1940年代ソ連の重要な映画10選

Ivan Pyryev/Mosfilm, 1950
 苦しい戦争を戦う一方、国は映画のことも忘れてはいなかった。

1. 『四人のハート』(1941年)

 この軽やかなミュージック・コメディの主要登場人物は、厳格な数学助教授のガリーナ、彼女の妹で不真面目な女生徒のシューラチカ、精悍な軍人ピョートル、内気な生物学者グレブである。彼らは色々と騒動に巻き込まれたり、おかしな状況に陥ったりするが、最後にはそれぞれの幸福を見つける。

 この映画は「現実離れしている」として当局にひどく不評だった。ようやく1944年、明るい映画の必要性が急激に高まっていた時期になって一般に公開された。

 観衆は正反対にこの映画を歓迎し、現在でも『四人のハート』はソ連製コメディ映画の人気作の一つとして記憶され続けている。

2. 『養豚者と牧童(コーカサスの花嫁)』(1941年)

 1940年代ソ連映画の珠玉の1つ。ダゲスタンの牧童ムサイブと、ヴォログダ州のコルホーズで養豚に従事するグラーシャの恋愛を描く。2人は、モスクワで開かれた農業博覧会で出会う。

 1941年6月22日に始まった戦争のため、この映画は危うく完成しないところであった。男優たちがことごとく招集されたためである。スターリン直々の採決により、彼らはほどなくして撮影現場に帰された。

  1944年、『養豚者と牧童』は国外でも公開された。アメリカでは『モスクワで出会った2人』(『They Met in Moscow』)というタイトルで知られている。

3. 2人の戦士』(1943年)

 この映画の撮影は、疎開先の中央アジアで行われた。レニングラード防衛にあたる2人の赤軍兵士の堅い友情の物語である。この映画のために歌曲『暗い夜』が作られ、俳優マルク・ベルネスが劇中で歌い、ソ連の最も愛される歌の1つとなった。

 レオニード・ルーコフ監督はこの作品について、次のように語っている:

 「映画『2人の戦士』で大事なのはストーリーでも舞台でもなく、戦争の中にある人間だ。全てが大事だった。彼らの戦い、彼らの望郷の思い、素晴らしい女性に対する愛、夢想する未来…地雷や砲弾の炸裂と轟音の中にあって、普通の人間の心臓の鼓動を聴き取り、兵士たちの想いに耳を澄まし、普通の人々の声で銀幕から語り掛けたかった。普通の人々の歌を歌い、不死の勝利へ導くソ連愛国者の崇高で真な想いを届けたかった」。

4. 『婚礼』(1944年)

 アントン・チェーホフの没後40年に合わせて製作された映画。複数のチェーホフ作品をベースに、革命前のロシアの中流階級の気質を暴く。

 『婚礼』には個性豊かな登場人物が多く、役者の好演によって存在感を放っている。俳優たちが如何に献身的に撮影に挑んだかという好例として、ミハイル・プゴフキンのエピソードがある。彼は負傷によって除隊したばかりであったが、とあるシーンであまりに熱心に踊ったため、足の傷が開いて長靴が血だらけになったという。

5. 『空の忍び足』(1945年)

 このコメディ映画の主人公、ワシーリー・ブロチキン少佐は高速戦闘機乗りだったが、負傷後、夜間軽爆撃機U-2に配置転換された。しかも、彼は「空の忍び足」を得意とするU-2飛行大隊を率いることになるが、部隊のパイロットは全員が女性なのである。

 本作は終戦直後に撮影された。実際の軍用機が用いられた他、考証・助言や出演者の代役は前線帰りのパイロットが行った。スターリンは本作を「無思想で空虚」と批判したが、広く国民に愛される作品となった。

6. 『イワン雷帝』(1945年、1958年)

ソ連の偉大な映画監督セルゲイ・エイゼンシュテインの最後の作品。ロシアのツァーリとして初めて戴冠したイワン4世「雷帝」の2部作から成る物語である。第1部は雷帝の若年期と治世当初を描き、1945年に公開されてスターリン賞も受賞した。

 第2部ではツァーリによる反対派貴族の弾圧と、反抗者に対する容赦ない粛清が描写され、スターリンの不興を買った。作中に自らの権力闘争との対比を見たスターリンは、第2部を公開禁止にした。一般に公開されたのはスターリンの死後しばらく経った1958年だった。

7. 『春(恋は魔術師)』(1947年)

 ヒロインは若きオペレッタ女優ヴェーラ・シャトロワ。彼女は初めての映画撮影に挑むみ、大科学者にして太陽研究所所長のイリーナ・ニキーチナの役を演じる予定だった。彼女は自らが演じるニキーチナに瓜二つのため、2人はたびたび思いがけない事態に巻き込まれることになる。

 ヒロイン2人を演じるのは、ソ連映画界のレジェントともいうべきリュボフィ・オルロワ。当時のソ連映画はまだ特殊効果に疎かったため、ワンシーンの中で女優を2人分登場させるのに、技術陣はかなり苦労した。

 1947年、『春』はヴェネチア国際映画祭でもオリジナリティの強いストーリーと演出を高く評価された。

8. 『シンデレラ』(1947年)

 フランスの作家シャルル・ペローの童話作品に基づくこの映画は、謙虚で勤勉な女性が継母と異母姉妹に虐げられる話である。最終的には正義が勝ち、シンデレラは王子に惚れられる。

 ヒロインを演じたのは、ポーランド系の女優ヤニナ・ジェイモ。彼女の身長はわずか147cm。当時37歳だった彼女を若く見せるため、撮影は夜間にのみ行われた。彼女自身の言葉を借りれば、朝の顔は「これじゃない」感じだったから、とのことである。

9. 『真の男の物語』(1948年)

 1942年末に空戦で撃墜され、その後18日かけて雪の森を踏破して味方にたどりついたパイロット、アレクセイ・メレシエフのストーリー。彼は生き延びたものの、凍傷のために踝から下を切断する羽目になった。それでも勇敢なパイロットは空を諦めず、再び戦闘機乗りになるべく奮闘する。

 この映画は実話がもとになっている。ソ連邦英雄アレクセイ・マレシエフ(映画の登場人物とは一字違い)は負傷後に実際に戦列復帰を果たし、7回の空戦勝利を果たした。

10. 『クバンのコサック』(1950年)

 1950年公開の本作は明るいミュージカル・コメディ。ソ連南部の2つのコルホーズの社会主義的競争を描く。ストーリーのキモは、両方のコルホーズ議長、ゴルデイ・ヴォロンとガリーナ・ペレスヴェトワが、互いに強いシンパシーを抱いている点である。

 本作は戦後の荒廃と食糧難の時期に撮影されたが、製作側は観客に楽観と将来への希望を与えるべく、作中では充実と豊かさを強調した。これはスターリンを喜ばせ、「我が国の農業事情は悪くないな」と言わしめた。スターリン後に権力についたニキータ・フルシチョフは対称的に、作品が現実を美化しているとして非難し、結果としてこの映画は10年以上もお蔵入りすることになった。

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