ロシア語の文法を学び始めると、初級クラスで簡単なルールを教わる。つまり、常に単語の語尾を見よ、答えはそこにある、ということだ。その答えは、単語の語尾を正しく変化させる方法、そしてそれが文中で果たす役割を教えてくれる。たとえば、名詞を例にとってみよう。
ロシア語の名詞はすべて、3種類に大別される。男性(代名詞はОН)、女性(代名詞はОНА)、中性(代名詞はОНО)だ。性は、単語の形態によって決まる。主格の単数の場合は、男性名詞の90%は硬子音または軟子音で終わり、女性名詞はА/Яで終わり、中性はО/Еだ。
мальчик(男の子)という単語がОНで、девочка(女の子)がОНАである理由は分かる。生物学の初歩的な知識で十分だ。でも、なぜтелефон(電話)がОНで、машина(車)がОНАなのか? ここでは生物学は役に立たないので、これに関する規則を見なければならない。この規則は、簡単なストーリーと連想を使って覚えることができる。
その名詞の性が分かれば、次のように、会話のなかで名詞を代名詞に簡単に置き換えることができる。
1) - Ты не знаешь, где ключ? (鍵がどこにあるか知らない?)
- Вот он! На столе.(ほら、それ!机の上だよ)
2) - Ты не знаешь, где кошка?(猫がどこにいるか知らない?)
- Вот она! На диване. (ほら、それ!ソファーの上だよ)
3) - Ты не знаешь, где кафе? (カフェがどこにあるか知らない?)
- Вот оно! На пляже.(ほら、それ!浜辺だよ)
名詞が軟音符「-Ь」で終わる場合は、他の規則による。その単語は男性または女性のいずれかだ。辞書(またはロシア語を話す友人)だけが正解を教えてくれるだろう。いずれにせよ、「-Ь」で終わる名詞に出会ったときは、頭をひねって何とか思い出して性を決め、それにしたがって運用しなければならない。
4) – Где тетрадь?(ノートはどこ?)
- Вот она! В сумке. (ほら、それ!バッグの中だよ)
- А где словарь? (辞書はどこ?)
- Вот он! На полке. (ほら、それ!本棚だよ)
ただし、ここでも手がかりを見つけることができる。もう一度、語尾を見てみよう。「-тель」と「-арь」で終わる名詞は常に男性だ。また、「-адь」、「-ать」、「-ость」、「-чь」、「-жь」、「-шь」、「-щь」で終わる名詞は女性である。
でも、кофе(コーヒー)という単語は特別だ。最近まで例外が適用され、「-Е」で終わるにもかかわらず、この単語は男性だった。
- Где кофе? (コーヒーはどこ?)
- Вот он! (ほら、それだよ)
その結果として、形容詞その他もすべて男性になる。ロシア人自身でさえ、この例外にいつも躓いて、すごくやっかいだと気づき、自ずと中性を用いるようになった。
Ммм, какое вкусное кофе! Оно лучшее! Ой, нет, он лучший, он вкусный!
(うーむ、うまいコーヒーだなあ!これ〈中性の代名詞〉は最高だ!おっと、ちがった、これ〈男性の代名詞〉は最高だ、これ〈男性の代名詞〉はうまいなあ!)
こうした事情は、サンクトペテルブルクのカフェで風刺のネタにさえなった。
(ブラックコーヒーくれる?―220ルーブルです)*中性を用いているので厳密には間違い。
(ブラックコーヒーくれる?―200ルーブルです)*正しく男性を用いているので、少し値段が安い。
(ブラックコーヒーいただけますか?―180ルーブルです)*丁寧な言い方をしているので、さらに安くなる。
だが、つい数年前に、文法規則が正式に変更され、コーヒーを中性名詞として扱うのも可となった。人が「必然的に」その「間違い」を犯して無教養に見えることがないように!