ベルト、平手打ち、暗い部屋:なぜロシアでは子供を打つことが教育方法として認められているのか

ライフ
ニコライ・シェフチェンコ
 ロシアの多数の大人が、しつけるのに子供の尻を叩く権利があると考えている。彼らの多くもまた、そうしたきついやり方でしつけられたのだ。

 「あの子は『うん、僕は暗い部屋、クローゼットに閉じ込められて、(…)ベルトを』と言いました。確かにジェーニャ[エフゲニー・プルシェンコ]は一度ベルトをつかんであの子の尻を少し打ちましたよ。だから何? 私の親も私を暗い部屋に閉じ込め、ベルトで打ち、監禁しました。私がまともな人間じゃないとでも?」と話すのは、世界的に有名なフィギュアスケート選手エフゲニー・プルシェンコ氏の妻であるヤーナ・ルドコフスカヤ氏。彼女の挑戦的で衝撃的なコメントに、インタビュアーは凍り付いた。

 ロシア社会を二分するスキャンダルが起きたのは2018年4月。ルドコフスカヤ氏は、スケート界の期待の星である5歳の息子が、自分が受けている暴力的なしつけについてある記者に対し正直に打ち明けたことに関して、事実関係を認めた。

尻叩きとベルト打ち

 ほとんどのロシア人が、子供時代に少なくとも一度は打たれたことを記憶している。多くの人にとって、こうした出来事は生涯忘れられない記憶として刻まれる。

 「私は心の中で今でもあの光景をくっきりと思い起こせます。当時私は幼く、街の中心部で迷子になりました。私の記憶に次に現れるのは母です。彼女の顔は涙で覆われていました。そして手にはベルトが。彼女は私を永遠に失ったのではという恐怖心から、私をベルトできつく打ちました。姉が身を挺して守ろうとしてくれたのを鮮明に覚えています」とモスクワのエリザベータさん(30歳)は言う。彼女は現在5歳の息子を育てている。

 尻叩き、平手打ち、ベルト打ちは今なおロシアで一般的なしつけ方法だ。2017年に行われた全国世論調査(ロシア語)の回答者の37パーセントが、親から尻を打たれ、平手打ちされたことがあると答え、27パーセントが子供に尻叩きや平手打ちをしたことがあると答えた。

 とりわけベルトで打つことは、ロシア文化にあまりに深く根付いているため、ロシア人の多くが、この平凡な日用品を見て否が応でも体罰を連想してしまう。

大人の権利

 大人の多くは、閉ざされた家の中で何が起きているのかを滅多に明かそうとしない。だが、子供の罰としつけに、必要悪として暴力を使ったことがあると認める人もいる。

 「私の夫は、いつも職場にいて子供といる時間が短いから、しつけに暴力を用いることを全面的に否定できるんです。子供を育てるのは私一人の責任で、一定の成果を得る必要もあります。当然、子供が手に負えない場合に備えて、尻を叩く権利を確保しています」と言うのは、8歳の娘を育てるリュドミラさん(43歳)。

 「ロシア式」の子育て方法は、多くのロシア人の心の片隅に、言うことを聞かない子供に体罰を与える余地を残している。「私の夫は、男の子なら暴力を経験する必要があると考えており、時には平手で息子を打つことも辞しません。私は彼の考え方には賛成できません。私なら、自分ががっかりしたことを伝えるために子供の手を強くひねるくらいです」と5歳の息子を持つエリザベータさんは話す。

 彼女の夫は、決して例外的な人ではない。2017年の全国世論調査(ロシア語)によれば、ロシア人の3分の1が、親が子供に体罰を与える権利を支持している。

向こう岸

 多くの人にとって尻叩きは「いざという時の」「適度な」しつけ方法であり、尻叩きを咎められて自分たちの諸権利が奪われてしまうような社会に生きることは、ロシアのほとんどの親にとっては悪夢のようなものだ。個々のテレビ報道(ロシア語)で、児童保護機関がロシアよりも広範な権限を行使している国々における虐待的な児童保護制度に対しての親の重要性に関して、しばしば歪んだイメージが生産されている。

 多くのロシア人が、しつけという名目で平手打ちを繰り返したことがきっかけで親の適性に関して公的な捜査が始まるような社会制度についての報道を聞くと、動揺を隠さない。親の中には、どの罰が許容範囲内で、どの罰が行き過ぎかについて、強固な見方を育んでいるいる人もいる。

 「時々子供の尻を打つことくらい問題ない。私はスリッパやベルト、その他あらゆるもので打たれたが、何も起きなかった。私は生きているし、健康だし、学校教育も受けた。私は誰も殴っていない。子供の尻を叩くなんて殴るうちに入らない」とインスタグラムのユーザー、エカテリーナさんはコメント欄に投稿(ロシア語)し、子供を打つ親の権利を批難する声に対し疑問を投げかけている。

 自分たちが慣れ親しんだしつけ方法を公然と擁護する人もいる。「欧米の国々は、現行制度が自分の行動に責任を取れない大人世代の誕生を助長したために、今になって教育に対する態度を見直し始めています」と、モスクワの高校で教師をしているオリガさん(50歳)は言う。「子供を殴る必要はありませんが、中間的な方法があって然るべきです。」

古い習慣、新しい方法

 とはいえ、ロシアの親の古いしつけ方法は時代に合わなくなってきている。子供の頃に尻を打たれたり、ベルトで打たれたりした記憶のある人の多くが、極力自分の子供に体罰を加えないようにしていると話す。

 「私は娘に手を上げたことがありません」と2歳の娘を育てるモスクワのユリアさん(40歳)は言う。「でも私は長男を育てる時には全く異なる態度を取っていました。彼を生んだのは18歳の時で、彼は私に打たれたことを覚えています。」

 「世界は変わり、私たちも一緒に変わっています。昔は許容されていたことも、今では容認されないのです。今では、別のしつけ方を詳しく紹介している書籍も簡単に見つけることができます」とこの女性は話す。

 現在の世代の親の中には、この簡単な教訓を身をもって理解した人もいる。「私は父から厳しく、そして定期的に体罰を受けました」と悲しげな表情を浮かべながらリュドミラさんは言う。「私がまだ苦しんでいるかって? いえ、もう済んだことです。もう子供じゃないですから。」