ロシアのオリガルヒとはどんな人々か、彼らは実在するのか

画像:ナタリア・ノソワ
 アメリカがいわゆる“ロシアのオリガルヒ”に対して制裁を課す中、モスクワでは、そんな人々が実在するのかしらと首を傾げる人も多数いる。どうも誤解があるようだ。誰がオリガルフ(オリガルヒの単数形)と定義されるかをめぐって、ロシアと西側とでは理解が異なるのだ。

 2016年にリリースされたロビー・ウィリアムズの楽曲“Party Like A Russian”を覚えているだろうか。この曲は滑稽なほど裕福な億万長者を揶揄したもので、彼は(少なくともミュージックビデオの中では)何百万ドルもの大金をはたいて客船の中の飛行機の中の自動車の中に銀行を詰め込むという歌詞に合わせ、バレリーナとロックをする。これが西側の人々の思い浮かべるいわゆる“ロシアのオリガルフ”を反映した姿、すなわち怪しげな噂が付きまとい、何でも買えるだけの財力がある金持ちだ。ただ、実情はもう少し複雑である。

 2018年3月5日、ヴラジーミル・プーチン政権のドミトリー・ペスコフ公式報道官が、“ロシアのオリガルヒ”に対してアメリカが新たに課した制裁に関する質問に答えた。曰く、「我々は“ロシアのオリガルヒ”という表現は不適切だと考えている。(…)ロシアにオリガルヒは存在せず、彼らがいたのは遠い昔のことだ。」

金持ちなだけではない

 厳密に言うと、ヨットとゴールドカードの束を持つ成り金が全員オリガルヒというわけではない。メリアム・ウェブスター辞典によると、オリガルフとは、オリガルヒ、つまり「ある小集団が特に汚職や利己的な目的のために権力を行使するような政府」の一員である。よってオリガルフたる者、金持ちなだけでなく、政府の政策に対し大きな影響力を持たなければならない。

 政府・経済界関係に詳しいロシア人研究者のマリア・ゴロヴァニフスカヤ教授はこのような見方に同意する。彼女はAiFに対し、「オリガルフはただヨットやダイアモンド、愛人に満ちた豪華な生活に満足している裕福な人物というわけではない。政治に関わっていることが重要だ」と話している。

 しかし現在、正確な定義に注意を払う人などいない。アメリカのコメディアン、スティーヴン・コルベアのジョークにあるように、「オリガルフとは金持ちを意味するロシア語だ。金の出所は聞いちゃいけない。」そしてロシア人も西側の人々もこれに近い意味でこの概念を理解している。例えば1998年ロシア人は、銀行家から当時の大統領ボリス・エリツィンまで、金持ちだと見なされている人々をすべてオリガルヒと呼んでいた。

オリガルヒの黄金時代

 1990年代のロシアにはそれなりの事情があった。(狭義の)オリガルヒが栄え、政治に深く関与していたのだ。オリガルヒは怪しい方法で権力を掌握し、その多くが民営化の流れの中、国営企業を二足三文で買収して繁栄した。

 ロシア企業の民営化移行を手伝ったアメリカの経済学者ジェフリー・サックス氏は、あるインタビューで「石油・ガス資源が政府の上層部に分配され始めた」と話している。一方で今なお多くのロシア人が、政府を操っていたのは財閥だったと考えている。例えば、1996年にボリス・エリツィンが大統領選で勝利したのはオリガルヒの一団のおかげだったという具合だ。

ボリス・ベレゾフスキー、1999年

 コメルサント紙によれば、そのようなオリガルヒの一人であるボリス・ベレゾフスキーは、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに対し、「ロシア経済の半分以上を牛耳る7人の人々を指名し、彼らとともにロシア国内の重要な政策決定に関与した」と語っている。その中にはベレゾフスキー自身(2013年に自殺)、ミハイル・ホドルコフスキー(2003年から2014年まで刑務所で服役)、その他5人の長者がいた。

 「ベレゾフスキーも、他の実業家らも、エリツィンが1996年に当選したのは自分たちの努力のおかげだと考えており、当局は現在その代償を払っている。」ロシア人実業家でベレゾフスキーとともに働いた銀行家の一人であるピョートル・アヴェンは、著書『ベレゾフスキーの時代』でこう述べている。同時に彼は「政策決定に関してビジネスが与える影響は、皆が考えるよりもずっと限定的だった」と指摘している。

現代に戻って

 2000年代初めには本当の意味でのオリガルヒは政策決定の場から放逐され、今日役人がロシアにオリガルヒはいないと言うのは、政策に影響を及ぼし得る実業家が一人もいないという意味だ。ロシア産業企業家同盟のアレクサンドル・ショヒン会長が話すように、「2000年代にはこの用語は“政策決定に影響を与える企業家”を意味した。今ロシアにそんなものはない。」

 コメルサント紙でオブザーバーを務めるドミトリー・ドリゼ氏は「当局がオリガルヒなどいないと言うのは当然だ。ロシア政界からの追放は2000年代以降当局が挙げた主要な成果の一つと見ることができる」と指摘する同時に、ドリゼ氏が指摘するように、この数年間でこの用語は消え去っておらず、今なおロシア人は政府に近い裕福な人々をすべて“オリガルヒ”と呼ぶ傾向がある。

 「ロシアの企業には独特の特徴がある」とドリゼ氏は言う。「当局はビジネスに依存したくないが、逆にビジネスが当局に依存することは構わないと考えているのだ」厳密に言って、新しい制裁対象リストに載った実業家や企業家がオリガルヒでないとロシアの役人が主張するとき、彼らはこうした人々が金持ちだったり影響力があったりすることを否定しているのではない。単に彼らが政府をコントロールしていないということを言っているのだ。

 明るい面に目をやれば、政策に影響を与えることに神経を使う必要のない今、“オリガルヒ”は“Party like a Russian”のような生活を送る時間がたっぷりあるわけだ。誰も金の出所を尋ねない限りは。

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