ロシア語には特殊な記号はない。例えば、特定の文字の発音を変えるアクセント記号や、前舌母音を表すウムラウト記号などはないが、発音の仕方を指し示す文字はある。例えば、軟音符がそれで、それ自体は発音されない(これと対になる硬音符「Ъ」もそうだ)。だが、軟音符は多数の文法上の機能を持っており、ロシア語学習者の頭痛の種だ。
「Родина-МАТЬ зовет」 (ロージナ・マーチ・ザヴョート) ( 母国が呼んでいる!)
Sergey Subbotin/Sputnik軟音符の一つの機能は、「硬子音」を「軟音音」にすることだ。“кон” と “конь”、 “жар” と “жарь”、 “мол” と “моль” は、発音がそれぞれ違う。
また、軟音符は、単語の読み方を示すだけでなく、それがどの品詞であるかも示す(語尾に軟音符を持つのは、たいてい動詞か名詞である)。
それが名詞であれば、女性名詞か男性名詞かのいずれかだ(ロシア語の名詞には性があり、男性、女性、中性の3通りがあるが、語尾に軟音符を持つのは前二者のみである)。
もう一つ重要なのは、軟音符がその名詞の格変化の仕方も示すことだ。語尾に軟音符を持つ名詞は特有の格変化をするからだ。
なかなか厄介ではないか?しかし、軟音符の用法の理屈が分かれば、それはとても役に立つ。重要なのは、それがどういう状況でどこに使われているかというコンテキストだ。
「А еще говорят, что мы СВИНЬИ」 (ア・イショー・ガヴァリャート・シトー・ムイ・スヴィニイー) (我々が豚だなんてまだ言っているよ)
A.Mosin, 1958ほとんどの場合、ロシア語では、母音はその前にある文字によって発音が違ってくる。
例えば、母音のЕ, Ё, Ю, Я の前に子音があり、それが軟音化すると(例えば、нервы〈神経〉, мёртвый〈死んだ〉, салют〈敬礼〉, мясо〈肉〉のようなケースだ)、母音は、Э, О, У, Аのように読まれる。
また、Е, Ё, Ю, Яの前に母音か軟音符か硬音符があると、母音の前に「Й」の音が加わり、ЙЭ, ЙО, ЙУ, ЙАのようになる。
“Семя”(セーミャ 種子) と “семья” (セミヤー 家族)は読み方が違い、もちろん、意味も違う。
軟音符と硬音符の用法を理解するうえで肝心なのは、個々のケースでどちらが必要なのか見分けることだ。なぜ “свинья” (豚)は軟音符を使い、 “въезд” (乗り入れ)は硬音符なのか?
このルールを習得するために多くの練習問題があるが、それでも間違いはかなり普通に起きる。
ほとんどの場合、軟音符は、語根と語尾、または語根と接尾辞を区切る。したがって、軟音符は、単語の終わりのほうにあるのが一般的だ。一方、硬音符は、接頭辞と語根を分離するので、単語の前のほうにある。
このほか、軟音符は外来語によく見かける。例えば、“бульон”(ブイヨン), “шампиньон”(シャンピニョン), “синьор”(セニョール)など。
これらは、軟音符を用いた面白い方法だ。ロシア語にない、外国語の文字と音が、このようにロシア語化されたわけだ。さらに例を挙げると、Большой каньон(グランドキャニオン), Данте Алигьери(ダンテ・アリギエーリ)など。ついでに、今話題の Канье Уэста (カニエ・ウェスト)も同じやり方で表記されている。
「Хорошо трудиТЬСЯ - хлеб уродиТСЯ」 (ハラショー・トゥルディーツァ・フレープ・ウラディーツァ) (よく働けば、パンがどっさりとれる)
M.Solovyov, 1947最もよくある間違いで、ネイティブにさえ見られるのは、再帰動詞の接尾辞、“-ться” と “-тся”のスペリングだろう。発音はまったく同じだが、文法上の意味は異なる。前者は動詞の不定詞であり、後者は三人称の形だ。
"Тебе тяжело знакомиться с новыми людьми?"(君は新顔と知り合いになるのが苦手か?→君は人見知りするのか?)
"Он знакомится легко с новыми людьми". (彼は新顔と容易に知り合いになる)
どういう場合に軟音符を挿入するのか、多くの人が混乱する。しかし、この接尾辞のからくりは実はとても簡単だ。"что делать/сделать?" または "что делает?"という質問の形にしてみよう。「…すべきか?」とか「…するのがつらい」という不定詞の場合は「ТЬСЯ」。「彼/彼女は…している」という場合は、軟音符は必要ない。
「Если книг ЧИТАТЬ не БУДЕШЬ - скоро грамоту ЗАБУДЕШЬ 」 (イエスリ・クニーク・チターチ・ニェ・ブーデシ・スコーラ・グラーマトゥ・ザブーデシ) (本を読まなければ、すぐに読み書きを忘れるよ)
A.Mogilevsky, 1925いわゆる「シュー音」(Ж, Ш, Щ, Ч)の正書法(つづり方)は、ロシア語の難関の一つだ。これらの文字の後にはЫを書いてはならず、かわりにИを書かねばならない(つまり、ЖИ、ШИのように書く)。ところが発音はЫになるのだ。
また、シュー音の後にОが来てもЁが来ても、発音は同じになる。例えば、“жёлтый” (黄色い)と “черт”(悪魔)では、最初の母音はОの音になる。
シュー音と軟音符の組み合わせはもっと難しい。Ж と Ш は、硬子音だが、軟化できない特異な音である。だから、その後に軟音符をつけても軟化しない。
一方、Щ と Ч は、それ自体が軟子音であり、したがって、軟音符がなくてもそうである。
だから、それでもなおかつシュー音の後に軟音符がついているとしたら、発音とは無関係な文法上の機能を果たしていることになる。
1. その単語が名詞であり、語尾に軟音符があれば、それは女性名詞であり、第3タイプの格変化をする。例えば“рожь”(ライ麦)だ。
2. もしそれが動詞ならば、それは不定詞であるか(例えば “жечь”〈焼く〉)、2人称の形か(“думаешь”〈考える〉)、もしくは命令形だ( “режь”〈切れ〉)。
3. さらに、“Уж замуж невтерпеж” (いずれも副詞で、「すでに、もう」、「既婚である」、「我慢できない」の意味)という語呂合わせ風の規則がある。これはつまり、語尾にシュー音を持つ副詞は、すべて末尾に軟音符を持つということだ(例えば“навзничь”〈仰向けに〉)。ところが、この規則には例外が3つだけある。それは何か、もう分かりますよね?
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