ロシアのおかしな地方旗10選

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アルビナ・アンドレエワ
 キリスト教徒の熊から開花したマリファナまで。我々のセレクションを見れば、ロシア人が紋章デザインにおいても、他のあらゆることと同様にその奇抜さを発揮することが分かるはずだ。

1. ペルミ市の熊の司祭

 ロシア人は長らく宗教的な人々として知られてきた。しかしロシアの熊たちについてはなかなかそうは言えなかっただろう。ところがこの旗がその溝を埋めてくれる。ここには力強い獣が、もさもさした背中に載せた福音書の後光で人々を照らし出す、優しく信心深い者として描かれている。

 ところが市の職員によれば、旗にそのような意図は込められていない。これらは別々のシンボルとしてデザインされているそうだ。銀色の熊は、豊富な鉱床と生き物溢れる森林に恵まれたこの土地の自然の豊かさを具象化したものだ。一方福音書は「地域住民の頭上を照らすために到来したキリスト教の啓蒙」を象徴している。キリスト教がこの地に空前絶後の文化的発展期をもたらしたというわけだ。どうやら意匠の考案者は、一方の図像をもう一方に載せる以外に良い手を思いつかなかったようだ。そんなわけでペルミでは、熊はただ道を闊歩しているだけでなく、日曜日には教会に通っているいるかもしれない。

 

2. ペンザ州のイコン的な旗

 信心深い人々(それから我々が上で確認した信心深い熊々)の住む土地で、その熱意を目立つように示すにはどうすれば良いだろう? 簡単だ。十字架と教会、聖人という考え得るすべての組合せがすでに出尽くしているなら、後はイエス・キリストの肖像を旗に置くまでだ。モスクワから640キロ南東のペンザ州の人々はこれを実行した。もちろん、このような旗は街のお祝いの際にはやや陰気に映るかもしれないが、この旗のおかげで毎日出勤する市の職員たちの畏敬の念と規律の精神がどれほど鼓舞されるか思いを馳せてみよう。高い生産性と立派な信条が身に付くこと請け合いだ。

 

3. ペルミ地方の可愛らしい女性

 この旗は先ほどのものより一層刺激的だ。ここにはペルミ地方の農村居住地ヴェルフ・インヴェンスコエを流れる川を象徴する美しい女性が描かれている。伝統衣装を身に纏い、まるで抱擁してくれるかのように腕を広げるこの若い女性の図像以上に、喜びと歓迎とを体現するものを想像できようか。波が描かれているのはこの絵が現地の川を象徴するからだが、そのインヴァ川は先住民の言葉で“女川”と訳せる。実際この旗を見ると、考案者が荘厳な様式と聖書の寓意を用いた畏まった紋章に飽き、自身の本当に愛するものを描いたのではないかと思えてくる。また当時10歳の考案者が自分の母親を描いたという風にも見えなくはない。

 

4. 女帝エカチェリーナからお墨付きを得たマレーヴィチ様式

 しかし、もしロシアの紋章デザインを決定的に支配しているパターンがあるとすれば、それは時に紋章学はおろか常識の法則さえも無視する、不条理と紙一重の大胆なミニマリズムだろう。例えば、モスクワから300キロ離れた小さな町シュヤのこの旗は何を含意しているだろうか。この町がバター生産者たちの故郷だということ?金鉱?黄色いレンガの工場(が町の名前をエメラルドの都に変えることもあり得たということ)?

 実はこの旗に描かれているのは固形石鹸だ。イヴァノヴォ州にあるこの町は16世紀から17世紀の間石鹸生産の中心地であり、文字通りエカチェリーナ大帝のナンバーワン化粧品ブランドだった。女帝はこの町の美容製品が大変気に入り、女帝自ら石鹸を町の紋章として承認したのである。これがのちの旗のデザイナーたちのアイデアの源泉となった。

 

5. オリンピックの表彰台に乗った卵

 とはいえかの女帝も、また20世紀ロシアのスプレマティズム運動の芸術家たちも、ミニマリズムがこの国の紋章デザインにどれほど深く根を張っていくか推し量ることはできなかった。どこに黄色いプリズムを置き、どこに追加すべきか、トヴェリ州のホロホレンスコエ村の住民は決めた。彼らは旗のデザインに3つの黄色いブロックを選んだ。村に最近できた陶器工場を不朽のものにするためだ。また卵をいくつか置いても問題なかろうと彼らは判断した。村の経済は数世紀にわたって養鶏に依存してきたからだ。そしてご覧あれ!我々はマレーヴィチの作品と並べても遜色ないモダニズム紋章の傑作を手にしたのだ。

 

6. コケコッコー?

