北海道でビーツの本格栽培に向けた取り組みがスタート

ビジネス
丸山香奈子
 ロシア料理には欠かせない真っ赤な色が特徴のビーツ。日本では見かける機会の少ない食材であるが、近年、北海道で本格生産に向けた取り組みが進められている。

 日本でも本格的なボルシチが食べられる日が来るかもしれない。ロシアではボルシチの材料としてだけでなく、サラダを初め多くの料理に使われているビーツ。「食べる輸血」とも呼ばれているビーツは、特に女性の美容と健康に欠かせない栄養素である、鉄分、ビタミンC、葉酸、食物繊維、抗酸化物質を多く含むスーパーフードとしても注目を集めている。

 しかしながら、根菜類は繁殖力が強いこともあり他の野菜に比べて輸入に関する規制は厳しい。よって、日本国内でロシアのボルシチとして提供されているスープの多くは缶詰を利用していたり、トマトで色を出していることが多く、本場のボルシチとは異なる味である。

本格的なボルシチ

 そんななか2018年より、北海道でビーツ(同地ではレッドビートと呼んでいる)を特産化する取り組みがスタートしている。そして、今年の春には北海道の老舗レストラン五島軒で、同レッドビートを使った本格的なボルシチが商品化された。北海道に於けるレッドビート栽培の取り組みに関し北海道の農業協同組合JAグループのホクレンに話を聞いた。

 北海道大学との包括連携協定締結の一貫で、2018年よりレッドビートの特産化を目指す活動を本格化させた。同年には20㌃の試験栽培に取り組んだ。今年2019年には栽培面積を5倍に拡大し、1㌶を作付け、10㌧程度の収穫を見込んでいるという。

 経営企画部の南氏は「レッドビートはまだ日本での認知度が低く、どのように調理できるか知られていないことがネックだ。」と語り、「本国ロシア同様にサラダ食材としての用途を打ち出していきたい。特にハロウィン等(カラフルな食材の需要が高い分野において)の食材として仕掛けていきたい。」と意気込む。

 天候不順等もあり、昨年の試験栽培による収穫量は800kgにとどまったものの、レストランでの提供やコープでの店頭販売の他に、老舗レストラン「五島軒」の商品「北海道ボルシチ」の材料として使用された。

正教会に習ったロシア料理

 「五島軒」は創設者若山惣太郎が北海道で出会った五島英吉という料理人と開いた老舗洋食レストランだ。長崎幕府で通訳をしていた五島が旧幕府軍に加わり転戦、箱館戦争で負傷し、命からがら逃げ込んだ場所がロシア領事館兼ハリストス正教会であった。ニコライ神父に命を助けられた五島はその後10年間正教会で働き、ロシア料理とパン、お菓子作りを習った。

 五島はその後、若山と出会い、ロシア料理とパンの店「五島軒」を開く。現在はカレー等の洋食も提供しているが、創業140年経った現在でも、ロシア料理は創業の味としてしっかりと受け継がれている。人気のメニューは、ボルシチやサーモンと茸のロシア風、ビーフストロガノフ、ピロシキ等が含まれるロシア料理セミコースだ。

 「五島軒」は140周年を迎えるにあたり、原点に返り、創業の味であるロシア料理の商品化したいという思いから、「北海道ボルシチ」を開発した。販売部の工藤次長は、「五島軒は北海道の広大な大地に育まれた食材と、この地に住む人々に支えられてきたレストランである。」と語り、「伝統を大切にしながらも、地元のお客様の口にあう料理を作ることが使命と考えてきた。」と添えた。

 発売にあたり、ハリストス正教会の司祭夫婦にも試食してもらったという。売れ行きも好調で、発売から2か月で製造量の3分の2にあたる2000パックが売れた。製造担当者は「収穫された生のレッドビートを使用することが出来たため、缶詰とは違い、ボイル時に最大限旨味を引き出すことが出来た。」とコメントを寄せた。

 ホクレンは、レッドビートのPR強化に向け、地元の中高生とともにロゴデザインの作成等にも取り組んでいる。ビーツ(レッドビート)の特産化に向けた北海道での取り組みは、まだ始まったばかりだ。