、政府の求心力は急落し、人事が変わると。だがロシアでは、「異常危機」が起こり、ニュースで実際にそのような言葉が使われたとしても、現実に応じて話半分ないしは1割程度に聞く必要がある。国は大きく、すべてのプロセスの惰性はもっと大きくなる。

 ソ連崩壊後の困難な経験を思い出すとよくわかる。1998年のルーブル急落はより規模の大きいものだった(現状は1998年よりもはるかに良好)。最近では6年前に起きた(リーマンショック)。だがいずれも、これといった社会的反乱、政治的反乱には発展しなかった。もっとも反政府派が今ほど強くなく、また組織だっていなかった時で、反対デモも実施しにくかったが。

 

がまん強い理由は 

 さて、国民の忍耐力には複数の理由がある。

 何よりも国民の大部分がルーブル領域で暮らしていて、外貨預金とさえ無関係であること。国民の国内銀行における預金総額は、現時点で16兆8000億ルーブル(現在の為替レートで約33兆6000億円)ほど。劇的な2014年、預金額は減少したが、総減少率は今年前半を上回るものではない。夏には資金が戻り、第1次ショックはほぼ補われている。2014年を通じて外貨両替への殺到も見られなかった。

 大きな預金額を握っているのが比較的少数の国民であることを勘案するのも大切である。ロシア人の大部分、すなわち71%には、預金がない(「全ロシア世論研究センター」の今年初めの調査だが、景気後退の現状からこの割合は増えていないだろう)。銀行預金(給与振り込み口座は除く)は国民の10%が握っているものだ。平均的なロシア人にとって「貯蓄」の定義は、25万ルーブル(約50万円)という少額から始まる。その多くがタンス預金である。外貨預金を行っているのは、さまざまな調査から、国民の4~7%ほど。

 国民はルーブルの対ドル・レートには関心を持っている(国民の半数以上がレートを見ている)。だが誰よりも影響を受けるのは「贅沢に慣れたモスクワっ子」か、あまり国内では好かれていないお金持ちである。海外旅行の観点からしても、直接的な影響は限定的である。パスポートを持っているのは国民の15%で、そのほとんどは年に1回トルコまたはエジプトに行く程度の人。欧米にひんぱんに旅行している国民は3~5%で、そのような人は大概、外貨リスクを最小限に抑えることができ、大騒ぎしない。

 レートの急激な変動は物価に影響をおよぼすし、今後数ヶ月はそれが顕著になるであろう。だが対ドルのルーブル10%安はインフレの1%増であり、それ以上のインフレは、多様化不十分で独占化が著しくまた競争力の低いロシア経済そのものに依存する。20~30%の物価上昇が起こっても、ロシア人はやはり表で騒がない。危機に慣れっこなのだ。

 

プーチン人気 

 今回のもうひとつの特徴と言えば、欧米との対立を背景とした、大統領と政府に対する国民の厚い信頼である。多くの国民はロシアが最初から正しいと考え、ロシアに対する非難は不公正だと信じている。あくまでも「クリミアは我々のもの」なのだ。ロシアの世論調査機関「レバダ・センター」が11月末に行った調査によると、ロシア人の80%強が大統領を信頼している。この1年で1.5倍も増えている。信頼できないと答えた人は、1年で12%から4%に減った。以前とは異なり、大統領に対する信頼の高まりに、政府機関に対する信頼の高まりもともなっている。ウクライナ情勢という条件の下、ルーブルの劇的な急落さえ社会不安を引き起こさないほど、政府への信頼は強いのである。