ロシアの降誕祭は、他の大きな祭日と同じく、その前に斎戒期があるのが常だ。1月6日(ユリウス暦の12月24日)は、精進期の最後の日で、1月7日の夜空に最初の星が瞬き始めるや、古のロシア人たちは食卓に着いた。各家庭には独自の料理があったが、しかし降誕祭の宴に欠かせないいつかの品もあった。
クチヤー
祭りのメインの料理は、クチヤー(またはコリヴァ)だ。これは、煮た小麦と蜂蜜で作った祝祭、儀式用の料理。ナッツ、レーズン、けしの実などを加えることもあった。
このお粥のポイントは、それぞれの素材が正教のシンボリックな意味を含んでいることだ。小麦は死からの復活を、蜂蜜は永遠を象徴した。信心深い人のなかには、未だにクリスマスイブにクチヤーを作る者もあるが、ふつうは米、大麦、そして蜂蜜の代わりに砂糖を使う。
ガチョウのロースト
ガチョウのローストは、降誕祭の宴における真の「ツァーリ」だった。正教徒は、斎戒期には肉を食べられないので、精進落とし用に、大量の肉を熱心に用意した。降誕祭前夜が近づくにつれて、肉を積んだ荷馬車があちこちの通りに現れた。ガチョウ、アヒル、シチメンチョウはかなり高価で、様々な地域に、降誕祭用に特別に届けられた。
正統的なお祭り用ガチョウのローストは、こんがりと黄金色に焼き上がり、皮がパリパリする。そして甘酸っぱいリンゴや発酵させた酸っぱいキャベツなど、様々な詰め物が入っているのが普通だった。
詰め物入りの豚の丸焼き
クリスマス料理の「真打」としては、ガチョウのローストに比肩しうる唯一のものは、詰め物をした豚、あるいは、ロシア人の表現を借りると「乳白色の豚」だった。この料理は用意するのが難しく、それだけに強い印象を与えた。それというのも、生後2〜6ヵ月という、非常に限られた子豚が必要だったので、富裕層しか食べられなかったからだ。お粥や野菜をふんだんに詰めた、子豚の丸焼きは、精進落としの大盤振る舞いで真のシンボルだった。
クーリビヤック
この壮大なるロシアのパイは、どんなお祝いの宴でも大受けで、クリスマスも例外ではなかった。 他のパイと違うこのペストリー独特の点は、様々な詰め物がいくつもの層をなしていること。一つのクーリビヤック のなかに、いろんな種類の肉、赤身と白身の魚、米、キノコ、卵、野菜、さらには種類の異なる生地まで含まれている。どの女性も、家族と友人を驚かせるために、思い切り腕を振るって、自分独自のお祝い用クーリビヤックを考案したものだ。
サラダ「ヴィネグレット」
この伝統的サラダは、ビーツ、ポテト、ニンジン、ピクルスなどを、酢と油で和えたもの。今なおクリスマスの食卓で人気の一品だ。あまりいろいろ買いそろえる余裕がない人は、ニシンを加えるなどして、材料面で非常に簡単でお手軽なバージョンを作った。一方、裕福な家庭では、しばしばチョウザメのような高級魚を加えて、ワンランク上の味に高めた。
焼き菓子「コズーリャ」
コズーリャは、古のロシアのいくつかの地域では、最も人気ある儀式用クッキーの一つだった。基本的には、砂糖シロップを使って、型で生地をくり抜いて作る、サクサクした糖蜜焼き菓子(ジンジャーブレッド)の一種であり、時にはアイシングで装飾する。このおいしいお菓子の利点は、おもちゃやお祝いの装飾としても使えることだ。望み通りのどんな形にもすることができる。伝統的な形は、天使、動物、鳥、クリスマスの星、家など。なお、コズーリャは、上機嫌で、良い気分で作るべきだと広く信じられている。そうでないと硬くなりすぎて割れてしまうというのだ。
コンポート「ヴズヴァル」
これは、お祭りや儀式で飲まれるデザートドリンク。煮込んだ果物や果実で作られるコンポートだ。人々はふつう、蜂蜜、スパイス、ハーブなどをふんだんに入れた。スラヴのソフトで健康的な飲み物で、ホットパンチ(香料入りの温めた赤ワイン)の代わりにもなる。