ロシアのパイまたはピローグはロシア料理の中でも特別な地位を占めている。しかもロシアのピローグは外国からの影響を受けることなく、まさにロシア的なオリジナルの姿を留めている。
もともとピローグは特別なイベントのときに作られ、食されるものであった。ピローグという言葉は「ピール(宴)」という言葉から来ている。それぞれの祝いごとに特別なパイがあり、それにより、ロシアにはピローグの種類がたくさんあるのである。それらは生地も違えば、具も違い、形も大きさも味も違う。
もっとも手の込んだ贅沢なパイはクレビャカと呼ばれるもの。これは単なるパイではなく、完全な一皿料理である。クラシカルなクレビャカも具は数種類あるが、伝統的なものといえば魚である。この料理のもっとも豪勢な作り方でよく使われる一番変わった中身はチョウザメの脊髄。1970年代までは商店でもよく売られていた。クレビャカの専門家の中には、中身をできるだけジューシーにしようと、調理中にパイの中に氷を入れたと指摘する者もいる。
19世紀にイワン・ツルゲーネフやニコライ・ゴーゴリといった作家たちがクレビャカを絶賛したことを知っている方もいるかもしれない。しかしここで紹介したいのは「サイレン」というチェーホフの短編。この小説の中では、判事らが休憩のために会議室に集まるのだが、皆お腹が空いているため、彼らは食べ物の話を始める。そこでその中の一人が、非常においしくて具がむき出しで恥ずかしげもないクレビャカというパイについて熱心に語る。彼はジューシーで惜しみない具から脂がまるで涙のようにしたたるクレビャカにウィンクすらするのである。美味である。
19世紀にロシアで働いていたフランスのシェフらが、クレビャカを世界に紹介したいと考えた。そしてそのとき彼らは「高級料理」とするため、レシピに修正を加えた。生地をもっと繊細なものにし、狩猟肉や珍しいきのこ、それにサーモンなどを使った。クレビャカのレシピは今でもフランスのクッキングスクールで教えられている。
このパイは富と豊かさを表す食のシンボルとなった。精進期でも、穀物と野菜だけを使ったクレビャカが焼かれ、常にテーブルのセンターに置かれた。
材料
生地:
- 小麦粉 400g
- ドライ・アクティヴ・イースト 10g
- 塩 10g
- 砂糖 15g
- 油 大さじ4
- 水 120ml
- 卵 2個
具:
- ショートグレインライス 100g
- タマネギ 180g
- サーモン 250g
- パセリ(刻んだもの) 10g
- ディル(刻んだもの) 10g
- きのこ 120g
- 卵(Sサイズ) 2−3個
- 塩・コショウ
作り方
1.先ずは温かい水にイーストを溶かし、3–5分待つ。少し気泡が出てくれば、イーストが生きているということ。
2.ボウルに小麦粉、塩、砂糖を加え、軽く混ぜ合わせる。油、卵、アクティヴ・イーストと水を混ぜたものを加える。均等になるよう混ぜる。生地がすっかり柔らかくなり、少し粘着性が出てくるまで、手またはミキサーでこねる。10分以上はこねないこと。
3.生地をラップで覆い、2倍ほどの大きさになるまで温かい場所に置いておく。90分くらい見ておくとよい。
4.生地を膨らませている間に、お米を炊く。お米の炊き方についてはそれぞれやり方があるので、好みのやり方で炊く。
5.タマネギときのこは角切りにし、それぞれ、中火から強火で炒める。タマネギはよく火を通し、柔らかくなるまで炒める。カラメルの風味にしたければ、砂糖をひとつまみかふたつまみ入れる。冷ます。きのこも同様にする。
6.卵をゆでる。水の入った鍋に入れ、沸騰させる。沸騰したらすぐに蓋をし、火を消したら、そのまま6分置いておく。それから冷水に入れ、皮をむく。
7.サーモンはウロコや薄皮を除いてきれいにし、1cmほどの角切りにする。
8.すべての材料(お米、タマネギ、サーモン、ハーブ、きのこ)が準備できたら、すべてを混ぜて、塩コショウで味を整える。卵は脇によけておく。
9.生地が2倍に膨らんだら、中の空気を抜き、丸くまとめる。飾りに使う分の生地を少し取っておく。
10.打ち粉したキッチンペーパーの上に生地を置き、綿棒で長方形に伸ばす。厚さは5ミリくらいになるようにする。具を生地の真ん中に置き、卵をその上に置く。キッチンペーパーを使って、生地の片方を具を巻き込むようにして閉じる。生地をさらに巻き、継ぎ目が下にくるようにする。両端の余分な生地をロールの下に折り込む。
11.180℃に予熱したオーブンに入れ、トレイにベーキングペーパーを敷く。パイをキッチンペーパーからベーキングトレイにそっと移す。ここでも継ぎ目が下にあることを確認すること。
12.完成までもう一息。最後にパイをデコレーションする。とっておいた生地で何か好きな模様を作って乗せる。あなたのクリエイティヴィティを発揮できる場面である。可能性は無限だ。飾りが表面にうまくつかない場合は少量の水を使う。焼く直前に、卵液を表面に塗り、爆発しないよう、サイドにフォークでいくつかの穴を開ける。表面が黄金色に色づくまで1時間ほど焼く。
13.出来上がったら、オーブンから取り出し、ふきんで覆って10分から15分ほど冷ます。
これであなたにとって初めての(あるいは何度目かの)クレビャカの出来上がり。工程が多いように感じるかもしれないが、難しいものではない。そして何より、試食の瞬間、作ってよかったと思うはず。ぜひトライしてほしい。