ソーシャルメディア(特にユーチューブ)の永住民ならば、少なくとも何度か失敗動画を見たことがあるだろう。失敗動画は(リアリティー番組やダーウィン賞と並んで)人類のあらゆる失敗の表れだと考える人もいれば、笑いや疑いのオンパレードを提供してくれる素材だと考える人もいる。
だが、よく注意すれば、とりわけ耐久力のあるサブジャンルがあることに気付くだろう。たいてい8分から12分でロシア人の失敗をまとめた動画で、しばしば「ロシア大好き」(We love Russia)あるいは「一方ロシアでは……」(Meanwhile in Russia…)といったタイトルが付けられている。
厳密には「一方ロシアでは……」というミームはユーチューブより以前からある(「一方ソビエト・ロシアでは」として始まった)。一方、インターネットのパンテオンで確立したのが「ロシア大好き」ネタだ。逆流するトイレ、過積載で傾いて3輪で走るトラック、自動車道を渡る酔っ払い、建物から飛び降りる若者(たいてい男)、車の天井に括り付けられた動物――2012年にTwisterNederlandというユーザーによってアップロードされた最初の投稿には、このジャンルの原型となる映像が数多く詰まっている。
こうした動画の多くが走行中の自動車から撮られたのは偶然ではない。2009年にロシア内務省が定めた規定により、車載カメラを付ける際の障壁が撤廃され、ロシア全国で手軽な装備品となったことが背景にある。本来は交通事故やもめごとの際に信用に足る証拠を提供することが目的だが(法整備の2年前にWHOが出した統計によれば、ロシアでは2007年に3万5972件の死亡事故が起こり、10万人中25.2人が交通事故で命を落としていた)、結局先見の明のあるユーチューバーにとって無尽蔵のネタの供給源となった。
そしてこれがヒットした。他のユーチューバーもこのブランドを真似し、毎年数多くの「ロシア大好き」動画を作成、より広まっていた「一方ロシアでは……」ネタも活性化させることになった。
2013年は、大手メディアがこのトレンドから利益を得始めた年だった。バズフィード(Buzzfeed)は(あのCNNと共同で)「いつ何時もロシアでは実に奇妙なことが起こりそうもない」としつつ、「この動画はロシアに退屈な瞬間はないという確かな証拠だ」といったクリックベイトを流し始めた。新世紀世代が運営する「新たな東方」に焦点を当てる優れた雑誌カルバート・ジャーナルは、このテーマの流行に乗じた解説記事を出している。ワシントン・ポストは、「一方ロシアでは」ネタを真面目なニュース記事の頭に添え、アクセス数を稼いだ(その後2019年には、「一方モラー・レポートでは」というタイトルのポッドキャストが掲載された)。
ロシアは、物神崇拝や仲間崇拝の時代を謳歌していた。ウクライナ危機直前の数年間、欧米との関係は再定義され、ロシアはどこか少し錯乱した、だがほとんどの人から愛される伯父さんとして見られていた。姪や甥にきつい酒をやり、冒険に連れ出すようなタイプだ。不器用で裕福でピリピリした両親とは真逆のものだった。
このことは、こうした編集動画やまとめ記事によって裏付けられている。狂気じみた「粗野で粗野な東方」は、欧米の人々が安定と繁栄を目指すうちに捨ててしまったスリルと自由を提供するのだ。そして最も良いことに、これはあなたにも伝染し得る。バート・クライシャーの「ザ・マシン」(2011年に遡るが、2016年に人気になった)やダン・ソダーの「ロシア人は最恐の白人」といった有名なスタンドアップの定番を例に取ろう。どちらも、「これらの狂ったロシア人」とつながりを持つおかげで、より勇敢で大胆な猛者と見られている。
