ゴースティングやガスライティング:ロシア史の超有名人もやっています

A.P.リャブシキン「ツァーリのミハイル・フョドロヴィチがボヤールと皇帝の間で座っている」、1893年。
 現代の諍い、争いでは、我々は相手を名指しで非難したり、面罵したりはしない。代わりに次のような俗語の意味する手法に頼る。ゴースティング(何の前触れ、説明もなく、一切連絡しなくなり、交わりを絶つ)やガスライティング(相手に故意に誤った情報を示し、相手が自分の記憶、さらには正気を疑うように仕向ける手法)、セクシズム(性差別)…。

 これらの厄介な心理的虐待の手法は、実は何千年もの間存在してきた。かつて人々は、それらを何と呼ぶべきか知らなかっただけのことだ。以下は、ロシアの歴史におけるいくつかの注目すべき例だ。

「お母さんは僕にガスライティングしてるね」

 ガスライティングは、ある人に対し、精神的、心理的能力を完全にコントロールできていない、つまり正気でないと吹き込むための心理的テクニックだ。夫が 妻に向かって、お前はいつもアイロンをオフにするのを忘れている、と吹き込む、つまりガスライティングする。だが実は、忘れているのは夫である――。こんなことはよくあるだろう。

 この用語は、アルフレッド・ヒッチコック監督の有名な心理スリラー「ガス燈」(1944)に由来する。しかし、はっきり言えるが、ロシア史にも、こうした例がたくさんある。

 エカテリーナ2世は、夫のピョートル3世を廃位に追い込み(その後、おそらくは殺害させて)、ロシアの帝位に就いたが、不運な夫との間に生まれた息子、パーヴェルを大いに侮辱した。パーヴェルが成長し、国政に参加したいと望んだとき、エカテリーナ2世は、パーヴェルが精神的に不安定で残酷であるという噂を広めさせた(たぶん、彼女自身が広げた)。おまけに、パーヴェルはピョートルの息子ではなく、婚外子、私生児であるという風聞まで拡散した。

 そう、エカテリーナ2世は、自分の息子にガスライティングするために、こんなに手の込んだことをした。そしてそれは後に本当に効き目を現すことになる。それというのも、パーヴェルは、エカテリーナの死後に即位すると(母帝の意志に反して、と信じられている)、確かに残酷さと専横を示し始めたから。エカテリーナのガスライティングはうまくいったわけだ。

「それはセクシズムだよ!」

 「それは女の仕事じゃない!」。何世紀にもわたって続いてきた性差別のほんの一例だ。エカテリーナ2世自身がこの種の嫌がらせを経験していた。

 彼女をロシアの女帝にしたクーデターの直後に、帝国の主だった重臣の一人、ニキータ・パーニンは、女帝による国家の統治を助けるために6人~8人(男性)からなる評議会を統治機関とすることを提案した。エカテリーナは、パーニンの提案の意味が分かった。ロシアでは、高位の貴族の多くが、「女は国家を適切に支配できない」と恐れていることを。(エカテリーナ2世以前に女帝だったエカテリーナ1世、アンナ、エリザヴェータはいずれもかなり貴族たちの操り人形だった)

 エカテリーナは、パーニンの提案に怒り、斥けた。その後のことは、歴史が示している。ロシアの女性は、男性と同等に国を治められることを史上初めて見せつけた――男性の支配者以上ではないとしても。

「私の彼氏はゴースティングした…」

 電話、電子メール、メッセージなどに一切応答しないこと。そして結局のところ、その人の存在を認めないようにすることをゴースティングと呼ぶ。その場合、この手法をしかける者は、犠牲者がまるで存在しないかのように振る舞う。

 イワン雷帝(4世)はかつて、民衆すべてと、帝国(ツァーリ国)全体に対し、ゴースティングをやってのけた。単に自分はもはや皇帝ではないというふりをすることによってだ。

 1575年、イワンはロシアの玉座を捨て、タタール出身の政治家シメオン・ベクブラトヴィチを新ツァーリに指名した。そしてイワンは、自分自身を「単なる」大貴族の地位に格下げし、シメオンに対し、「モスクワ大公にして全ロシアのツァーリ」と呼びかけさえした。

 シメオンが帝位にともなうあらゆる贅沢を享受してクレムリンに住んでいた間、イワンはモスクワに一邸宅を持っていたにすぎなかった。人々が、自分たちの問題を解決してほしいとイワンに懇願したとき、イワンは、自分はもはやツァーリではないと言った。シメオンは11か月間国を“統治した”。そしてその間に、多くの修道院と教区は土地とお金を奪われた。

 イワンは、ツァーリとして自分自身を「復位」させると、土地とお金を修道院に「情け深くもお返しになった」。だが、言うまでもなく、大部分の土地と金はツァーリの宝庫に行った。これこそが、イワンが自分のルールで「一時停止」ボタンを押した目論見だった。

ゴースティング・レベル:99

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 というわけで、我々が最近使っている新しい用語は、実は我々が皆知っている、「古き良き罪」の婉曲表現にすぎないようだ。とはいえ、まったく無意味な虚名というわけでもない。

 過去の時代においては、すべての人間が、自分を攻撃、抑圧する者に面と向かって、その虚言、詐欺、無礼を非難し、一線を越えていると難じることができたわけではない。しかし、上に挙げたような複雑で威力を秘めた言葉とその概念が明示されたことで、反撃ははるかに容易になった。

 これらの言葉は、侮辱ではなく「診断」のように聞こえる。それは自動的に、この言葉を使った人間の権限を、いわば医師のそれに高めてくれるのだ。

 エカテリーナ2世の時代に、既に「性差別」や「ガスライティング」などの言葉があり、それをもって正当に非難、告発できたとしたら、女帝がはるかに多くのことを成し得ただろうことを想像してみてほしい。

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