「われわれは亡命中ではない、われわれは任務を負っているんだ」と、ピョートル・ワイリとアレクサンドル・ゲニスはジョークを言う。アメリカでの亡命ロシア人作家として、彼らはロサンゼルスの週刊『パノラマ』紙の料理コラムを書いていたが、それを『亡命ロシア料理』という一冊の本にまとめた。これはありきたりの料理本ではなく、ソヴィエト時代の物語やアネクドートが詰まった、機知に富んだエッセー集だ。もうひとりの亡命ロシア人作家セルゲイ・ドヴラートフはかつて、この本はひとつの世代全体のポートレートとなるものだと言った。こちらのサイトで、Academic Studies Press が提供してくれたこの本の一章を読むことができる。
わが国の人びとが国際主義を実現したのは、ただひとつ――料理の分野だけだった。われわれは外国人の友人たちにぺリメニをふるまう。ブライトン・ビーチのロシア料理店は、プロフ(ピラフ)で客たちを魅了している。アメリカの料理本には、「ロシア料理」の章に、クルミのソース「サツィヴィ」を載せている。万博のソ連パビリオンでは、ボルシチとシャシリクが出されていた。言うまでもなく、これらは北方料理、中央アジアやウクライナ料理、そしてカフカス料理が作り上げてきたものばかりなのだが、大規模な統合が起きて、現在ではロシア料理と呼ばれている。たとえそうだとしても、カフカス料理の分派が、ロシア料理の、もっとも鮮やかで、ぴりっとして、生き生きとして、極上のものだということは絶対に忘れてはならない。カフカス料理の中でも、とりわけ素晴らしいのはグルジア料理だ。
モスクワの本物の美食家に尋ねてみるといい。「アラグヴィ」(スターリン時代にオープンし、現在も営業中のモスクワの有名なグルジア料理店)という言葉を聞いただけで突然泣き出すことだろう。実際にグルジアを旅したことのある人たちなら(リゾート地を訪ねるのとは正反対だが)、グルジア料理のシンプルで独特な香りの記憶をずっと大事にしていることだろう。グルジア料理のひとつひとつが、詩にインスピレーションを与えたとプーシキンも言っている。
カフカス料理は辛いだけだなんて考えるのは、深い、犯罪と言っていいほどの誤解だ。いつも唐辛子が入っているし、ニンニクもよく使われるけれども、ほんのひとつかみの唐辛子を微妙な料理に放り込めば、それでグルジア料理の風味が出ると考えるのは、実につまらないことだ。
グルジア料理は、辛いのではなく風味豊かなのだ! 用いられる多くの香辛料の中で、唐辛子とニンニクはいちばん低い位置にいる。それより大事なのは、コリアンダー、パセリ、タラゴン、バジル、シナモン、クローブ、サフラン、フメリ・スネリ(乾燥ハーブミックス)だ…。生の香辛料が違いを生みだしてくれる。つまり、乾燥した香辛料じゃなく生のハーブを使うと、微妙な風味が加わり、香り豊かで刺激的な効果がもたらされる。
ハルチョー作りにトライしてみよう――普通の食堂で出されるハルチョーと同じものだ。でも、正しく作ってみよう、そうすれば、今まで一度も食べたことのないスープにお目にかかれるだろう。
まず初めに、ハルチョーはラム肉で作るのではなく牛肉を使う。一般的に、グルジア人は、他のどの種類の肉よりも牛肉を好む(唯一ライバルとなりうるのは鶏肉だ)。それで、約1㎏の牛肉の赤身を使う。これを2、3㎝角に切り、3ℓの水を注いで、1時間半ほど火にかける。肉を取り出し、ブイヨンをこし器で漉したら沸騰させ、そこにカップ1/2の米をまんべんなく振り入れる。塩を加えて肉を戻し入れる。10分ほどしたら、一回目の香辛料を入れるときだ。
一回目の香辛料は――中サイズの玉ねぎ4個をみじん切りにし、小麦粉大さじ1、パセリの茎1本、砕いた胡椒10粒分と一緒に炒める。5分経ったら、砕いた生のクルミ半カップを入れる。
二回目の香辛料は5分後に加える。(刻んだ)パセリの葉大さじ2、乾燥バジル小さじ1、胡椒とシナモン各小さじ1/2だ。その後に酸味を加える。グルジアの人たちはトクラピ(トケマリという乾燥スモモ)を使う。しかし、われわれのところにはトクラピがないので、ザクロジュース1/2カップか、いざというときには、トマトピューレ(濃縮でないもの)カップ1/2を入れよう。古典的なレシピにはフメリ・スネリが欠かせないが、われわれにはそれもない。ロシア人がやっている店にはたいていアジカという香辛料が売られているからこれを使おう。その場合は、唐辛子は省く。
5分したら火を消す。ニンニク5片を潰したものを加え、コリアンダーの葉を大さじ2と、バジルかセロリの葉を大さじ1/2入れ、5分ほど置いたら出来上がり!
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