ロシアのドライバーのステレオタイプ:彼らを知って、近寄らないようにしよう!

ライフ
ダニエル・チャルヤン
 車種、カラー、状態、そしてドライブのスタイル――ロシアの自動車を一目見ただけで、一定の確度で、警察に止められて罰金を払わなければならないようなドライバーが誰か、またそれが警察でさえ止めるのに苦労するような人物か否かを判断することができる。

1.「オリガルヒになりたい」人

 ロシア人の間ではある願望が広く浸透している。それは人生の時間の中で可能な限り影響力のある地位に近づくということだ。そしてSUVに乗るということはそれを実現する最短の方法である。オリガルヒであろうとなかろうと、SUVに乗っていれば金があるということだ。他の人はそのことに気付くはずである。

 もし黒のSUVなら、その場を離れたほうが良い。所有者は人生で影響力を得た人物で、それを非常に誇りに思っている。彼はくそったれのごとくルールを破るだろう。ときどき信号無視をするが、それでも制止されないかもしれない。おそらく交通警察は彼ではなく、彼に倣って信号を無視したあなたを止めるだろう。もしSUVのナンバープレートに0や7が多く並んでいたら、このルールはさらに重要である。彼らは何らかの理由で法を超える存在なのだ。もし0が3つ並んだモスクワ登録のポルシェ・カイエンを見かけたら、心配しなくてもよい。所有者は自分が洗練された人間だと思われたいのだが、謎の理由で泣き寝入りしているのだ。

2.「北コーカサスの悪漢」

 こういう輩は、バットマンの如く静かで、バットマンの如く街に害をもたらす。正しい車線を走り、ルールを守っているから自分は安全だと考えているなら大間違いだ。コーカサス系のドライバーの運転はレズギンカの踊りを思わせる。閃光のように感情的で予測不能、即興的で非常に執念深い。

 あなたの後ろを走る北コーカサス系ドライバーは、イングランド女王さながら、スモークガラスをはめたラーダ9に乗っている。ラーダ9のスモークガラスは、アメリカの星条旗をあしらったズボンのように人を威嚇するためのものだ。このような人物は、陽が沈んだくらいではサングラスを外さない。彼はメッセージを打ち終わるまで横目でiPhoneを睨み続ける。もしくはあなたが目をそらせば、彼はサングラスを外すそぶりを見せるかもしれない(あなたに見つめられたくらいでは外さない)。

 路上でも同じだ。スモークガラスを装備しているのは、彼のギャングすぎるスタイルをあなたが理解できずに過小評価してしまうことを防ぐためだ。ちょっとしたミステリーが嫌いな人などいるだろうか。隣の車線から追い越して来た車にぶつかりそうになったとき、相手を素手で絞め殺す様子を想像するのはとても楽しいことだ。 

3.「オリガルヒの妻」

 ロシア人はたびたび、女性に多くを要求し過ぎることで批判される。私たちは、女性がフルタイムで働く完全に生産的な社会の一員としてだけでなく、子供の面倒を見て、雑誌の撮影以外は何もやることがないようなそぶりをすることを望んでいる。ここに論争がある。女性に対する非現実的な期待を理由に非難されるのは当然のことである。

 だが、すべてをやってのける希少種の女性は存在するのだ。彼女たちは、通常男性が好むようながっしりした車体の黒いSUVに乗っている。自己主張の強い裕福なロシア女性に特徴的なスタイルと色である。黒が象徴する真面目さは、彼女たちが自分のジェンダーを強調することを嫌っている現れであり、男性社会の中での自分たちの競争力の高さを示すものである。モスクワを見渡せば、黒は間違いなく「真面目」な色である。

 色のスペクトラムで正反対なのが白いメルセデスだ。編集部では白のメルセデスEクラスを持つロシア人は見つからなかった。でも、もしロシアの路上で白ベンツを発見したら、9割以上の確率で運転手は女性だ。そしてそれは、巨大な黒ジープに乗っているような、自分で身を立て、自分で意思決定するタイプの女性ではない。これは父親の財布にしがみついて放さない、等身大のバービー人形のような女性だ。彼女たちは何をやってもおかしくない。2台分の駐車スペースに斜めに停めたり、電話で話す間、出口や私設車道を塞ぎ、怒った5人の集団がガラス越しに何かを叫んでくる理由が分からなかったり。ともあれ、こうした人は自動車の中に閉じ込められていたほうが私たちは幸せかもしれない。そのほうが皆にとって安全だ。 

