ロシア文学の笑える古典的名作:深刻な大作ばかりじゃない

カルチャー
アンナ・ポポワ
ロシア文学の古典的名作には、悲劇的な結末を迎えるドラマティックな物語だけでなく、愉快でアイロニカルな話もある。なかでも最も興味深いものをご紹介しよう。

アントン・チェーホフ『結婚申込』

 今すぐ元気になりたいなら、チェーホフのユーモラスな物語をひもといてみよう。この「薬」の効き目は実証済みだ。たとえば、全一幕の戯曲『結婚申込』のジョークの切れ味はお見事。主人公は、隣家の娘に結婚を申し込みにやって来るが、その縁談はすぐさま土地をめぐる口論に発展する。プロットは面白いが、実は恐ろしい状況だ。幸いにして、すべてはハッピーエンドで終わる。

*日本語訳:

浦雅春訳『桜の園/プロポーズ/熊』(光文社古典新訳文庫、2012年)、その他多数。

ニコライ・ゴーゴリ『結婚』

 戯曲『検察官』と長編『死せる魂』の作者である彼は、この戯曲を「2幕のまったくありそうにない出来事」と名付けた。主人公は、役所に勤める七等官イワン・ポドコレシンだが、実際、あり得ない行動をする。結婚しようと思っているのに、花嫁探しを急がない。せっかく彼の友人コチカリョフが他の求婚者をうまく出し抜いても、ポドコレシンは、なかなかプロポーズしない。しかし結局、もう結婚するしかない状況追い込まれ、人々は、新郎新婦を教会で待っている。ところが、主人公は窓から飛び降りて逃げ出す…。

*日本語訳:

堀江新二訳『結婚~2幕のまったくありそうにない出来事』(ロシア名作ライブラリー)、群像社、2019年、その他。

フョードル・ドストエフスキー『他人の妻とベッドの下の夫』

 この中編小説の最初の行は、ブルガーコフの大作『巨匠とマリガリータ』の第一部第一章「見知らぬ者たちとは口をきくべからず」に微妙に似ている。

 すなわち、「サンクトペテルブルクのどこかの紳士が、まったく面識のない別の紳士に向かって、路上でいきなり何かについて話しかけたら、その紳士は怯えるにちがいない」。

 これは、嫉妬についての幻想的な物語で、夫、妻、愛人、そして小犬アミシカが関わっている。

*日本語訳:

工藤 精一郎、原 卓也訳『鰐:ドストエフスキー ユーモア小説集』(講談社文芸文庫)、2007年。

アレクサンドル・オストロフスキー 『バリザミノフの結婚』

 素朴な役人ミハイル・バリザミノフは、金持ちの花嫁を見つけることを夢見ている。彼が白羽の矢を立てたのは、商人のドムナ・ベロテロワ。この劇には、花嫁の略奪、遺産の探索、そして「逆玉」への期待などのモチーフが含まれている。

 「『愚か者は幸福である』という諺があるだろう。で、ほら、あたしたちも幸運にありつけたわけさ。賢くなろうなんて思わないことだよ。幸せでさえあればいいじゃないか。お金があれば、頭が無くても生きていけるさ」。バリザミノフの母親は幕切れでこう語る。 

アレクサンドル・クプリーン『ベッド』 

 レオニード・アントーノヴィチは、ロココ風のベッドをオークションで購入した。それには、キューピッドの彫刻が施され、結婚式の行列が描かれている。彼を訪ねてきた知人たちは、彼が結婚するつもりだと思って、からかい始めた。実際、すぐにキューピッドが彼に結婚について「ささやき出した」。主人公はその「誘惑」に負けてアパートの大家と結婚したが、彼女は、彼の骨董品好きを理解してくれず、おまけにケチだった。