乳製品が好きな人にとって、ロシアは天国だ。中でもトヴォーログは非常に人気がある。このトヴォーログというのは「凝乳(カード)」とも「カッテージチーズ」とも訳される。しかし本当のロシアのトヴォーログとはなんなのか?
ロシアのトヴォーログに似たものを外国でみつけようと思えば、ロシア食品店に行くしかない。そこには砂糖も塩も入っておらず、粒状をしたトヴォーログが売られている。一般的には2種類のトヴォーログがある。固いブロック状になったものと砕かれた状態でパッケージに入ったものだ。伝統的なトヴォーログは牛乳と酵素だけで作られている。トヴォーログという言葉はロシア語の「つくる」(tvorit’)という動詞と同じ語根を持っている。この場合は乳製品を「つくる」という意味である。
普通はカッテージチーズと訳されるトヴォーログはロシアのいわば「ホームメイドチーズ」で、塩味のぼそぼそした粒状の塊である。塩味のないブロック状のカッテージチーズもある。生クリームとジャムが加えられている。柔らかいトヴォーログはクワルク(白チーズとも呼ばれるドイツのフレッシュチーズ)やカードに似ている。これも生クリームを加えて作られるが、粒状ではなく、ぼそぼそした感じでもない。レーズンや砂糖を加えれば、パンやケーキのフィリングにもなり、スプーンですくってそのまま食べることもできる。ロシア人はこれを一口サイズにしたものにチョコレートをかけたものを作るが、それは子どもたちのお気に入りのおやつである。
トヴォーログは非常にヘルシーで、カルシウム、マグネシウム、鉄、ビタミンを含み、ラクトースを含まない。ロシア料理にはトヴォーログを使ったメニューが数多くある。賞味期限が短いのがその理由でもある。自家製のトヴォーログの賞味期限はたった72時間、商店で売られているものでも2週間以内である。
伝統的なトヴォーログは焼き菓子を作る際の重要な材料となることが多い。トヴォーログを使ったもっとも一般的な料理は2つ。1つはスィルニキ。チーズという意味のロシア語「スィル」から派生した名前を持つ。そしてもう1つはザペカンカ。こちらは「ベイク」という言葉から派生した名前である。
なぜトヴォーログがチーズと解釈されるのかという興味深い理論がある。古代スラヴ語において、チーズを意味する言葉がチーズとトヴォーログの両方に使われていたというのである。厳密にいえば、トヴォーログは「チーズの下ごしらえ」を意味し、圧力をかけると現代でいうところのチーズになるというわけだ。現在のロシア語では、チーズとトヴォーログは異なる言葉で表現されるが、セルビア語やウクライナ語など他のスラヴ語では古代の言葉が残っている。しかし実際には、前述の「スィルニキ」のように、トヴォーログが使われているいくつかのロシア料理の名前に「チーズ」が入っていることがある。
トヴォーログはパンやお菓子の甘い詰め物やトッピングのベースにもなっている。たとえば人気の「ソーチェン」や「ソーチニク」クッキーは甘いトヴォーログが中に練り込まれたビスケットである。また上部が開いた丸いパイ「ヴァトルーシカ」は生地とクリームの中にトヴォーログが入っている。トヴォーログだけでもおいしくて繊細なケーキを焼くのに使われる。
トヴォロージニクという名前で知られるケーキはトヴォーログとサクサクしたパイ生地で作られる(生地なしで焼くレシピもある)。よく似たレシピはドイツにも(ケーゼクーヘン)、フランスにも(ガトー・オー・フロマージュ・ブラン)、アメリカにも(チーズケーキ)ある。面白いことに、ドイツではチョコレートベースのカッテージチーズケーキに生地で作った小さな飾りがつけられているのだが、この飾りがなぜか「ロシアン」と呼ばれている。しかもロシア版のものを作るにはクラシカルなトヴォーログを使うが、外国のレシピでは柔らかいチーズ(クワルクやフィラデルフィアクリームチーズ)を使う。ここで紹介するケーキのレシピは直径20〜24センチのケーキ型用のものである。
材料:
生地:
フィリング:
作り方:
1. 冷やしたバターと小麦粉を混ぜる。バターを手でこねるようにする。ベーキングパウダー、砂糖、卵を加え、生地を練る。ボロボロした感じがなくなり、なめらかになるまでこねたら、ふきんをかぶせて、涼しい場所に30分置いておく。
2. 生地を寝かせている間にトヴォーログのフィリングを作る。卵黄を取り出し、砂糖を加える。次にトヴォーログをざるでこす。(ここが一番難しい)。こうすることでふわっとさせることができ、口の中で溶けるようなトヴォーログができる。卵白をハンドミキサーで泡立てる。固くなったらゆっくりと生地に加えていく。スターチと生クリームをフィリングに加え、均等に混ざるように全体を混ぜる。
3. 生地ができたら、ケーキ型を取り出し、端が少し高くなるように生地を広げる。端がフィリングの高さになるのが理想的。フィリングを乗せたら、180度に予熱したオーブンで1時間焼く。焼き始めて45分はオーブンを開けないこと。ケーキがほぼ焼けたら、オーブンの火を消し、しばらく置く。ぱさつくのを防ぐため、1時間以上は焼かない。
出来上がったら、少し冷まし、切り分け、ジャムやベリー、甘いソースを添えていただく。このケーキは次の日に食べる方がおいしいと言われるが、あっという間に食べてしまうので、次の日に食べるというチャンスはなかなかない。もし翌日に食べてみることができたという方はぜひどうだったか感想をお寄せください。
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