ここでのブランドは猛者らしさだった(今でもそうだ)。単一文化的ないし明確に自由主義的な、過度に健全でコスモポリタン的な見方の拒絶だ。全く洗練されておらず、また、より「文化的」なユーモア媒体が2000年代から2010年代の変わり目に押し出したような皮肉を一切含んでいなかった。これは、ヴァージニア・ウルフがドストエフスキーに見出したものの縮図だ。
「実際、ロシアの虚構における主要な特徴は魂だ。形がない。知性とはほとんど関わりを持たない。混乱し、冗長で、騒々しい。我々は否応なしに引き込まれ、掻き回され、盲目になり、窒息し、同時に目眩のするような歓喜に満たされる」。
車載カメラの編集動画は、欧米が悪名高いロシアの魂を崇拝する機会へと進化を遂げた。これが可能となったのは、それまでユーチューブが見せられなかったもののおかげである。
欧米の十代の若者が現実のものとして称賛していた失敗動画は、皮肉にもそれ自体がロシアの路上での実際の出来事の様子を健全に選んだものだった。過激なものを見つけるには、一切規制のかかっていないRuNetを利用しなければならなかった。交通事故や泥酔、喧嘩未遂は笑いのネタとしてユーチューブに上がることはあったが、検閲のかかっていないロシアの動画は全く遠慮がなかった。男たちがぼろぼろになるまで金属棒で殴り合う。車が18輪トラックに突っ込んで木っ端微塵になる。人に火が燃え移る。
コンセプトとしての「ロシア大好き」が可能なのは、それがロシアは常に危険が起こり得るという幻想を支えながら、一切傷跡を残すことがないからだ。ビデオゲームや『ナルニア国物語』、『スターウォーズ』とそう変わらない。
だが、これですべてではない。交通事故やインフラの崩壊、喜びの瞬間を商品化しつつ、時には不快な場面、さらには感動的な場面も紛れ込んでいた。大半の動画は若い男性の視聴者を念頭に置いていたが、必ずしもこの基準に合わない動画もあった。現地の命知らずたちの恋愛は、時に殺伐としていて不快だった。若い女性は、後ろに立って男性を応援する代わりに、独特なトラブルに首を突っ込んだ。バーブシカ(おばあさん)は歯をむき出しにしていた。
車載カメラがガラスの天井を破り、世界中で繰り返し見られた日のことは言うまでもない。2013年2月15日金曜日、何十ものカメラが、あらゆる角度から、チェリャビンスク州の上空を切り裂く隕石を捉えた。これは欧米のロシア好きやロシア・フェチのような人々にとって天の恵みとなった。何せ、田舎の名もない人々が天を見上げ、恐怖と畏敬の念を覚えながら、一瞬では理解不能・制御不能なものを見つめる様子ほど、ロシアの魂をよく表すものはなかったからだ。
だが、ラジオのバズはさておき、チェリャビンスクの事件によって人々が痛感したことが他にある。つまり、これらの動画は冗談ではないのだ。これは非常時に捉えられた人々の日常生活の断片だ。あの日、オンラインないしアナログな方法で人々を一つに結び、このジャンルの非公式な(かつおそらく唯一の)傑作を生んだのが車載カメラだった。
もちろんトレンドは時とともに変わる。失敗動画はウクライナ危機や2016年の米国の選挙がロシアを公共の敵ナンバーワンに押し戻してしまったためにかなり輝きを失ってしまった。昨年の『サティスファクション』やそのパロディーのような最近のヒット動画は、「アイス・バスケット・チャレンジ」や「ハーレムシェイク」のようなコスモポリタンなヒットのスタイルにかなり近い。
ロシアの車載カメラ動画は、2012年から2014年のような文化的威信は保っていないが、今なお作られ続けている。人々は今でも交通渋滞や喧嘩に巻き込まれ、カメラは今でもそれを記録し、名もない学芸員らがそれを10分程度の動画に編集する。これをロシアの魂の表れと見るか、自分の人生と同じくらい遠い複雑なスナップショットとして見るかは、今でも飽きることなくそれを見ている人それぞれが判断することだ。
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