戦勝記念日にちなみ:ロシア人のアメリカ人への手紙

Yakov Ryumkin/Sputnik, Russia Beyond
 アレクセイ・トカレフさんは、モスクワ国立国際関係大学付属国際関係研究所の上級研究者。露米関係にかかわるあるエピソードを想い起しつつ、なぜ両国が友人になれないのか、にもかかわらず、なぜ敵対すべきでないのか、手紙の形で説明しようと試みた。

 親愛なるジョン

 私の名はアレクセイ。32歳でロシア人だ。あなたにある話を紹介しようと思う。

 2014年のある晴れた日、私はケンブリッジで朝食をとっていた。マサチューセッツ州を流れるチャールズ川。暗色の煉瓦造りの古風なイングランド風の家屋が緑に囲まれている。超高層ビル「プルデンシャルタワー」には、ボストン三位一体教会が映っている。プルデンシャルタワーの上からは、ローガン空港から飛行機が飛び立つさまが見える。ボストンとケンブリッジを結ぶハーバード橋の長さは「364.4スムートと耳一つ分」。これは、マサチューセッツ工科大学の学生たちが、その一人、オリバー・スムートの身長(170.18センチメートル)を単位に測ったものだったよね。私はボストンとその自然がとても好きだ。

 2週間前、連合国に属した国々は、ヨーロッパでのノルマンディー上陸作戦(西部〈第2〉戦線の形成)の70周年を祝った。我々は朝食をとりながら、これについて話し合っていた。大家のキャシー・ジューシーは私に言った。「ああ、そうね!あなたたちは、連合国だったのよね。知ってるわ」。この反応は腹立たしかった。

 「ヴャージマ防衛戦(1941年10月)だけでロシアが、米国が戦争全体で失ったのとほぼ同数の兵士を失ったことを知っていますか?米国の40万5千に対し、ロシアはこの作戦で38万の犠牲を払ったんです」。私は彼女に尋ねた。

 「でも、私は…私は…」。彼女は明らかに不意を突かれていた。「私たちはそう教わったんだもの。ロシアは同盟国だったって」

 「同盟国だったのはアメリカです。ソ連は第二次世界大戦で2700万人を失いました。たしかに我々は兵力の出し惜しみはしませんでした。開戦当初は武装が不十分で、時には自軍の兵士を撃ち、脱走や臆病と戦ったりしました。でも、この戦争に勝ったのはわが国民です。その同盟国がアメリカ、イギリス、フランスだったのです。そして、我々こそが勝利者の国民なんです」

 何とフランスでは、子供たちにこう教え始めているそうだ。アメリカ独立で主要な役割を果たしたのはラファイエットとロシャンボーの戦場での活躍である。そして、劇作家としても有名なボーマルシェがわざわざ民間商社をつくって支援物資を送ったからこそ、アメリカは独立を達成できた、と。あなたは自国の歴史のこんな解釈に同意しないだろう。

 米国のレンドリース法(武器貸与法)と第二次大戦の第2戦線の重要性を否定するわけではないが、次の見解を認めようではないか。すなわち、ワシントン将軍がイギリスを破り、ジューコフ元帥がドイツ軍を破った。

 ジョン、想像してみてほしい。南北戦争のリーとグラント、エイブラハム・リンカーン、マーティン・ルーサー・キング、ジョン・F・ケネディとバラク・オバマ、トーマス・ジェファーソン、二人のルーズベルト…。彼らは、互いにとても違っているが、いずれも米国の国民的アイデンティティにとって非常に重要な人たちだ。その彼らが同じ戦争で、同じ勢力に属して戦った、と。そして、米国は敗退を重ね、国会議事堂は爆破され、ニューヨークは湖と化し、米国の多民族が徐々に殲滅されていき、国名自体が忘れられていったと想像してみてほしい。さらにその戦争で、すべての家族――つまり、あなたの家族、同じ通りの隣人たち、あなたの仕事仲間、そしてあなたが知っているすべての人の家族――が、夫、父親、兄弟、祖父、妻、母、姉妹、祖母、子供を失った。その結果、追悼記念日、独立記念日、退役軍人の日が同月同日になったと想像してみてほしい。そうすれば、あなたは大祖国戦争が我々ロシア人にとってどんなものだったかが理解できるだろう。

 ところで、ロシア人のメンタリティーには、いまだに私が分からない特徴があるんだ。あなたはもちろん、ヴェルナー・フォン・ブラウンを知っているね。米国の宇宙開発の父だ。カーマン・ライン(大気圏と宇宙空間の境界)の彼方、そして月に米国の青年を送る前に、彼はヒトラーのための世界初の弾道ミサイルを発明している。米国は、敗北したドイツから彼を連れて来て、世界最高の労働条件を作り出した。天才を評価するこの能力によって、私は米国に大いに敬意を払うよ。

 戦勝の7年前、ソ連の悪辣なその筋の男たちは、天才セルゲイ・コロリョフを逮捕し、拷問し、シベリアのマガダンに送った。彼はおそらく上下の顎を骨折していた。その彼が、世界で初めて人間を宇宙に送ったボストーク1号を考案した。ジョン、ここに違いがあるんだ。我々の以前の国家、偉大なるソビエト連邦は、あたかも、ことさらにある人間がこの国を嫌悪するように、ありとあらゆる方法で仕向けるようなことがあった。だがそれでも、この人物は生き抜き、その同じ国家のバックアップのもと、最悪の戦争からまだ回復していない国で、人類の宇宙への窓を開いたのだ。