4.酷い音楽センスの人

 万が一とてもぞっとするような音楽がとてつもない音量で漏れているのがあなたの家の前に停めてあるハッチバックからでないなら(それは驚きだが)、その自動車は、北コーカサス系ドライバーの愛車、ラーダ・プリオラだろう。またAvto.ruによると、この車は2014年に最も外国で人気のあるロシア車に選ばれており、それ以来ヨーロッパのドライバーにも愛されている。

 ロシアでは、自動車からうるさい音楽が流れていたら、それは単細胞な人が好む音楽だ。ハッチバックの場合、朝の体操の動画にあるような複雑な感情を伴った新種の電子音ダンスミュージックを鳴らしている。一方プリオラの場合、より東洋風のR&Bがかかっていることが多い。下手なロシア語で歌われた北コーカサスの曲で、ふつう真の逞しさ、真の忠誠心、真の嫉妬心といった複雑な問題や、人間の中にあるその他の素晴らしい特徴に関するテーマを、激しい嫉妬心をロマンティックに見せるように歌われたものだ。 

5.世界で最も注意深いドライバー

 このタイプの人はロシアの路上での不法行為を酷く嫌っているため、私たちがふつう想起するカウボーイのアンチテーゼの化身となる。こういう人の運転するタクシーをUberで呼んではだめだ。遅刻する。苛立ちに震えて彼の目を睨みつけると、彼はこの狂った世界で自分だけが良識あるドライバーであるかような義憤に満ちた顔をする。これはもちろん真実だ。もうすぐ黄信号に変わりそうな青信号を渡る時に出る大量のアドレナリンを想像してみよう。この手の人は30年くらい前に一度それを経験したきりで、以来リスクを冒したことがない。

 彼は、前に10台も連らなっている混雑した車線で、50センチ左に逸れて追い越すことをせずにその車線にとどまり、あなたに絶大な心理的ダメージを与えるだろう。制限速度時速60キロメートル(実際のところ時速80キロメートル以内ならセーフ)の道路を55キロで走る。あなたの人生で最も安全で、かつ最も神経を削られるドライブになるだろう。何としても避けよう。

6.あまりロシア的でないUberドライバー

 もしモスクワのような大都市に住むことの大きな欠点があるとするなら、それは道に迷った時に誰に助けを求めて良いか分からないことだろう。悪いことに、首都に住む人の多くは日常のルーティンに必要なことしか知らないのだ。だが聞いてほしい。20年前、タクシーに乗れば、モスクワ出身ドライバーはある種の天才だった。私が覚えている限り、彼らが地図を見るために停車したことは一度もなかった。彼らは町を熟知していた。

 現在、2つのことが起きている。一つは携帯アプリの地図が人々をアメーバに変えたこと。もう一つはロシアの大都市で見られる中近東の人口爆発の影響だ。結果として、10日前にモスクワにやって来たばかりで道路標識も知らずロシア語もろくに分からないまま旅客輸送の免許を得たドライバーを、客であるあなたがサポートする羽目になる。シートベルトが壊れていたり、下車する際に「頼むぜ、兄弟」と5つ星の評価を請うてきたりする可能性が高い。なぜこんな目に遭うのか?  答えは単純、モスクワ出身のあなたが新参者の人生をより良くするために自分の生活を犠牲にしなければならないのは、まさに彼らのせいなのである。だが実際は違う。これは彼らを雇うタクシー会社のせいである。タクシー会社は、より人件費のかかる良質なドライバーを雇うほど「馬鹿」ではないからだ。同じことは建設、清掃、食品配達などのブルーカラー労働についても言える。モスクワっ子は人道的な給与が払われない限り、そういう仕事をしたがらない。