成功を約束された露日首脳会談

ニヤズ・カリモフ

ニヤズ・カリモフ

4月28~30日に、安倍晋三首相がモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談する。日本の首相の公式訪問は10年ぶりだ。この訪問は、露日関係において多くの点で画期的なものとなるだろう。

内外の情勢がプラスに作用 

 ここ1年の北東アジア情勢が、会談の雰囲気に好影響を与えている。北朝鮮の核開発の進展と核兵器使用の危険とがあいまって、ロシアと日本は関係強化の必要性を感じ始めた。

 南シナ海および東シナ海における領土問題も影響している。これらの問題はロシアの国益に直接関わるわけではないが、領土問題が紛争に発展する事態は避けたいところで、ロシアは日本同様に、6カ国協議の復活など、対話のフォーマットを構築することを望んでいる。だからロシアにとっては、この問題でも日本が戦略的パートナーであることが重要だ。

 一方、中国および韓国と領土問題で激しく対立している日本にとっては、ロシアとの領土問題をめぐる状況が安定し予測可能であることが肝要だ。ロシアは、日本が“四面楚歌”を脱するのを助け、“良き審判者”として振舞い、一方の安倍首相は、領土問題を抱える国とさえ、情に流されずに関係を発展させられることを世界に示したいと思っている。

 もう一つ、会談にプラスに作用しているのは、政治的安定だ。露日両国とも選挙が終わり(露大統領選と衆院選)、今や重要な文書を採択して二国間の将来の戦略を決められる状況になった。

今度の首脳会談は、指導者間の個人的関係を固める点でも重要だ。ロシアでも日本でも、指導者の個人的創意による外交が巨大な意義を持ち得ることは歴史が証明済みだ。また、訪問により両国のイメージがそれぞれ改善される可能性があり、これはしばしば、会談後に採択される文書の中身よりも大事なことがある。

 

何といっても天然ガス 

 もっとも今回の会談にはこうした一般的な事柄にくわえて、具体的な狙いがある。ロシアにとってそれは、天然ガスの分野での協力だ。総額400億ドル(約4兆円)近くに上る一連のプロジェクトについて、その技術と資金をどうやって確保するかは頭の痛い問題だ。

 このプロジェクトは具体的には、サハ共和国とイルクーツク近郊でのガス田開発、東シベリアからウラジオストクに至る総延長3200キロのパイプライン建設、そしてウラジオストク近郊の液化天然ガス(LNG)生産工場(年産1500万トン)の建設だ。

 この工場は2018年竣工の予定で、今年2月には建設プロジェクトがいよいよ実行段階に入っている。原料のガスは、上記のガス田のほかサハリンのそれを用い、市場はアジア太平洋地域になるが、なかでも日本は特別な位置を占めている。

 ガス市場では長年にわたる契約を結ぶので、供給者と消費者の信頼関係がとくに大切になる。今回の首脳会談はこの点でも重要だ。

 パイプライン沿いにコージェネレーションシステムを複数導入し近隣住民向けに電気と熱源を供給するプロジェクトもあり、それに日本企業が参加する覚書も交わされる見込み。

 露側は、ガス分野での協力を首脳会談での主要議題の一つとみなしている。その証拠に、最近、天然ガス独占企業「ガスプロム」の日本関連の活動はかつてないほど活発で、4月17日にはアレクセイ・ミレル社長が日本を訪れ、ウラジオのLNG工場の経済、技術面、また竣工後の日本向けガス輸出拡大などについて日本側と話し合っている。

 

領土で速やかな進展は望み薄だが・・・ 

 露側は、金融、自動車、化学、農業、医療などの分野での日本からの投資にも関心を抱いており、日本の農業法人に極東の耕地を提供する用意がある。これは、いわゆる食料安全保障問題の解決に向けての露日共同プロジェクトだ。日本市場へのロシア産小麦、大豆その他の作物の輸出も話し合われている。

 他方、参院選を控えた日本側は、領土問題に関する交渉を“死点”から動かして、支持率上昇につなげたい。露日双方の立場は大きく隔たっているので、本質的な進展は望み薄だが、領土問題についてのロシア側の立場は注目に値する。露側は、ラヴロフ外相の口を借りて、交渉再開について同意しており、しかも、対話なくしては良好な二国間関係を保つのは困難だ、と表明している。

 もちろんこれは、「領土と引き換えにガスの契約」といった単純な話ではなく、経済協力に新たな弾みをつける条件を整備するということだ。

このように、今度の首脳会談は、成功を“約束”されており、露日関係に残るものとなるだろう。両国は過去において、良好な関係からどんな果実が生じるか実感している一方、近年の関係悪化から何が生じたかも身にしみている。両国指導者の努力により新たな潜在的可能性が生まれ、それがごく近い将来に完全に実現されると期待される。

 

ドミトリー・ストレリツォフ、モスクワ国際関係大学教授

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