エリザベス女王がロシアを訪れたのは1回だけで、それは1994年10月のことであった。女王の訪問を歓迎して、サンクトペテルブルクのマリインスキー宮殿で開かれた宴のメニューは今も大切に保管されている。
宴の食事の一品目はスモークスペアリブの入ったペテルブルク風ボルシチであった。そしてその後、イクラを添えたブリヌィ、ザリヴノエ(煮凝り)、西洋ワサビを乗せたチョウザメ、「ストリーチヌィ」サラダ、牛タンなどロシアの前菜が振る舞われた。メインディッシュには、サーモンとメバルのクレビャカ(ロシアの伝統的なパイ)いくらソース添えが出された。そして、りんごのマジパンにムースが入った「黄金の秋」と名付けられたデザートが用意された。
その中から、当時のシェフが取り入れた「ストリーチヌィ」サラダ、ペテルブルク風ボルシチ、魚のクレビャカのクラシカルなレシピをご紹介する。
このサラダは20世紀半ばに、ホテル「モスクワ」のレストランのシェフによって、革命前のサラダ「オリヴィエ」を基に考案されたものである。革命前のサラダには、ライチョウの肉とザリガニが入っていた。1955年の「料理」本には、ほぼ同じ材料を使って作る「ストリーチヌィ」サラダのレシピが2つ掲載されている。しかし1つには鶏肉か野鳥の肉が使われ、もう1つにはチョウザメが使われている。
サラダ「ストリーチヌィ」をアレンジするホテル「モスクワ」のレストランのシェフであるグレゴーリ・エルミーリン
V. Minkevych/Sputnik1. ジャガイモは潰れない程度に茹でる(皮がついたままでもよい)。卵は固茹でにする。
2. 鶏肉または魚は茹で、2〜2.5㌢ほどに切る。茹でたジャガイモ(皮をむいて)、卵1つ、キュウリも同じようにする。キュウリの一部は輪切りにして後で飾る。
3. 葉物野菜は細切りにする。
4. すべて混ぜる。マヨネーズをかけ、りんごのピュレーとトマトペーストを基にした「ユージヌィ」ソースを加える。
5. 混ぜ合わせたら、サラダボウルにこんもりと盛り付け、ゆで卵(輪切りかくし切り)と葉物野菜を飾る。上にザリガニ、缶詰のカニ、オリーブを飾ってもよい。
6. 飾り付けは、鶏肉を使ったサラダには、酢漬けの野菜、キュウリの輪切り、小さく切った鶏肉がよく合う。
7. 魚を使ったサラダには、サーモンをひし形に切って飾ったり、潰したキャビアを飾るとよい。
ただ、カフェやレストランで「ストリーチヌィ」サラダを注文したときには、ザリガニやカニではなく、茹でた牛肉が入ったサラダが出てくるが、驚かないように。40年でレシピは大きく簡素化され、より多くの人々に食されるようになった。
ロシアでは、ペテルブルクのボルシチよりも、燻製肉の入ったモスクワのボルシチや特別な種類のビーツを使ったクバンのボルシチの方が有名である。しかし、ペラゲヤ・アレクサンドロワ=イグナチエワ著の料理本「料理芸術の実際的な基礎」(1909年)には、「ペテルブルクで調理するのが楽しい」ボルシチのレシピが紹介されている。では、そのレシピをご紹介しよう。
1. 牛バラ肉はそれぞれに骨がついているよう、大体同じ大きさに切り、煮て、ブイヨンにする。アクをとったら、塩コショウする。
2. ビーツ、カブ、ニンジン、セロリは皮をむき、拍子切りにする。
3. タマネギは皮をむいて、薄切りにする。深めの鍋に入れ、バターで炒める。
4. タマネギにビーツを加える。蓋をして、熱する。必要に応じて、バターを加える。カブ、ニンジン、セロリを入れる。ブイヨンを大さじ2加える。
5. キャベツは千切りにする。
6. 野菜が柔らかくなったら(およそ10分)、キャベツを加える。さらに5分熱する。
7. 小麦粉を加えて、少し炒める。
8. 野菜とブイヨンを鍋に入れ、合わせる。ブイヨンを煮た肉をお湯で洗って、スープに入れる。
