アンドレイ・タルコフスキー 著
刊行 2015年9月
前田和泉 訳
山下陽子 挿画 エクリ
本書はアンドレイ・タルコフスキーが1970年代、構想中の映画のシナリオとして発表したもの。とはいえタルコフスキーの筆致は完全に作家のそれであり、読者は結局実現しなかった映画をたえず想像しつつも、類稀なる小説世界――ドイツ・ロマン主義文学の巨匠ホフマンの生涯とその作品の幻惑的交錯に引き込まれる。つまり読者は映画と文学のみならず、現実と虚構の二重化のうちに身を置くことになるわけだが、そもそもそこに描かれるものの一切は、現在と過去、文学と音楽、芸術と実務…というように二重化し、作中に登場する「鏡の間」のごとく、互いのうちに自らを反映しているのだ。前田和泉氏の精密な訳は熟読に値する。山下陽子氏の挿画も精巧で、本作りという点でも秀逸な一冊。
(斉藤毅・獨協大学講師)
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