*種明かし:ニコライ2世の回答はすべて、彼の日記や、様々な年代の同時代人の回想、覚書などから抜粋して構成した。
―私はいささかばつの悪い思いをしております。何とあなたをお呼びしたらよいか?陛下でしょうか、それとも単にロマノフさんかな?
ロシアの地の支配者だな。
―ふむ…まあ、いいや。おっ、陛下の腕には刺青がございますね。それも一風変わった刺青だ。何が描いてあるのです?彫ったときは痛みましたか?
これはだな、日本の長崎に寄港したときのものだ。昼食の後で、右腕に龍の刺青をすることにしたのだ。ちょうど7時間かかったよ。夜の9時から朝の4時までだ!だが、龍は見事な出来栄えで、腕も傷まなかったぞ!
―さらに刺青を彫るご希望はおありで?
いや、あれは一回やれば、もう二度とやる気にはならんなあ。
―噂によりますと、陛下はお若いときには、陽気に騒ぐのはお嫌いでなかったとか。近衛士官たちといっしょに一晩中どんちゃん騒ぎをなされたと言われておりますが。
シャンパンを125本空けたときもあったな(笑)。
―ひえー!次の日のご気分は?
目を覚ましたのは、浴室の近くのソファーの上であった。一日中、気分は最悪で、まるで余の口の中で騎兵中隊が野営したといった感じであったよ…。我に返ったのはようやく次の朝食の後だ…。そして、痛飲の悲しむべき影響が出始めた。
―未来の皇后陛下であられた、ヴィクトリア・アリックス・ヘッセン大公女とご婚約になった経緯は?
余は長い間アリックスを愛していたのだが、己の感情に逆らおうとした。密かな夢をかなえることは到底不可能であると自分に言い聞かせ、自分を欺こうとしていたのだ!余とアリックスとの間にあった唯一の障害、いや深淵は宗教だった!余は、アリックスとは相思相愛であるとほぼ確信していたのだが!
―宗教はそれほどまでにご結婚の妨げとなったのですか?
ある日、余はアリックスから手紙を受け取り、我々の関係が終わったことを知った。アリックスにとって改宗は不可能だというのだ。このどうにもならぬ障害の前で、余のあらゆる希望は砕け散った。未来に向けてのわが秘められた夢、最高の希望は!つい先ごろまでは、それは余には明るい未来へ誘う希望であり、ほどなく実現するようにすら思われていたというのに。それが今や、かくもよそよそしいものに変じてしまったのだ!!!自分のあらゆる未来に関する問題がこのように「解決」されてしまった後では、平静と陽気を装うのは恐ろしく難しいことだ!
―陛下は、バレリーナのマチルダ・クシェシンスカヤに思し召しがございましたね。風聞によりますと、すでに未来の皇后陛下と知り合われていたときに、ロマンスがおありだったとか。
余は二つの愛が魂の中で両立し得るなどと考えたことはなかった。今は、アリックスを愛するようになって4年目だ。しかし、1890年から今日まで、余は、あの小柄なKを情熱的に愛してきた(ただしプラトニックに)。我々のハートとは驚くべきものだ!ここから余がとても惚れっぽい人間だという結論を引き出すことはできるか?ある程度は、「然り」だろう。だが、余は付け加えねばならぬが、余の内心には厳しい審判者がおるし、だいたい余は選り好みが激しいほうなのだ!
―怪僧の異名をとったラスプーチンについてはどうお考えで?
皇后のヒステリー1回よりも、ラスプーチン10人のほうがマシだな。
―陛下がいちばんお嫌いなものは?
自分がその場から離れていて、遠くから切れ切れの、おまけに良くない知らせ、ニュースを聞かされることだ!