「あなたはエロティック芸術の世界において名声を博するだろう」。34歳のアンドレイ・タルソフ は未来のパトロンに対して、パトレオンで発表したアダルト・コミックの付録の動画内のビデオプレゼンテーションで情熱的に語っている。彼の最初のシリーズ作品「スインギング・アイランド」は、楽園のようなリゾート島で性的探求をしたいと望んでいるヌーディスト初心者のカップルの冒険について描いたエロティックアニメで、これで多くのファンを獲得した。そして続編である「スインギング・アイランド:喜びの地」を描くことになった。
アンドレイ・タルソフ
Andrey Tarusovその後、ピンアップ・アートの大家は、アメリカの大手映画制作会社と仕事をし、ロシアの民間会社や国営会社などとも共作した。そして将来の「大作」に挑むべく才能を磨いていたのである。
2015年、タルソフは妻を追ってロスアンゼルスに移り住んだ。「自分は物事をあまり深く考えないタイプの人間なので、新たな場所で住むことには抵抗がなかった」。アメリカに行って、タルソフはピンアップ・アートの考え方についてアメリカ人とロシア人の間に違いがあることに気が付いた。
「ロシアではピンアップ・アートは、男性中心の考え方で作られることが多い。ロシア人はピンアップを宣伝広告に使い、販売促進活動にセクシー写真が使われる。アメリカでは、有名な映画の面白い芸術が好まれることはあるが、それが商業用に利用されることは少ない。というのも、性的なものは(商業目的に)受け入れられないからである。アメリカ人は私的なものと公共的なものをはっきり分けたがるのだ」とタルソフは語る。
アメリカ移住後、タルソフは経済的に安定するにはより多くの作品を発表しなければならないことに気が付いた。「アメリカではロシアのようなのんびりとした生活は出来ない。ロシアでは、商業的な注文をいくつか受ければそれでよかったが、アメリカでは、コミック誌、キックスターターのプロジェクト、書籍、特注のトランプセットなどの多くのサイドプロジェクトをやっていかなければならない。しかし見通しは明るかった。アメリカに来て、制作の腕も一段と上がり、自分はもっとやれるんだと自信がついた。そしてこの結果だ」。タルソフは誇らしげにこう述べている。
タルソフは、アメリカでは何が求められるのかすぐに理解した。「アメリカではよく受け入れられた。私の作品はもう多くの人に知られているし、コミコンにも参加できた。アメリカ人がマーヴェルアニメのヒーローやディズニーのお姫様が好きなこともすぐわかった。私も彼らが好むものを描き始め、ある程度まで人気を得ることが出来た」。
タルソフはその芸術的才能で大手雑誌―プレイボーイ、マクシムなど―や、アメリカの映画制作会社から仕事を得るようになった。20世紀フォックスやウォルト・ディズニーとのプロジェクトにはティム・バートンのチームの協力も得て、「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」や「不思議の国のアリス」などの映画の宣伝活動に参加した。
タルソフが自身の作品の中で描くのは軽めのテーマのものが多いが、彼は実はより堅苦しく深いものからヒントを得ているという。「古いハリウッド映画や1970年代のヨーロッパ映画が好きだった。また、伝統芸術や博物館、絵画などからもヒントを得ている。ただ、いろいろなものを吸収してそれをベースに創造している」と彼は語る。
ときに、タルソフは一見自分の芸術のスタイルと違う、ずっと堅苦しいものにも興味を示す。最近、彼は、アメリカ、ロシアやベラルーシにおける抗議活動に関する作品を作った。「これが私の社会に対する意見の表明のやり方である。ただ自分が憂いていることを描いている。もしBLM運動の際にアメリカに住んでいなかったら、それが意味することをよく理解していなかっただろう。じっくり考えて、それを(芸術的に)表現する方法を見つけるようになったのである」。
タルソフは、ロシアで、意図的にニュースや政治から長く遠ざかるまで、主な抗議活動には必ず参加していた。「そして分かったことは、真空状態の中では生きられないし、自分の政治的見解を表現しないでいることは出来ない」と彼は語り、作品の中では難しい社会的なテーマにも触れている。
キックスターターで3万ドル(約331万円)を集めることが出来たグラフィック小説「スインギング・アイランド」が発表されたとき、タルソフはこのあらすじについて、自身の生活を表したものではないと言っている。「当然、いままでの人生で様々な経験をしてきたが、これはまったく想像の産物。そして、多くの読者が新たな筋書を提案してくれるし、私は読者にいつもこの先のあらすじをどうしたいと思うかを聞くのである」と彼は語る。
タルソフの刺激的なテーマは、彼の作品に否定的な意見を持つ厳格な批評家の注意を引くことがある。「ディズニーのピンアップはとても不気味で趣味が悪い。母や祖母の立場からすると、吐き気がするほどだ。ディズニー社に連絡して直接彼と話をするように頼みたいほどだ」と批判者の1人が綴っている。
それでも、タルソフはまったく動じない。「ピンアップはマスターベーションのためのものではない。(ポルノより)もっと面白いものだ。(ポルノほど)原始的なものではないし、芸術家を含めて多くの人は、私の描き方を支持してくれている。それに、ピンナップだけでなく他の書き方も含めてオンラインスクールで教えてもいる。ピンナップは、思うほど描くのに簡単ではない。挑戦する人は多いが、大半はうまくいかない。それに、(ピンナップが支持されているのは)実生活では再現出来ないものを描くことが出来るからだ」。
タルソフは最悪の批評を受けると「恥(ロシア語でスラモタ)」と名付けるフォルダーに保存し、時折それらに触れて笑い飛ばしている。
将来的に彼は、油絵を描くことも考えている。「まじめな絵に没頭する時が来たのかもしれない」とタルソフ。
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