ロシア人ベスト・オブ・ザ・イヤー2018

アレクサンドル・キスロフ
 皆さんが見過ごしてしまったかもしれない優れた人物をここに集めてみたが、実のところ彼らは、今年何かしら特別なことをやり遂げた面々だ。これらの人物は、何らかの形で私たちを感動させたり、インスピレーションを与えてくれた――だから、この気持ちをみなさんと共有しよう。

1.ハビブ・ヌルマゴメドフ、UFC格闘家

 「流血のスポーツ」――混合格闘技――のチャンピオンである30歳のダゲスタン人、ハビブ・ヌルマゴメドフは、2018年に、最も有名なロシアのスポーツマンになった(少なくともインスタグラムにおいては。インスタグラムで彼は、マリア・シャラポワやアレクサンドル・オヴェチキンよりもフォロワーが多い)。もちろん、そんなふうになったのは、UFC史上最大の闘いのひとつ――ハビブとアイルランドのコナー・マクレガーとの試合後のことだ。

 これは、どちらの格闘家のファンにとっても夢の決闘だった。これに先立って起きたのは、長時間にわたる衝突、コナーの暴言とハビブのバス襲撃、大きな昇格と激しい言葉(「俺はお前の心を、頭をぶっつぶしてやりてぇ。なにもかもをぶん殴ってやる」――ハビブが言ったように)、新しいタイトル保持者のダゲスタン人にはほとんどふさわしからぬ試合後の取っ組み合いだった。

 現在ヌルマゴメドフは27勝0敗だ。しかし、ロシア人や世界の多くの人たちにとってUFCの試合が初めて、単に「熱狂的なファンのためのショー」以上のものとなった。

 ロシアでは、スポーツチャンネル「マッチTV」で試合が放送され、ロシアで開催されたサッカーワールドカップの記録を超えた。「20年前に村でトマトを売ってた時には、こんなこと考えもしなかったよ」とハビブは言った。 

2.パーヴェル・ドゥーロフ、テレグラム創設者

 現在2億人以上の実際の利用者を有するメッセージ通信システム「テレグラム」を開発した起業家は、2018年にロシアの取締機関よりも強力なことを証明した。

 ロシアの取締機関は、このアプリをシャットダウンしようとして400万を超えるIPアドレスをブロックした。テレグラムは、このブロックを回避するためにAmazonとGoogleのクラウドホスティングを使用したと伝えられている。その結果、同サービスを使用している何千もの企業が影響を受けた。

 ロシアの取締機関側は、このアプリがメッセージの処理に使用している暗号化キーの引き渡しを拒否されるとブロックを命じた。

 2017年には、同社は本来なら記録破りとなるはずだったICOも試みている。しかし、テレグラムは、民間投資家らから17億ドルを調達すると、公売をキャンセルした。 

3.スタニスラフ・チェルチェソフ、サッカーロシア代表監督

 おそらく、ロシア代表監督の誰一人として、彼ほどに地元の観客をイラつかせた人はいないだろう。彼とロシア代表チームは、失敗し世界に恥をさらすだろうと言われていた。一週間もしないうちに、「チェルチェソフを解任しろ」と誰かが公然と口にした。記者会見で彼は言葉少なにこう答えただけだ:「自分たちの道を行こう。課題は――自分たちを信じることだ」。

 その後、55歳の監督は、信じられないことをやってのけた:彼とともにロシア代表チームは(それまではFIFAのランキングの下位にいた)、ワールドカップで準々決勝に出たのだ。

 「厳しく」「醜悪で」「原則的」――彼についてはこんなふうに言われている。その通りだ。チェルチェソフは、革新的な監督や華々しい勝利を目指す者には似ていない――彼の監督としてのキャリアには、これまでさほど驚くような大勝利などなかった。しかし、まさに彼が、ロシアの数百万もの人々に、もはや期待もしていなかった、サッカーと奇跡への信頼を戻した人物となったのだ。

4.キリル・セレブレンニコフ

裁判の審問が始まる時のキリル・セレブレンニコフ監督。

 モスクワで最も人気のある現代演劇場の1つ「ゴーゴリセンター」を率いる演劇・映画監督のキリル・セレブレンニコフは昨年、自宅軟禁された。検察官は、国の補助金を含む詐欺行為を首謀したとして彼を告訴し、セレブレンニコフは2018年中ずっと自宅アパートに軟禁され、インターネットへのアクセス権を奪われ、主として弁護士とだけ連絡を取ることを許可された。

