興行収入がもっとも多かったソ連映画10選

Russia Beyond (Global Look Press; Goskino; Mosfilm)
 ここで紹介する映画を観れば、ソ連の人々のメンタリティがどのようなものだったのか、すぐに理解することができるだろう。戦争映画、スパイ映画、海賊もの、メロドラマ、ジェンダー問題を扱ったコメディなど、ソ連で大きな人気を博した10本の映画作品を紹介しよう。

 ソ連時代、映画はもっとも人気のある娯楽の一つであった。映画は比較的安価で、誰もが楽しめるものであり、映画館は小さな町にも必ずあった。いくつかのソ連映画の観客動員数が記録的な数字となったのは、こうした背景があったからだろう。そしてこれらの映画はいまでも、世代を超えて愛される作品となっている。

 

10. 朝焼けは静かなれど(1973年)

 第二次世界大戦を描いた心を打つ作品の一つ。ソ連の作家、ボリス・ワシリエフの同名の小説を映画化したものだが、戦闘シーンはそれほど多くなく、サディスティックな戦争の恐ろしさも描かれていない。これは、5人の若い女性兵を送り込まれた若い軍曹の物語である。ロシア北方の沼地で森で、彼らはたった6人で、森に潜む大勢のナチス・ドイツ兵との戦いを強いられる。女性兵たちは、恐ろしい状況の中、次々と命を落としていき、生き残ったのはただ1人・・・。スタニスラフ・ロストツキー監督の作品には、6,600万人が足を運び、1973年、観客動員数で1位となった。2015年にレナート・ダヴレチヤロフ監督が同じ小説を映画化している。

9. 捕まらない復讐者の新たな冒険The New Adventures of the Elusive Avengers)(1969

 この作品の前作となる「捕まらない復讐者」は1966年に公開された。ロシア内戦時代、4人の若き革命家の冒険と、敵対する帝国側との戦いを描いたこの作品は、真のブロックバスター映画となり、若いソ連の観客の間で大きな話題となった。そこで映画を製作したエドモンド・ケオサヤン監督にはぜひ続編を、との声が上がった。そして公開された続編「捕まらない復讐者の新たな冒険」は1968年の観客動員数で上位を占めることとなった(観客動員数は6,620万人)。

 また、映画の中で使われたヤン・フレンケリの「追跡」、「ロシアの草原」も大ヒットした。ちなみにこのあと、シリーズ3作目も製作されている。

 

8. 盾と剣 1968年)

 ナチス・ドイツ側に身を隠すソ連の諜報部員の活動を、ソ連中の人々が息を飲んで見守った。主人公はナチス親衛隊大尉の位にまで登りつめながら、きわめて重要な極秘情報を送り続けた。この壮大な映画作品では、第二次世界大戦の諜報部員たちの緊迫した活動の様子が正確に描かれていると評価されている。観客動員数は6,800万人以上。そしてこの作品が成功を収めた後、諜報部員シティルリツを主人公にしたカルトドラマ「春の十七の瞬間(とき)」が放映された。

 

7. 作戦コード「ウィ」とシューリクのその他の冒険(1965年)

 映画は3つの短編映画、「攻撃者」、「悪魔の誘惑」、「作戦『ウィ』」で構成されている。それぞれ独立したストーリーであるが、そのいずれにも登場するのが素朴で善良で誠実で頭のよいシューリクという主人公である。新しいタイプのソ連のインテリ青年は、建設現場で攻撃的な中年男性と一緒に働いたり、見知らぬ女の子と部屋で試験勉強をしたり、家に押し入ろうとする強盗と遭遇したりする。

 レオニード・ガイダイ監督の有名なコメディの1つであるこの映画からはいくつものセリフが金言となり、ソ連映画のクラシック作品と位置付けられている。1965年の観客動員数は6,900万人で、この年の1位となった。ガイダイ監督はこの成功を受け、翌年、続編となる「コーカサスの虜あるいはシューリクの新たな冒険」の撮影を開始した。

6. クルー 1980年)

 ソ連映画で初めて事故をテーマにした作品で、そのテーマの重要性と迫力は今も古びてはいない。前半ではクルーたちの私生活と様々な家族の問題が映し出され、後半ではクルーたちはともに飛行機に搭乗する。しかし、離陸後まもなく、機体にひびが入り、減圧していることが判明する。クルーたちは真の英雄となり、自身の生命をかけて、乗客を救おうとする。この功績が彼らの人間性と性格に影響を与え、地上に戻った時、それぞれが以前とは少し違う人間になり、問題を解決する。

