ロシア語に同義語がない英単語10:ありふれた言葉なのに対応する語がないのはなぜ?

Russia Beyond (Photo: Legion Media)
 ロシア語は驚くほど豊かで、他の言語には存在しないさまざまな表現や言葉がある(とくに精神的、心理的な領域に関係する語彙はそうだ)。ただし、ごく単純な事柄を表す語彙が欠けていることもある!

1. Toddler(よちよち歩きする幼児)

 ロシア語には、赤ちゃんを指す言葉はたくさんある。‘grudnichok’ は、「胸、乳房」が語源で、授乳期の新生児であり、‘malysh’(「小さい」が語源)と ‘karapuz’ は、かわいいちっちゃな赤ちゃんだ。しかし、英語の 'toddler' のように、最近歩くことを覚えた赤ちゃんを表す特定の言葉はない。そこで現代のロシア人は、そういう時期の幼児を言い表すときは、この英単語 'toddler' を使うことがある。

2. Siblings(兄弟姉妹)

 ロシア語では兄弟は ‘brat’ で、姉妹は ‘sestra’ だ。しかし、兄弟姉妹をまとめて表す言葉はない。その必要があればロシア人は「兄弟と姉妹」と言う。あるいは、教会での呼びかけなどに用いられるように、「兄弟と姉妹」の複数形が使われる。

 また、ロシア語にはもともと従兄弟と従姉妹を指す単語はなく、‘dvoyurodny brat/sestra’ と言う(いとこの兄弟/姉妹)。ただし、ロシア人は19世紀にフランス語からこの語( ‘kuzen’)を借用し、当時よく使っていた。

 しかし、双子については、ロシア語には、一卵性双生児(‘bliznetsy’)と二卵性双生児(‘dvoynyashki’)を表す別々の単語がある。 

3. Grandparents(祖父母)

 両親はロシア語で ‘roditeli’ だ。しかし、'grandparents' のようにまとめて祖父母を表す言葉はない。ロシア人は、 ‘babushka’ (祖母、おばあさん)と ‘dedushka’(祖父、おじいさん)のように別々に言う。

 ロシア語には ‘praroditeli’ という単語はあるが、これは英語なら 'forefathers' か 'ancestors' と訳され、祖先、先祖の意味となる。

  ロシア語には、親戚を指す風変わりな単語が驚くほど多い。英語では単に義理の父、母、姉妹、兄弟で済ましているのに、ロシア語では、夫の姉妹(‘zolovka’)、夫の兄弟(‘dever’)、妻の兄弟(‘shurin’)と妻の姉妹(‘svoyachenitsa’)を表す言葉が別個にある…。しかも、この種の言葉はこれだけではない!

4. Forefinger(人差し指)と thumb(親指)

 ロシア人は "Thumbs up!" と言うことはできない('thumbs up’ 〈 サムズアップ 〉 は、親指を立てるジェスチャーで、日本ではグッドサインなどとも呼ばれる)。なぜなら、ロシア人は、親指を単に ‘bolshoi palets’(大きな指)と言うからだ。

 'forefinger'(人差し指)は、ロシア語では、日本語の発想と似ており、 ‘ukazatelny palets’(指し示す指)。中指も似たような表現で、‘sredny palets’(真ん中の指)、薬指は ‘bezymyanny palets’(名無しの指)。しかし、 小指については単語があり ‘mizinets’と言う。

5. Toe(足の指、つま先)

 別にロシア人に「つま先」がないわけではないが、単に「足の指」と2語で言い表し、特別な単語はない。

6. Thirsty(喉が渇いた)

 ロシア語に 'hungry' (腹が減る)を表す単語(‘golodny’)があるが、'thirsty'(喉が渇いた)に相当する形容詞はない。もっとも、「乾き、飢渇」を意味する ‘zhazhda’ はあるが。

 それで、すごく喉が渇いた、飲みたいというときは、文字通り「飲みたい」('khotet pit')と言うか、「乾きで苦しむ」(‘stradat ot zhazhdy’)と言う。

 ただし、ロシア語の「乾き」(‘zhazhda’)は必ずしも、水を飲みたいという限定された意味ではない。一般に、水だけでなく、何かを渇望することも意味する。そこからイディオムが派生する。たとえば、「権力への渇望」(‘zhazhda vlasti’)。

7. Fun(楽しみ、楽しいこと、遊び、冗談)

 “Have fun!” (楽しんで!)。英語の話者からよく耳にするフレーズだ。しかし、ロシア語にはこれに当たるものはほぼない。 ‘razvlechenie’ (気晴らし、楽しみ、娯楽)とか ‘veselie’ (陽気な気分、楽しみ)といった言葉はあるが、'fun' に比べると、意味が強すぎたり、特定のニュアンスが出たりする。“Have fun!”というケースでは、ロシア人なら "Udachi!" (ご成功を!)とか "vsego horoshego!"(幸運を祈る!)と言うだろう。 

8. Privacy(プライバシー)

 現代では、ロシア人は、個人生活と相互の「境界」を尊重することについて話し始めている。しかし、ソ連時代の過去と何十年にもわたる共同生活、集団的生活の影響もあって、ロシア人にはプライバシーなどというものはなく、したがって、いまだにそれを表す言葉もない(この現象について詳しくは、こちらをご覧ください)。

 とはいえ、‘chastny’(個人的な、私的な)という言葉はある(「個人、私に属する」という意味。たとえば、国家の事業ではなく「私的な」事業、ビジネスであるといった場合に使う)。また、‘privatny’(私的な、非公式な)という言葉も、同様の意味で使用される。これは、個人生活、公にされない私的な事柄と関係していることを表す。 

9. Jetlag(時差ボケ)

 20世紀末、ロシア人はこの言葉を英語から借用して時差ボケを表すようになった(jetlag → джетлаг)。しかし、これ以前は、ロシア人は、世界各地を旅することはあまりなく、時差ボケ(時差症候群)の問題に直面することもなかった(ロシアには11の時間帯があるのに!)。だから、その概念も言葉もなかったわけだ。

10. Challenging(能力が試される、困難だがやりがいのある)

 例えば、決闘などで「挑戦は受け入れられた」というケースなら、それに相当するロシア語 ‘vyzov’ がある。しかし、「能力が試される」、「困難だがやりがいのある」といった意味でのチャレンジには、正確な同義語はない。そういう場合、ロシア語では、単に「困難な」という形容詞(‘trudny’ や ‘slozhny’)を用いるだろう。

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