 「やめて巨鳥、連れて行かないで! もう二度と鶏肉は食べませんから!」旗の考案者は、この脚の持ち主である怪物に捕まる直前にこう叫んだのだそうだ。他の証言では、彼の最後の言葉は「鷲が来る!」だったとか。それはさておき、もう少し信用のおける情報源によれば、1945年までドイツ領だったカリーニングラード州の小さな村ドムノフスコエのこの旗は、東プロイセンの民間信仰とつながりを持つ。これは、雄鶏の姿で描かれることの多い豊穣と食の神クルコか、あるいはゲルマン神話であの世へよじ登る死者の魂が用いるという鷲の脚を表している。旗の真のメッセージは謎に包まれているものの、その崇高さに疑いの余地はない!

 

7. アムステルダムの魅力を持つロシアの旗

 ええと、ピョートル大帝が有名なオランダ旅行で持ち帰ったものは何だったろう。この旗に描かれた花咲く大麻の図案を閃かせたものだったろうか。この旗に関する限り、この草はオランダとは何も関係がない。この植物は大帝がヨーロッパ視察を行う遥か以前から、キモフスキー地区(モスクワから230キロ南)で油を採るために栽培されていた。しかし描かれているもの以上に面白いのは、そこに描かれていないものだ。キモフスキー地区は有名なクリコヴォの戦いがあった場所として広く認知されている。これはロシアがモンゴルから独立するための第一歩となった戦いだ。しかし、ロシア史に燦然と輝くこの出来事を示すものは旗にはない。あるのは古き良き花咲くマリファナだけ。

 

8. オリョール州の防衛大失敗

 このモスクワから475キロ離れたコルプニャンスキー地区の旗で何が起きているんだ?まるでこう言っているようだ。「かつて俺たちは美しい砦を持っていた。それからミサイルが発明されて、ミサイルに対して砦が全く無力だってことが分かったのさ。だがな、俺たちはすごかったんだぜ!」

 実際、ここは15世紀から18世紀の間、クリミア・タタール人に対するロシアの南の防衛線上の重要な要塞の一つだった。旗が意味するのはそのことだ。ところで旗に描かれた落下する飛翔体は、実のところコルプニャンスキー地区生まれの傑出したロシア人物理学者を記念して描き加えられた流れ星なのだ。彼は専らこの天体現象を研究していた。したがって国境警備隊はミサイルの餌食になったのではなく、2つのシンボルの下手な配置の犠牲になったというわけだ。

 

9. サハリン州のロールシャッハ・テスト

 これは何だ? カンディンスキーの初期の作品だろうか。それともロシアの大胆なミニマリズムの別の例だろうか。いや、これは住民の輝かしい怠惰に捧げられた記念碑である。

 というのも、ある首都から約9200キロ離れた辺り、日本と母なるロシア、広大な大洋の間のどこかに埋没した遠いクリル諸島やサハリン島に住めば、何事もシンプルにしたくなるのだ。シンボル、リボン、崇高な比喩一切なし。どうやら、サハリン州の住民は、自分たちの地域をググってプリント・スクリーン・キーをクリックしたようだ。なぜって、この抽象的なシミは、地図上のサハリン島やクリル諸島そのものだから。

 

10. 「同志、元気?」  

 「合言葉を言って私の隠された街にお入りなさい。」スネジノゴルスクの旗の可愛らしいアザラシが言う。この街はかつてムルマンスク60という秘密の街だったが、約20年前に機密扱いを解かれた。奇妙なことに、アザラシは北極圏の自然に住む生き物を象徴するわけでも、特にエコを啓発しているわけでもない。このアザラシが表しているのは、愛らしい海の哺乳類に因んで“ネルパ”(アザラシの意)と名付けられた、原子力潜水艦の修理・解体を行う造船所なのだ。創設者らがアザラシを愛してやまなかったのか、スパイの可能性のある者の目を欺くためにこう名付けたのかは不明だが、確かなのは、大規模な原子力艦隊を抱える施設をカモフラージュするのに、凍った海面から顔を出す嬉しそうな生き物以上に相応しい図像を考案することは難しいだろうということだけだ。