Netflixで「グロム少佐:ペスト医師」を見るべき5つの理由

Oleg Trofim/Bubble Studios, 2021
 2021年5月5日、Netflixは、出版社バブルから出版されている漫画「グロム少佐:ペスト医師」をモチーフにした同名の映画の配信を開始した。おそらく、ロシアのスーパーヒーロー映画としては、初めて成功を収めた一作と言えるだろう。

1. CGとダイナミックなアクションシーン

 ごく普通の雨の日。ビンテージもののジャケットを着て、茶色のベレー帽を被った警察の少佐がサンクトペテルブルクのある通りを走っている。これが映画の主人公、イーゴリ・グロムである。彼はソ連のアニメ「ゴール、ゴール!」のホッケーマスクをつけた泥棒たちとともに軽快にトラックに飛び乗り、停止させようとするが、胸に射撃を受ける。その後、葬儀のシーンが映し出され、映画は終わったかのように思われるのだが、実はまだ始まってもいない。とはいえ、すべてはそう簡単ではないのだが・・・、すべてを今、明かすのはやめておこう。

 ハラハラドキドキのアクションシーンと時折笑いに溢れた映画で、警官はときにゴミ収集車で悪党を追いかけたり、またグラスや拳を使って喧嘩をするシーンは、迫力があるだけでなく、ストーリーを大きく前に動かす。

 敵役のペスト医師と彼になりきる人たちは、右に左に火を放つ。通りにいる不要な人物や自動車は抗議中に焼かれ、爆発する。若干カリカチュア的ではあるものの、ペーソスに溢れ、本物のスーパーヒーロ映画らしい迫力がある。

2. 面白いヒーローとストーリー展開        

 グロム少佐は、偶然信じられないような能力を手にしたり、信じがたい衣装に着替えたりするハリウッド映画に出てくるような標準的なスーパーヒーローではない。ただ活動的で、理知に富み、スマートな人物なのである。どんなに困難な状況から抜け出すことができる「ロシア的な機転」を助けているのがグロムの超能力である。

 イーゴリは一匹狼で、 警察版ドクター・ハウスを思わせる。警察署で彼に好意を寄せるのは、ペアを組む新人警官とあらゆる起立違反を許してくれるボスのプロコペンコだけである。というのも、少佐はほとんど一人で犯罪者を捕まえているからである。

  もう1つ注目すべきは、映画ではすぐには本当はどんな人物なのか特定しにくい悪役である。主要な悪者として描かれているのは、汚職に手を染め、街を牛耳るオリガルヒ(新興財閥)で、彼らの子どもたちは通行人たちを猛スピードでやってつけていく。郊外では、人々は、産業廃棄物のにおいに悩まされ、市民の中には、貪欲な銀行家のせいで住むところを失ってしまう者もいる。

 一方で、主な敵役のペスト医師がいる。汚職に関与する者たちに戦いを挑みながら、不正と戦っているように見せかけているが、実際にはきわめて残酷な方法をとっている。正しい精査もせずに彼らを殺害したり、結果的に家族をも犠牲にしたりする。しかし、そのようなやり方にも関わらず、ペスト医師はあっという間に人気者になっていく。

 監督のオレグ・トロフィムは、DTFからのインタビューに応じた中で、映画の中には、具体的な政治的要素は含めていないと言明しているが、よく注意して見ると、ペスト医師は、ソーシャルメディアを使って積極的に支持者と交流を図っている野党政治家のアレクセイ・ナワリヌイを思わせる(映画中のこの引用は、まったくナワリヌイに有利ではないが)。もう1人の登場人物に、才能あるプログラマーで、ペスト医師の主なデジタルツールである匿名のSNS「フメスチェ」を立ち上げたセルゲイ・ラズモフスキーがいるが、この人物を見ると、ロシアのSNS「フ・コンタクチェ」とメッセンジャー「テレグラム」を立ち上げたパヴェル・ドゥロフを思い出さずにはいられない。ちなみにドゥロフもまたサンクトペテルブルクでキャリアをスタートさせた人物である。

 とはいえ、映画は、こうした文脈を知らなくても十分に楽しむことができる。というのも、これは、正義感と法律に基づく正しい判断による真の復讐の物語だからである。

3. サンクトペテルブルクの“ゴッサム”的雰囲気 

 最近、Netflixで配信が始まった「シルバー・スケート」と異なり、「グロム」の中で映し出されるサンクトペテルブルクは、陰鬱で雨の多いゴッサムを思わせる。

 ちなみに、この雰囲気はより現実に近い。実際、サンクトペテルブルクではいつも雨が降っている。しかも、映画では、街の見どころの美しさが―宮殿広場やセンナヤ広場での追跡、ネヴァ河岸通り、住宅の中庭にある井戸やペテルブルクの屋根でのペテルブルクでもっとも人気のあるファストフードであるシャヴェルマ(ラップサンドイッチ)を手にしながらの会話の中で、思う存分に描かれている。 

 とりわけ、夜景は素晴らしい。ライトアップされた聖イサアク大聖堂から見る夜の通りのパノラマ、跳ね橋、実際に市民やツーリストが年中溢れている(コロナによる制限もすでに解除されている)バーなども見応えがある。ペテルブルクのブッダ・バーが、映画中では贅沢なカジノとして使われている。ここでは、大規模な喧嘩シーンが撮影された場所で、ぜひ行ってみたくなるところである。

4. オリジナリティあふれるサウンドトラック

 ロシア語を知らない視聴者にはあまり喜ばしい情報ではないかもしれないが、映画中に使われているのは、ロシア人アーティストによるロシア語の歌のみである。しかし嬉しいことに、これらの曲はかなり独特で、覚えやすく、たとえ言語が分からなくても問題なく入り込める。

 サウンドトラックは、ロシアのラップ、ヒップホップ、ポップス、オールタナティブロック、電子音楽、フォークなどを演奏するインディーズアーティストたちの音楽をミックスしたものである。その中には、なつかしのロックバンド「アクヴァリウム」の古いヒット曲やソ連アニメ「小さなアライグマ」の挿入歌が含まれるほか、オープニングでは、オリジナルではエネルギッシュで狡猾なヴィクトル・ツォイの「変化」をスローテンポでカバーした曲が使われている。

 オレグ・トロフィム監督は、サウンドトラックの選曲について、「すでに出来上がっている曲を探しました。本当にプロフェッショナルな演奏をしているのにまだ正当に評価されていないアンダーグラウンドの名もないミュージシャンを探しました。 ペテルブルクに「本物の」音楽が流れること、また「ブラザー2」のように新しくて大胆な音楽的発見をすることが重要でした」と語っている。 

5. 社会的な背景を併せ持った「ボンド的」映画

 映画の冒頭から、作品はジェームス・ボンドの映画を若干コピーしたような印象を与える。ただ、グロムはスパイではなくただの警官で、美女のガールフレンドの代わりに魅力的で大胆無敵なジャーナリストのユリヤ・プチョルキナ、英国の諜報局長の代わりに家庭的で善良でどこか滑稽なフョードル・プロコペンコ大佐が配されている。オープニングタイトルも、どこか「スカイフォール」を彷彿とさせる。

 グロム少佐が戦闘もののジャンルに含められていないのは、ロシアらしさ、場面に合った月並みでないジョーク、標準的でない登場人物、グレーなモラル、登場人物がはっきりと善と悪に区別されていないことによるためだろう。

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