ロシア人はなぜ隙間風をひどく恐れるのか

ライフ
エカテリーナ・シネリシチコワ
 ひょっとしたら、隙間風(少し開いた窓や壁の隙間から入り込む空気だけでなく、エアコンから吹き出される空気の流れも含む)を恐れるのはロシア人だけではないかもしれない。しかしこう断言できる。ロシア人ほど隙間風を恐れる人々は他にいない。

 毎年夏になるとロシアの職場では空調戦争が始まる。ある者は熱気のこもった部屋の窓を開ける権利を求め、またある者は、息苦しいがその代わり隙間風知らずの「安全な」生活を求めて戦う。エアコンを好む人種もいるが、彼らは全員を敵に回しかねない。窓を開けてエアコンをつけるというのは致命的な組合せだ。子供たちを怯えさせてしまう。

 隙間風にまつわる話はどの家庭にもある。「子供の頃私は、またそれから10年後には妹も、スカーフを頭に被ってブランコを漕いでいました。どこがおかしいかって? ブランコは家の中なんです! 祖母は私たちが隙間風で耳を冷やしてしまうことをとても恐れていたのです」とネットユーザーのアレーナさんは話す

 疑問が浮かぶ。こんな些細なことが危険だというなら、人類は一体どうやってこれまで生き延びてきたのだろう。だがロシア人は、それは賢明な「防御策」のおかげだ、と真面目に答えるだろう。

ロシア人のパラドックス

 隙間風神話との戦いは100年前からすでにあった。「多くの人が隙間風を恐れ、部屋に入る新鮮な空気の流れに抵抗している。(…)中には通風孔を開けることすら怖がる人々もいる。だが、指摘しておく必要があるが、こもって淀んだ空気のほうが隙間風よりもよっぽど健康に悪い」と医学雑誌『命と健康』は1909年に解説している。だが何も変わらなかった。この「恐怖」は代々受け継がれていく。新聞や雑誌は危険性について警告するのをやめず、ロシア人は神話を信じ続けている。

 「子供を連れてカフェに行くと、まず天井を見て、どこに座ればエアコンの風がそんなにきつく当たらないか、確認するようにしています。実家では、私と子供たちが使う部屋はエアコンの送風口がテープで塞いであります」とモスクワ在住の女性は話す。「義母にとってはあらゆるところから隙間風が吹き、漂っています。椅子から吹いたり、腰掛けから吹いたり。歳をとったら分かるようになるよ、なんて言うんです」と証言する人もいる。

 これは文化学的なパラドックスに見える。国土にシベリアや地上で最も寒い場所オイミャコンを持ち、凍った水面に開けた穴に潜る伝統や冬に外でアイスクリームを食べる習慣を持つロシア人が、隙間風は健康に良くないという迷信ゆえに、涼しい風を前にして震え上がっているのだ。彼らに言わせれば、隙間風の冷気で耳や歯、顔面神経がやられてしまい、屈強で健康な人さえ熱で倒れてしまうのである。何より忌々しいのは隙間風がこっそりと作用する点だという。

誤解

 「私が思うに、ロシア人がこんなにも隙間風を恐れているのは(誰の気分も害したくはないがが)、どこから吹いてこようとも、そもそも新鮮な空気というものが嫌いだからだ」と、2015年にイギリス人心臓学者のシャミンドラ・ペレラ氏は書いている。シャミンドラさん、違うのだ。ロシア人はただ本当に(いかに奇妙に思えようとも)寒さを恐れているのだ。すべては、外気温が「マイナス」であろうがなかろうがストッキングやタイツ、ふわふわのズボンを穿かされ、ジャケットや毛皮のコートを着せられ、帽子を被せられた子供時代に始まるのである。

 だが、隙間風パラノイアは子供時代とともに終わりを告げるわけではない。

 「人々は風邪を引くと何でも隙間風のせいにします。『ああ、これはシードロフが部屋の通風孔を開けたせいだ!』そしてすべての窓をしっかりと閉め切るのです。汗だくで疲れ果てて冷気に当たり病気になって、新鮮な空気こそが諸悪の根源だとさらに確信を深めます。」

 平均的なロシア人は、外が寒ければ家の中はとても暖かくなければならないという考えに慣れてしまっている。ロシアの暖房代は高すぎるということはなく、そして誰も出費を惜しまない。これまで多くの家で調節不能なラジエーターが設置され、10月~4月まで、家の中は裸でいられるほど暖かくなる。そんなわけで、ロシア人はおそらく全体的に、皆さんが想像するような屈強な人々ではない。彼らは暖かさを重宝する。実際に必要とあれば、極端な温度差のことなどすっかり忘れてしまうのである。