 ジョン、なぜ今、露米関係のすべてがこんなに悪化しているのだろうか?ここはひとつ、外交官になるのはやめて、率直に認めようではないか。悪いのは両国の政府だけではない。一方からすれば、私もあなたもヨーロッパ人だ。我々の知性はいずれも、レフ・トルストイとセオドア・ドライサーよりも、プラトンとゼノンに負うところが大きい。中国人、フィリピン人、マオリ人よりもあなたとの間には多くの共通点がある。

 しかし、ロシアは歴史を通じて絶えず戦ってきた。11世紀には、スラヴの兄弟たちと戦った。13世紀には、ロシアの信仰を奪おうとしたドイツ騎士団と戦った。3世紀の間続けて、モンゴルに抵​​抗した。彼らは、ロシアの信仰は残したが文明を奪った。スウェーデンが欧州の主要な大国であったときに、これと戦った。ナポレオンが東に矛先を転じたとき、彼と戦った。20世紀には、革命後の内戦から第二次大戦まで、イギリス、フランス、日本と相次いで戦った。過去400年間で、対トルコだけでも12回も戦った。

 さらにロシアは、米国と同じく内戦を戦った(ロシアの内戦は20世紀初頭に起きている)。米国にとってベトナムは余計な戦争だったけれども、ロシアにとっても不要な戦争、アフガニスタンがあった。最近では、チェチェンでテロリストと戦ったが、これもまたロシア領内の戦争だ。

 米国は、北のカナダ、南のメキシコ、そして2つの海によって、堅固に守られている。そして、いわば城壁の背後から世界を、「対岸の火事」みたいに眺めるというあなた方の意識も守ってきたわけだ。ロシアはというと、この千年の戦争の後で、自分で自分の要塞を壊すなんてできない相談だ。

 私は、iPhoneで電話し、スターバックスでMacBookを開き、KFCでコーラを飲み、NHL(北米プロアイスホッケーリーグ)のゲームを見て、事故死したコービー・ブライアントの家族に対し、インスタグラムで心から哀悼の意を表す。しかし、千年にわたって培われてきた私の意識と、偉大な文化の記憶を、私から抜き去ることはできない。あなた方が発明したものやガジェットに囲まれているからといって、私が敗北したと考えることはできない。

 ロシアと米国は、もはや同盟国や友人になることはできない。両国は今や巨大になりすぎて、75年前のように両国を団結させ得る巨悪(ナチスのような)を見出すことはできない。なるほど、両国ともテロの被害に遭っている。これらの狂信者は、米国の摩天楼とロシアのアパートを爆破した。でも、シリアの地図を見てほしい。こんな小さな領域においてさえ、両国はいっしょに善悪を選り分けることができない。とはいえ、両国の情報機関が戦わずに、共通の目的を目指すときは、両国の文明を脅かす宗教的狂信者を倒すことができるだろう。

 しかし、こう協力を呼びかけると、米国の東ヨーロッパの友人たちは、スターリンがナチス・ドイツと、欧州分割を含む不可侵条約を結んだことをすぐ引き合いに出すだろう。私はこれに反駁しない。それに先立ち、イギリスとフランスはヒトラーに対し、これ以上の領土要求を行わないことを条件に、チェコスロバキアのズデーテン地方を与えているからね。偉大な帝国は、価値よりも利益の観点から考えるものだ。米国が人権を衷心から信じていることは承知しているが、米国の外交政策を平和的とは言い難いことはあなたも認めるだろう。

 協力のポテンシャルに話を戻せば、例えば、ロシアと米国にとってロシア製ロケットエンジン「RD-180」が足りないことは明らかだ。スペースシャトル計画終了後、このエンジンが米国人をも宇宙に運んできたのに。露米間の貿易量は、米中間のそれと比べると、言ってみれば、ワシントンD.C.のワシントン記念塔のてっぺんを見上げる男みたいなものだ。協力関係発展の余地はたくさんあるね。

 なるほど、あなたの友人の中には、米国の大統領を選んだのはロシアだと信じている者がいる。でも、私はマスコミ報道で読んだのだが、民主党の予備選の開票で、実はサンダース勝利が判明したのに、エスタブリッシュメントがヒラリーを指名したという。

 こう言うとあなたが不愉快なのは分かるが、偉大なるアメリカ民主主義をいっしょに尊重しようじゃないか。米国の選挙を操作するために手続きや制度に影響を与えることなど誰もできない。

 たぶん、このデリケートな問題はもっと真剣に受け止めるべきだったと思う。そうすれば、両国の信頼関係はもう少しましだったろう。

 それに、今の露米関係がいくらひどくても、もう一つの、地球規模の最重要課題が我々の前に控えている。

 間もなく「新戦略兵器削減条約」(New START)の期限が来る。核不拡散、ひいては世界の安定は、我々の行動次第だ。地球の運命に対する共通の責任を認識し、新しい条約を結ぼうではないか?

 親愛なるジョン、モスクワに来てほしい。ソビエト空軍のパイロットであり、数々の勲章を授与された私の祖父、アレクセイ・アダエフは、あの世からあなたを目にして喜ぶだろう。彼の仲間の将兵および民間人2700万人は、我々の共通の勝利75周年を記念し、彼岸の赤の広場でパレードを見るだろう。此岸の我々はそれらを見ることはないけれども。

 いつか会えるといいな。あなたの手を固く握りしめる。

 あなたのアレクセイより

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