9. 熱湯にさらしたポークリブ、粒コショウ、ローリエもスープに入れる。
10. 蓋をせずに弱火でさらに1時間煮る。
11. トマトを小さく切り、ボルシチに入れ、熱いボルシチの中に半時間置く。
12. 注ぎ分ける10分前に茹でた(または缶詰の)ホワイトビーンズを入れてもよい。具の量を調節する。
13. ボルシチの脂を取り、脂身で作ったソースに入れる(細かく刻んだ脂身または塩味の脂身にサワークリームとスプーン数杯のボルシチを混ぜる)。
14. 色を付ける。皮をむいた生の赤ビーツをおろし器でおろし、ブイヨンを加え、15〜20分置く。色をつけたボルシチの鍋を火にかけ、何度か沸騰させ、漉し器で濾して、ボルシチに加える。
15. テーブルに出す30分前に、ボルシチに焼いて、人数分に切った鴨肉を入れる。
16. また酸味のあるリンゴを切ったものや別に茹でたジャガイモを入れてもよい(実際、エリザベス2世はジャガイモに不満は言わなかった)。
クレビャカはロシアのテーブルの王女と呼ばれる。この上も生地で覆われた楕円形のピローグは、伝統的に、結婚式やパスハ(復活祭)などのお祝いのために用意された。クレビャカは一つのパイの中にさまざまなフィリングが、薄いブリヌィで区切られて入れられる。
1. 生地種は、小麦粉はふるい、イースト菌は温めた牛乳に溶かし、小麦粉を入れて、混ぜる。種は1.5倍から2倍にふくらむ。砂糖を加えて混ぜたら、室温に戻したバター、卵黄、塩を入れる。小麦粉を少しずつ加え、生地をこねる。生地はふきんで覆い、暖かい場所でさらに1時間置く。少しこね、さらに1時間置く。
2. 穀物をタイムと一緒に煮て、冷ます。
3. 耳のない白パンを砕いて生クリームにいれる。スズキは小さく切って、茹で、皮と骨を取り除く。バターを溶かし、タマネギを炒める。魚を入れ、さっと焼いたら、冷ます。魚をパンと一緒に肉挽き器に入れる。
4. タマネギはみじん切りにし、小さく刻んだバジルとともにオリーブオイルで炒める。サーモンのフィレは大きめにカットし、タマネギと一緒に炒める。塩コショウで味を調える。
5. ネギはみじん切りにする。卵は固茹でし、冷ましてから刻み、すべて混ぜる。
6. ブリヌィを作る。ブリヌィの材料をすべて合わせる。30分ほど置いてから、薄いブリヌィを焼く。
7. 膨らんだ生地を2等分する。作業台に打粉をして、生地をのばし、3〜4㍉の厚さの長方形にする。型にベーキングペーパーを敷き、バターを塗る。生地を型に広げる。最後にピローグ全体を閉じるため、生地の端を残しておく。フィリングが漏れ出ないように、生地にブリヌィを乗せる。
8. 穀物の層を広げ、少し上から押して、ブリヌィの層を乗せる。その後、サーモン、卵、スズキのすり身をブリヌィを挟みながら乗せていく。
9. 生地で覆い、端を留める。残った生地で植物のオーナメント(葉や花)を作る。卵黄を塗り、10〜15分置いておく。
10. 200℃のオーブンで25分焼く。下の天板に水を張る。オーブンからクレビャカを取り出し、もう一度、卵黄を塗り、水の張った天板を外してさらに15〜20分焼く。
11. クレビャカを焼いている間に、いくら入りのクリームソースを作る。鍋でバターを溶かし、小麦粉を入れて、かき混ぜながら少し焼く。生クリームを入れ、しっかり混ぜる。塩、コショウをし、スパイスを加えて、弱火で5〜7分煮る。ソースを火からおろし、冷まし、いくらを加える。混ぜる。
12. クレビャカは熱々で出す。4〜5㌢幅くらいに丁寧にカットする。それぞれにいくらソースをかける。
*エリザベス2世はタマネギを食べなかったが、このレシピではピローグをジューシーにしてくれるものであることから、タマネギを加えた方がよい。
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