 アレクサンドル・ミッタ監督のこの作品は、アーサー・ヘイリーの「空港」とその映画化作品にインスピレーションを受けたものだとされている。映画の観客動員数は7,100人で、1980年の1位に輝いた。2016年に、ニコライ・レベジェフ監督がダニラ・コズロフスキー主演で、新たな「クルー」を製作した。

5. マリノフカでの結婚式(1967年)

 マリノフカ村の男性はほぼすべてロシア内戦の前線に赴き、いなくなってしまった。女性たちが赤軍兵士となった恋人や夫を待っている間に、地元の長老が自らの一味とともに村を自分たちのものにしようと、強盗を始める。さらに長老は、牧童に恋する若くて美しいイリンカを無理やり自分の妻にしようとする。1967年のこのミュージカルコメディの観客動員数は7,460万人を記録したが、惜しくも1位は逃した。この映画を抑えて1位の座に輝いたのは、この時点ですでに大人気となっていたシューリクが主人公の新作「コーカサスの虜」であった。

 

4. コーカサスの虜あるいはシューリクの新たな冒険(1967年) 

 レオニード・ガイダイ監督のシューリクの冒険の続編の観客動員数は7,650万人を記録した。今回の作品は前作のような3部作ではなく、学生のシューリクがカフカスにやってきて、地元の習慣について学ぶのだが、その流れで、「誘拐婚」という伝統に直接参加する羽目になってしまう。最高に面白いコメディで、こちらも多くのセリフが広く使われるようになった。

3. ダイアモンド・アーム(1969年)

 ある誠実なソ連の男が、まったく偶然に強盗に仲介役の人物と間違えられ、手にギプスでダイアモンドを埋め込まれてしまう。強盗がダイアモンドを受け取りに来るというとき、男は、ソ連の警察に、犯人を暴くのに協力してほしいと依頼される。映画は、主人公を演じるカルト的俳優のユーリー・ニクーリンのために特別に作られたもので、また映画では、ソ連の「セックス・シンボル」、アンドレイ・ミローノフが素晴らしい演技を見せ(歌や踊りも披露し)ている。ユーリー・ニクーリンが演じるのは、善良で素朴で、金や名声に興味がなく、家族を大切にする典型的なソ連の市民。「ダイアモンド・アーム」もレオニード・ガイダイ監督の作品で、カルト映画となり、多くのセリフが生活の中で使われるようになった。公開された年の観客動員数は7,670万人にのぼった。

 

2. モスクワは涙を信じない(1980年)

 映画は2部構成となっている。第1部では、工場の女子寮に暮らし、工場で働きながら、大学入試の勉強をしている地方から出てきた地味な女学生の生活が描かれる。女友達に言われて、教授の娘のふりをした彼女は、モスクワのインテリ家庭出身の美しい男性と恋に落ちるが、彼は、主人公が妊娠したことを知り、彼女の元を去っていく・・・。そして第2部では、その20年後が描かれる。主人公は大企業の工場長になり、あらゆる困難を克服しながら、成功の道を歩き、1人で子どもを育てている。しかし1人の女性としての人生だけはうまくいかないままだった彼女の生活がある日、一変する。中年の仕上工と出会い、魅かれ合うのである。

 ウラジーミル・メニショフ監督のこの群像メロドラマは1980年の観客動員数で1位になった(観客動員数は8,400万人)だけでなく、アカデミー外国語映画賞を受賞した。

 

1. 20世紀の海賊(1980年)

 インド洋上でソ連の貨物船が海賊に襲撃される。船に、医薬品製造を目的にソ連に運ばれるアヘンが積載されていたからである。武器を持たないソ連船の乗組員たちはなんとか海賊から逃げるのに成功し、海賊一味と戦おうとする。きわめて「西側風」で、ソ連初の戦闘ものであるこの映画を製作したのは、ボリス・ドゥロフ監督。1980年、8,700万人(!)の観客動員数を記録し、アカデミー賞受賞作品である「モスクワは涙を信じない」を抜いて、ソ連映画史上、もっとも興行収入の多い作品となった。

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