ロシアの北極海沿岸付近に、サベッタ港が建設されている=タス通信撮影
地図でヤマル半島東岸にあるサベッタ港を見てみよう。最近までサベッタ村はほとんど知られていなかった。ここからの船舶の所要時間は、フランスのマルセイユまでで10日、中国の上海までで20日。2~3年後には液化天然ガス(LNG)タンカーが、ここからヨーロッパや東アジアへ向かうことになる。
北極海航路はお得なヨーロッパから東・東南アジアへの貨物輸送路。他にインド洋とスエズ運河を経由した南航路が存在し、現在はここを中心に貿易が行われ ている。北極海航路には運河や海峡の狭さによる停滞がないため、南航路よりも輸送期間が短くなる。北極海航路を経由した場合、航路はオランダから中国まで で20%、韓国までで3分の1、日本まででほぼ半分になる。スエズ運河通航料、燃料費、その他輸送にかかる税金を計算に入れると、北極海航路のコストを大 型船で20%減、すなわち1750万から1400万ドル(約17億5000万~14億円)減らせることになる。さらにより安全でもある。スエズ運河、紅 海、インド洋経由の航路には、海賊のリスクがある。保険会社は通常、これを補償範囲に含めない。ただし、北極海航路の航行が常に安全で効率的だったわけで はない。ソ連時代に建設され、老朽化した海岸インフラと氷によって、この航路の長所には目が向けられなかった。
採掘、生産、流通の一大拠点に
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ここは大規模な炭化水素採掘・生産プロジェクトの流通拠点。1兆3000億立方メートルのガスを備蓄する、南タンベイ・ガス田が誘引点だ。南タンベイ・ガス田は入念に調査され、開発の準備が整えられている。大陸にパイプラインを敷くのは良いアイデアだが、非常にコストがかかる。さらに、世界市場の取り引きと引き合いを地理学的観点からみると、経済的損失も産む可能性がある。そのため、投資家である「ノバテク」は、港と空港を備えたLNG工場の建設を引き受けたわけで、専門家の意見も同じだ。
ロシアがLNG市場への参入に遅れをとれば、輸出国として大きな損失を被ることになる。連邦政府も行政も、ガス採掘戦略が国内の北極圏にさまざまな効果をもたらすことを理解しているため、戦略を支持している。ロシアの大胆な北極圏への進出には、「トタル」(フランス)や「中国石油天然気集団公司(CNPC)」など、外国の経済界も関心を示している。CNPCは「ヤマルLNG」社の株式20%を取得する。
ヤマル・プロジェクトの総額は3兆円
ヤマル・プロジェクトの総コストは、1兆ルーブル(約3兆円)ほど。国庫からも水域工事に予算が配分されるが、そのコストは4000億ルーブル(約1兆 2000億円)。オビ湾は浅瀬であるため、サベッタに大型船舶が1年中係留するには、海底土約7000万トンを掘削し、長さ数百キロメートル、幅5キロメートルのチャンネルを築く必要がある。さらに予算で原子力砕氷船が導入され、防氷施設やナビゲーション・システムがつくられる。
このプロジェクトは北極海航路を、信頼性が高く、費用が安く、安全な、人気の航路にするものである。2010年と比較すると、最適な航路として北極海航 路を選んでいる外国船舶の数は、十倍ほどに増大している。選択の理由は明らかだ。例えば夏季航海では、従来のスエズ運河経由の南航路と比べて、韓国や日本 への航行時間が3分の1まで短縮される。
ロシア産業企業家同盟の専門家の試算によると、サベッタ港が多機能港になり、陸上輸送網と連結すれば、貨物取扱量は年間6000~7000万トンに達する可能性があるという。
ソコロフ運輸相:「地政学的機能」
マクシム・ソコロフ・ロシア連邦運輸相はこう話す。「サベッタ港には地政学的役目がある。北極圏のエネルギー資源開発においてロシアをトップに引き上げ、国の経済的潜在性を著しく強化することができる」。
ヤマロ・ネネツ自治管区の行政は、オビ湾岸の工業・輸送拠点の機能性に、極めて高い関心を抱いている。これは税の収入源になり、他の非標準的なプロジェ クトの幅広い実現を可能にするような、技術的地盤になる。行政は例えば、尿素(窒素肥料)工場の建設案を経済界に提案している。これはインドと中国が積極 的に輸入するだろう。
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