 セレブレンニコフを賛美する人たちと憎む人たちとが、彼が有罪か否かを議論している間(裁判はまだ判決に至っていない)も、この監督は仕事を続けていた。自宅軟禁されていたにもかかわらず、彼は『夏』の編集を終えた――1980年代のソ連のアンダーグラウンドのカリスマ的ミュージシャンたちを描き、イギー・ポップやルー・リードの曲をフィーチャーした。この映画は、カンヌ国際映画祭で最優秀サウンドトラック賞を受賞した。

 また、「ゴーゴリ・センター」は、セレブレンニコフが自宅軟禁中に創作したものを含む、5つの新たな演劇を発表した。彼は、自宅のある建物から数ブロック以内にしか出かけられない。これが、オーディオトリップを創る着想を与えた。オーディオトリップでは、参加者たちがヘッドフォンでセレブレンニコフの声を聴きながら同じルートを歩く。彼は、自分の近所についての物語をシェアし、毎日同じルートを歩かざるをえない男の感情を参加者らにも感じさせた。

 概して、セレブレンニコフは四方を壁に囲まれた中で2018年の大部分を過ごしたにもかかわらず、ロシアで最も影響力があり、多作の文化人の1人となった。 

5.イリヤ・サチコフ、「グループIB」CEO

 サイバーセキュリティは、米国でのハッキング騒動やブロックチェーンカンパニーや暗号通貨への夥しい攻撃の後の2018年には、ホットな世界的議題のテーマとなった。

 モスクワを拠点としたスタートアップとサイバーセキュリティ対策のプロバイダー「グループIB」は、こうした商機を最大限に活用した。この会社は、2003年に、当時まだバウマン工科大学の一年生だったイリヤ・サチコフによって設立され、現在は、国際的な事業拡大の一環として、グローバル本部をシンガポールに移しているところだ。

 「グループIB」はまた、ブロックチェーンにおいても非常に活発だった。2018年、同社はセキュリティレベルに基づいて暗号通貨を格付けするスコアリングモデルを考案した。

 スタートアップによると、2017年以降少なくとも14の暗号通貨がハッキングされ、8億8200万ドルの損失が生じている。 

6.ゼルフィラ・トレグロワ

 トレグロワは、モスクワで最も重要な美術館の1つ――トレチャコフ美術館――の館長を3年間務め、美術館の現代化を続けている。かつては、時代遅れで惰性的だった美術館が、成功した現代的な美術館に変わりつつある。これまでのところ、彼女は成功している。

 2018年に彼女は、ロシア・アヴァンギャルド芸術最大のコレクションを持つクリムスキー・ヴァルを基盤にトレチャコフ美術館を再建するという待望のプロジェクトを発表した。この美術館は、レム・コールハースのメトロポリタン建築オフィス(OMA)と協力して、ソ連の建物を最先端のアートセンターに変える。また、11月にトレグロワは、バチカンでロシア絵画の展覧会を開き、多くのヨーロッパ人が初めてロシアの傑作の数々を目にすることになった。

7.Little Big

 2018年、このロシアのレイブバンドはYouTubeを席巻し、口コミで最大限に拡散した。彼らのビデオ「SKIBIDI」は、その超クレイジーなダンスステップ#skibidichallengeで、1億900万回も視聴された。同じくロシアの最も人気な深夜ショーのホスト、イワン・ウルガントをはじめ、何千人もの人々がすでに、この面白いダンスにみずからもチャレンジしている

 ソ連式のサナトリウムの特別な美を描いた「Faradenza」や、核兵器に対する金正雲の情熱的な愛をからかう「Lollybomb」といったその他の映像も、それぞれ4000万回以上の視聴回数に迫っている。

 2016年、「俺には夢がある。ロシアのバンドをグローバルにしたい。そして、海外で人気になるなんて不可能だという連中に、彼らが間違っていたということを証明してやれたらハッピーだ」と言った、Little Big結成メンバーのイリヤ・“イリイチ”・プルーシキンにとって、もはや夢は叶ったように思える。

 もちろん、「ロシアのダイ・アントワード」というニックネームをLittle Bigがつけられたのは、彼らが本物のダイ・アントワードの前座を務めた直後だったが、音楽の素晴らしさよりも、キッチュさと挑発的だったからだ――しかし、彼らは自分たちが今やっていることがとても得意なんだ。

 

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