ロシア人はイクラを食べるのか

Legion Media
 からいのが好きな人がいれば、甘いのが好きな人もいる。ちょっとスパイスの効いたものがほしいとき、ロシア人はイクラを食べる。冷たくて、塩味で、おいしくて、絶対にがっかりさせられることはない。

 けして大げさではなく、イクラはロシア人の生活に欠かせないごちそうである。缶詰のイクラはこの広大な国のどの食料品店で見つけるこができる。安くはないが、手が出ないほど高いというわけでもない。500グラム入りの瓶詰めのお値段はモスクワでおよそ3000ルーブル(およそ4,500円)である。

 ロシアでは年間平均15,00019,000トンのイクラが生産されている。昔から、その生産量のほとんどがカムチャツカ(ロシア極東にある半島で、鮭、ランプフィッシュ、鱒が豊富)で生産されている。食通によると、その年に採れた、瓶詰めのものがお勧めだという。モスクワを本拠とする魚店チェーンのアシスタントであるタマーラは、「鮭は7月から9月に産卵するので、イクラは遅くとも10月初めまでに作られなければならないのです」と話す。「もっとも人気のあるのは、紅鮭、シロザケ、カラフトマス、銀ザケのもの。そしてカムチャツカかサハリンで採られたイクラを探せば、間違いなく高品質です。そして瓶底に水が溜まっていないことを確認します。イクラの色と粒がそろっていて、ネバネバしていないもの。それが良いイクラです」。

昔からのご馳走

 イクラはグルメの間で特別な美味として長く愛されて来た。悪名高いソ連時代の物不足の時には文字通りお金では買えないものになり、家族の一体感や裕福さの象徴的なものであった。多くの人々にとっては、イクラは、結婚式や誕生日のパーティー、新年のお祝いのような特別なときだけにふるまわれるぜいたく品であった。イクラやさらにはキャビア(チョウザメの卵)の缶詰は、ソ連時代の工場労働者(エリート職員を含め)が彼らの業績に対して国家が祝日や新年に褒賞品として贈られる「食糧詰め合わせ」に入っていた。この食糧詰め合わせは誰でももらえたわけではなく、それに入っているものは地位や職業、役職によって異なっていた。

 「1980年代の中頃、祖父が頻繁にいろいろなごちそうを『アヴォーシカ』と呼ばれる編み袋に入れて帰宅したのを覚えています。食料品店の棚は、同じ種類のビスケット以外は慢性的に空っぽだったときに、祖父が持ち帰っていた食糧小包は、まったくの豊饒の角 (コルヌコピア=食べ物と豊かさの象徴)で、想像しうるあらゆる種類の食糧、わたしの好きな甘いコンデンスミルクやグリーンピース、ミカン、冷たいスモークソーセージ、箱詰めチョコレートやイクラなどが入っていました。祖母は、温かい白パンにバターをたっぷり塗ってその上にイクラを乗せて、テーブルに出していました。わたしは立て続けに、そのイクラのオープンサンドを34切れも食べていました。これは、わたしの幼少時代の最高の食べ物に関する思い出です」とアレクサンドラ(40歳)は思い起こす。

 マクシムが子供の頃は、イクラと言えば、家族全員が集まるイベントと同じ意味だった。

 「家族の誰かが誕生日のときには、何十個ものゆで卵にイクラが詰められたものです。面白いことに、わたし自身はイクラは塩味が強すぎて、あまり好きではなかったのですが、わたしはずっと瘦せていたので、母はいつもわたしにイクラを食べろとやかましく言っていたのです。イクラには多くのたんぱく質とビタミンが含まれているのだと言っていました。しかしわたしはイクラにはあまり興味がなく、母がよそ見をしている間に、そのイクラ入りのゆで卵を兄にあげていました。兄はそれが大好きだったのです。父はと言えば、やはりイクラが大好きだったので、凍らしたウォッカと一緒にイクラを食べるのが最高だと言っていました。イクラとウォッカの相性は抜群だということで、当然のようにそれを実践していたのです」。

 とにもかくにも、マクシムの母親の言うことは100%正しい。イクラは栄養価が高いことがずっと知られている。ビタミンDAE、ミネラル分だけでなく、カルシウム、鉄分、ヨウ素、マグネシウムが含まれる。その上、オメガ3脂肪酸が免疫力を高めてくれる。

イクラをどうやって食べる?

 イクラを食べるのには、新鮮なバゲットのようなパンと柔らかくて甘いバターとの組み合わせが最高である。クラッカーやフィロ(紙のように薄いパイ生地)と食べれば、イクラはとても美味しくなる。

 見た目はさておき、食通の中には、長いロシアの冬の朝食にイクラを食べるのが好きだと言う人もいる。

 「最近では、ロシア極東で生産されたイクラは、高級イタリアワインと同じくらい高価なのです」とポリーナ(29歳)は言う。「200グラム入りの缶詰は1週間で食べ切ってしまいますが、それでもとても幸せな気分になれます。イクラの明るいオレンジや赤は、楽観主義の色です。自然に笑顔になれるし、気持ちを高めてくれるのです。毎朝、パンケーキに大さじいっぱいのイクラを乗せ、サワークリームをかけて食べるとグルメ気分を味わえる。F・スコット・フィッツジェラルドはまったく間違っていると思います。美味しい朝食で1日を元気よく始めることができるのなら『朝はやさし』なんです」。

 ロシアでは、伝統的に、大みそかの家族のお祝いのご馳走に、果物、サラダや他のオードブル類とともにイクラが供される。新たな始まりをシャンパンで祝いつつ、ロシア人は数世代にわたって、幼少時代から慣れ親しんだ食習慣を忠実に守っているのである。 

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