公現祭の寒い日に氷水に飛び込む

 公現祭の日に凍てつく水の中に浸かったロシア・ビヨンドの記者が、そのときの様子について語ってくれた。これは豪快なロシアの気晴らしではなく、ルーシ洗礼の時代から知られる健康法の一つである。

ーちょっと、おじさんたち、水は温かいかい?

ー温かいなんてもんじゃない。熱いくらいだよ!!やけどしそうにね!

 わたしたちは、男性たちが水に入る前に服を着替える大きなゴム製のテントの中にいた。公現祭という祝日に冷たい水に浸かるという、古代から受け継がれるロシアの古い伝統に従ってみようと思ったのは初めてのことである。ロシア正教徒たちは、この夜、すべての貯水池の水は聖なるものとなり、すべての病を治癒し、心を癒してくれると信じている。わたしが友人としようとしていることは、他人から見れば、危険なことに見えるかもしれないが、まもなく、わたしたちは凍てつく水に浸かることは恐ろしいことではなく、楽しい冒険であることを理解した。 

 その夜の気温はマイナス3〜10℃で、わたしたちがモスクワのゴロヴィンスキー池のほとりに着いた午前0時には鼻が痛いくらいの寒さであった。まず頭に浮かんだのは、身体を温めるためにお酒を飲まなければいけないということ。しかし、水に浸かる前にお酒を飲むというのは限りなく愚かな考えである。お酒で温まった身体は、気温差の大きさに強い負荷を受け、心臓に大きな負担がかかるのである。そこで、一般的なステレオタイプに反して、人々が浸かる水の近くには酔っ払いもいなければ、お酒を飲んだような人もいない。さらによく観察してみると、公現祭のこのイベントはまったく異なる様々な人を結びつけている。

 わたしたちが水に浸かった場所は、その地域の人々のためのものである。集まったのは、意味ありげなタトゥーを入れた、少し髪の薄い中年のパリピ、もうすっかり眠たいのに有無を言わさず連れてこられた小さな息子を連れた白髪のインテリ男性、そしてスポーツマン風の15歳の孫を連れた体格のよい男性。男の子はいやいや服を脱いでいたが、男性に携帯で動画を撮影され、「やめてよ、カメラはしまって!寒いよ!」と文句を言っていた。またあまり裕福そうには見えない夫婦は、明らかに初めてではないように見えた。水に浸かるのは無料だが、そこから得られるメリットはお金では買えないものである。また自分たちは水には浸からないが、若者たちの姿を楽しむためにやってきたという老夫婦もいた。

 不思議なことに、凍りついた十字架をバックに自撮りをする女性インスタグラマーはここにはいなかった。やってきた女の子たちは皆、他の人たちと同じく、水に浸かるのが目的であった。というのも、これは体調を整えるためにも、お肌のためにも、とてもよいからである。水に浸かっていた女性は皆、美しいスポーツウーマンたちで、インスタグラムやSNSは関係ないという人ばかりであった。しかし、わたしたちはその女性たちに見とれている暇はなかった。わたしたちは水に浸かりにきたからである。

 その代わりに、集まった警官の数は、水に浸かりに来ている人と同じくらいであった。加えて、非常事態省、救助隊の職員の姿もあった。警官が言うには、「酔っ払いが池に入らないよう」見守っているのだそうだ。

ー 昨年に引き続き、今年もここで見張りをしています。整備されていない場所で水に浸かる人が出ないよう監督しているんです。でないと、わたしたちが彼らを水の中から引っ張り出すことになるのでね。

 しかし、その夜、警官たちは水に浸かる人々を羨ましげに見ながら、どうやら退屈していたようだ。おそらく彼ら自身も水に浸かりたかっただろうが、足をこすり合わせながら凍えていた。驚くべきことに、酷寒の中では裸でいるよりも、服を着て立っている方が寒いのである。

 わたしたちが実感したのは、公現祭の日に水に浸かるという伝統の大きな秘密はここにあるということである。ダウンコートとセーターを2枚脱いで、スリッパを履き、ガウンを着て氷の上に立つと、自己防衛機能が働くため、寒さなど感じなくなり、今から水に飛び込むぞ!というどこか愉快な気持ちになるのである。水の中から出てきた人たちは、男性も女性も、少し赤い顔をして、微笑みをたたえており、わたしのワクワク感をさらに高めてくれた。 

 準備された水の入り口にどうやって立ったか気づかないまま、わたしは胸の前で大きく十字を切り、決まりに従い、3回水に浸かった。

 驚いたことに、水の中からすぐに出たくない気持ちになった。本当は、次の人に場所を譲らなければならなかった。身体からは湯気が上がり、頭は冴えわたった。

ー ほんとにすごい!!

 わたしたちのすぐ後に水から出てきた50歳くらいの痩せた金髪男性は誰にともなくそう言った。 

ー 生まれて初めてチャレンジしたよ。

 わたしもまったく同じ気持ちだった。そしてなぜ男性たちが、みんな「水が熱い」と冗談を言っていたのかもすぐに分かった。水に浸かっているとき、水は本当に焼けるように熱く感じられたのである。そしてその後、身体は信じられないほど温かくなり、両手両足は軽く、柔らかくなった。そしてこれもステレオタイプに反し、公現祭の伝統として50グラムほどのウォトカは飲んだが、水に使っている間はお酒を飲みたいという気持ちにはならなかった。

 服を着ると、やはり暑いと感じた。そしてこの1年に十分な力強いパワーをもらったような気分になった。その日の夜は一瞬で眠りについた。

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