本題に入る前に、まずこの「カーリャ」とはどんな食べものか説明しよう。これはキュウリの塩漬けで作るスープで、コース料理では最初に出てくる皿である。そしてロシアで今でも人気のあるもう一つのスープであるラソーリニクより前からあり、16世紀か17世紀にはロシアですでに広まっていた。カーリャのレシピは、18世紀の終わりごろよりプロの料理人向けの本には記述されていた。また、このスープについては、中世の家庭の主婦の心得を数々と書き連ねてある、「ドモストロイ」にも見ることが出来る。
200年前、このスープは何の疑問もなく、お祝いの席でつくられる豪華な料理だとされていた。ロシアではこの料理はとても人気があったので、上手に作ることができる人は、カレイシチック、つまりカーリャ作りの名人と呼ばれた。
なぜカーリャはロシアでこれほど人気があるのだろうか?素晴らしい辞書編集者であるウラジミール・ダリが19世紀に行った彼の演説の中で述べた言葉を借りると、カーリャはボルシチの一種で、キュウリの塩漬けで作るシチーである。具には、キュウリと肉が使われるが、断食期には、魚とキャビアを入れるか、あるいはピクルス入りキャビアスープとして食されたとある。
彼の説明では、いくつかのことがはっきりと分かる。まず、コース料理の一番目の皿は、ロシア人にはいつも人気がある。というのは、量がたっぷりで、強い男が新鮮な空気の中で、重労働を続けられるような心温まる昼食だからである。
次に、用いる材料が、ピクルス、キュウリの塩漬け、タマネギ、少しの魚か肉など、どの家にでもある一般的なものであること。3番目としては、実際断食期に食べられていたし、それに向いている料理である。信じられないかもしれないが、ロシア正教の信者は、実際、1年の間の多くの日を断食にあてている。最後に、そしてこちらも重要なことだが、この料理には、キャビアや数種類の魚が使われるので、まさにお祝い料理であり、たとえ断食期であっても様々な祝席で十分出すことができるものなのである。
しかし、19世紀には、カーリャの人気は衰え、ラソーリニクのような他のスープに取って代わられた。それがソ連時代に蘇ったのは、有名な料理人、ニコライ・クルバトフがモスクワ風ラソーリニキとカーリャを基に作ったレシピのおかげである。ソ連になり、グルメなモスクワ風ラソーリニクは労働者階級には不向きであると考えられた。そこで、簡素化されたレニングラード風ラソーリニクが生まれた。今では、ロシア料理を出すレストランならどこでも見ることが出来る。しかし、オリジナルのカーリャを食べたいというのなら、それはなかなか難しい。モスクワでは、聖ダニイル修道院で試すことが出来る。しかし、手っ取り早いのは、このレシピを使って自分でカーリャを作ってみることだ。
材料:
- 水 1.5リットル
- 明太子 150g
- タマネギ 1個
- ピクルス 3本
- 鮭 400g
- タラ 400g
- メルルーサ 200g
- ブラックペッパー 適宜
- ピクルスの漬け汁 150ml
- フレンチディル、コリアンダー、パセリ 適宜
- レモン汁 小さじ2
作り方:
1. すべての材料を計量しておく。どんな材料、どんな魚でもおいしいカーリャを作ることができるが、海魚を使った方がおいしくできる。カーリャには、通常、ウハーよりも多くスパイスを使うことになっているので、ブラックペッパーはたっぷり入れてもかまわない。またウハーよりは汁気が少ないスープなので、水は少なめでよい。
2. 魚は洗い、必要があれば、重さを計り、鍋に入れる。水1.5リットルを注ぎ入れ、沸騰させ、沸騰したら火をとろ火まで弱めて20分から30分煮る。
3. アクを取る。
4. 魚を取り出し、身と骨を分け、魚は小さめにカットする。骨は捨てる。
5. キャビアはスプーンで潰して、ペースト状にする。
6. タマネギの皮をむき、小さく刻む。ピクルスも同様に小さく切る。
7. 魚の出汁を濾したら、魚、キャビアを順に加える。
8. ピクルス、タマネギ、キュウリの漬け汁を加える。レモンの絞り汁を入れる。ブラックペッパーで味を整える。沸騰させたら、弱火にして30分、煮込む。
9. 出来上がり。お好みでハーブを入れ、黒パンとキャビアと一緒に召し上がれ!