ロシア語の語彙数はいくつ?

Anton Romanov
 現代の代表的なロシア語辞典の語彙数は、『オックスフォード英語辞典』のそれの三分の一にすぎない。実際の数はどうなのだろうか。

ロシア語の歴史より

『大ロシア語詳解辞典』(左側)、ウラジーミル・ダーリの肖像画(右側)

 ロシア語の最初の辞書は、18世紀末に編集され始めた。それらは、教会の語彙の辞典や、科学アカデミーの辞書だった。これらの辞書では、それぞれの単語の語源を起点として、あらゆる言葉の起源の、ある種の「マップ」を作成しようとしていた。こうした辞書の語彙は5万語未満だった。

 19世紀に、ウラジーミル・ダーリは、有名な『大ロシア語詳解辞典』を編纂し、20万語以上を収録した。その際に彼は、一般に使用される単語を含む、いわゆるロシア語の文章語を基礎とした。また、文章でのみ用いられた教会スラヴ語をそこに含めた。ダーリは、会話でしか使われない口語を大量に収集した最初の人でもあった。

 20世紀には、さらにいくつかの辞書が編纂された。それらの辞書の収録語彙数は、5万から12万までさまざまだ。それぞれ版を重ねたが、同一の語源、語根から派生した単語を別々に数えるべきかどうかについては、執筆者、編集者の間でコンセンサスはなかった。ロシア語は、語根だけで約4万ある。

 

現代ロシア語では

 現代ロシア語の語彙について、最も現代の状況を反映し、しかも信頼できるソースは、『アカデミー版ロシア語大辞典』(全30巻)で、約15万語が収められている。これは、今日のロシア語の発話で使われる語彙数と一致すると考えられている。

  ちなみに、『オックスフォード英語辞典』には約40万語が収録されている。しかし、言語学者はほとんどの場合、両者の語彙数をそのまま比べるようなことはしない。二つの辞書には、それぞれの特徴があるからだ。

 『アカデミー版ロシア語大辞典』には、現代用いられる言葉だけが入っているが、『オックスフォード英語辞典』には、1150年以降のあらゆる言葉がある。その語彙の中には、廃れたものや死語、さらにはアメリカやカナダの英語のスタンダードなども含まれる。

 また、ロシアの辞書では、品詞が別でも数えられないケースがある。例えば、形容詞から派生した副詞だ。つまり、「収録語彙数」よりも実際の単語の方が多いわけだ。

 ちなみに、ロシア語では、「люб(愛)」を語根とする単語が約40あるが、英語では、「love」から派生した語は数語しかない。

 「現代ロシア語の文章語の15万語に方言を加えると、それだけで40万語になる」。学術的な辞書の編纂者の一人である言語学者リュドミラ・クルグリコワ氏は述べる

 

すべての言葉が使われているか?

アレクサンドル・プーシキン

 ロシア人はみな、15万語すべてを使っているのだろうか?もちろん、そんなことはない。教養のある人間の平均語彙は約1万語だと考えられているが、実際によく用いられるのは約2千語にすぎない。もっとも、専門用語を使用する専門家は、関連語彙を2千語ほどは使っているかもしれない。

 使用語彙数の記録保持者の一人が、詩人アレクサンドル・プーシキンだ。20世紀半ばに、『プーシキン辞典』が出版されたが、編纂に10年以上かかっている。詩人のすべての作品、書簡、事務的な書類、作品の草稿を分析した後、編纂者は、この辞書に約2万1000語を収録した。

 現代ロシア語の文章語を創り出したとされるのは、ほかならぬこのプーシキンだ。彼は、それまで文章語として使われたことのない庶民の言葉をとり入れ、それ以前の文章語の特徴だった、高尚で仰々しい調子を少なくした。

 

そのうち外来語はいくつ?

ピョートル1世

 ロシア語は、他の多くの外国語から借用し、吸収した。ギリシャ語は、キリスト教の伝播ともに入ってきた。テュルク系の外来語は、それを用いる諸民族と境を接していたために浸透。ピョートル大帝(1世)の下では、さまざまな科学の分野、航海術、その他、生活のいろんな領域に関わる欧州語が大量に流入した。

 19世紀ロシアでは、事実上、フランス語が貴族の第二言語になり、日常的に使われるようになる。プーシキンでは、彼の用いた語彙の約6%が外来語だ。研究者たちが突き止めたところによると、彼の詩では、外来語の52%がフランス語、約40%がドイツ語に由来するが、英語起源はわずか3.6%にとどまった。

 ソ連時代には、『外来語辞典』が刊行され、約2万3千の外来語が収められていた。しかし、2014年発行の『現代ロシア語の外来語辞典』にはすでに10万語が収録されている。

 20世紀に入ると、ロシア語における外来語のなかで、英語由来のものが他を圧倒するようになる。そして、ソ連崩壊とともに、その数はさらに増えた。

モスクワの第21学校

 今日のロシア語では、語彙の半分以上が何らかの借用語、外来語であり、その約70%が英語起源だと考えられている。しかも、借用語、外来語の数は絶えず増えている。

 言語学者たちは、これらの新しい言葉は主に、専門的で特殊な分野に関係していると考えているが、新語はロシア語にますますしっかりと組み込まれつつある。

 「外来語は、ロシア語のシステムに適応し、外国語起源の語根にますますいろんな接頭辞、接尾辞がついて、語彙数が膨れ上がっていく。例えば、『постить』(postする→投稿する)、『смайлик』(smiley)、『океюшки』(OK)、『лайкать』(ライクをつける)、さらには『облайканный』(たくさんライクがついている)という具合だ」。クルグリコワ氏はこう指摘する。

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