ロシア映画「スプートニク」を見るべき5つの理由

Egor Abramenko/Vodorod; Art Pictures Studio,2020
 エゴール・アブラメンコ監督の映画「スプートニク」は、映画関連サイトrottentomatoes.com上で、アメリカの映画評論家の89%から肯定的な評価を得ている。このホラー映画があなたも気に入るかもしれないその理由についてお話しよう。

1. 宇宙をテーマにした、ロシアでは珍しい映画

 20世紀に人類を初めて宇宙に送り届けたロシアが、長いこと、宇宙というテーマを映画で扱ってこなかったのは驚くべきことである。正確にいえば、ソ連時代には宇宙飛行というのは青少年向けの映画で重要な要素であったにも関わらず、惑星間飛行をテーマにした映画は撮影されていないのである。唯一の例外はアンドレイ・タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」であるが、この作品は多くの人向けの娯楽映画という範疇には入らない。

 ソ連崩壊後、宇宙飛行士の生活がときにオリジナル映画の題材として扱われることはあったが、このテーマでの作品作りが画期的に前進したのは2017年。ソ連の宇宙飛行士たちの軌道での出来事を描いた「スペースウォーカー」、「サリュート7」という2つの作品が同時に公開されたのである。

 同じく2017年に公開された作品の一つが、エゴール・アブラメンコ監督の短編映画「乗客」で、新作映画「スプートニク」はこの作品を下敷きに作られた。「乗客」では、ある地球に帰還した宇宙飛行士が、自分自身の中に、時おり、自身の情熱を与えなければならなくなるような異星人が住み着いていることを隠さなければならなくなる。プロデューサーたちは、アブラメンコ監督の新作をコンパクトな宇宙ホラーにすることにした。この作品を作るにあたってインスピレーションを産むものとなったのは、ロドリー・スコット監督の「エイリアン」とジョン・カーペンター監督の「遊星からの物X」だという。

 こうしたやり方が功を奏し、「スプートニク」は比較的少ない予算(およそ300万ドル=およそ3億1,800円)で視覚的に訴えかける場面にもなんの遜色もなく、ほぼすべてのシーンが暗闇で演じられるインパクトのあるホラー映画になった。また視覚効果はもちろん、登場人物、その人物が持つ秘密、そして人間関係も非常に興味深く描かれている。

 

2. ホラー映画というジャンルを変形させた

 映画「スプートニク」は伝統的なホラー映画とはいえないものである。映画のストーリーは、1983年、カザフスタンのステップ地帯にある秘密のソ連の科学研究所で繰り広げられる。この研究所そのものも、軍事基地と強制労働収容所の間のようなものである。職員たちは寮に住んでいるのだが、隣接するバラックには、厳しい運命が待ち受ける囚人が暮らしている。そして研究所職員と囚人の両方を武器を持った兵士たちが警護しているのである。

 こうした細かい点が、ホラー効果を大いに強め、伝統的なサスペンス的な要素に、全体主義国家の現実を前にした恐怖が加えられている。

 映画では、恐ろしい司令官セミラドフ(フョードル・ボンダルチュク)率いる研究者と兵士のグループが、宇宙飛行から帰還した飛行士、ヴィシニャコフ(ピョートル・フョードロフ)に対する調査を行なっている。ヴィシニャコフと共に宇宙飛行を行ったクルーは死亡。そしてヴィシニャコフは、体内に恐ろしい異星人が住んでいると確信している。当然のことながら、兵士たちは、この宇宙人を兵器として使おうという誘惑にかられるが、まずは異星人と会話をしなければならない。このために、あまりに奔放なモスクワの医師のタチヤナ・クリモワ(オクサナ・アキンシナ)を研究から外そうとする。しかしこのクリモワのカザフスタン到着により、事態は思わぬ方向へと向かう。

 「スプートニク」は最近の映画の流行の流れを汲んでいる。ストーリーの中心に据えられているのは強い女性。しかもセミラドフ大佐のような札付きの男さえも一目置く存在として描かれている。同時に、映画には絶叫や恐ろしい場面といったホラー映画的な要素はほとんどなく、より抑制のきいた、知的な手法で緊張感を生み出している。ヴィシニャコフの胸郭に現れる怪物も、内なる悪魔といった隠喩的な表現になっており、もちろん危険ではあるが、決定的な瞬間には善いことをしてくれるものとして描かれている。

 

3.作り上げられた全体主義的な雰囲気 

 1983年を時代背景とした映画を撮影するため、特別なセットが組まれ、主人公たちは特別に作られた衣装を身につけている。しかしその目的は、時代に合ったファッションやスタイルを作るためだけでなく、レトロなSF映画の雰囲気を醸し出すことでもある。「スプートニク」の世界というのは、全体主義の陰鬱な空間に、不穏な赤い光が射し、登場人物たちは閉所恐怖症に襲われそうな小さな部屋に暮らしていて、一方、外に出れば、生物もいない水平線まで伸びる砂漠が広がっている・・・そんな場所である。このような細かいディーテールそのものも素晴らしい効果を出しているが、他の要素と絡み合わせることによって、「スプートニク」を気持ち悪いものばかりを詰め込んだ単なるB級映画ではなく、ホラー映画の中でも傑出したものにしているのである。

4. 予期せぬストーリー展開 

 「スプートニク」は予想を裏切るストーリー展開で観る人を何度も驚かせる。中でも特筆すべきなのが、ホラー映画にはほとんど描かれることのないメロドラマである。作品の後半では、ホラーではなく、ドラマに重点が置かれているため、流血の戦いを期待している人は要注意である。この映画には流血の争いの場面はほとんどない。あるのは、忍耐力、意志の強さを持っていれば、必ず報われるという誰にでも分かりやすいストーリーである。

 

5. 良質のSF映画のない時代に登場した

 新型コロナウイルスの感染拡大により、ハリウッド映画の多くがその公開を今年の後半まで延期された。それに代わるものとして、数多くの映画がオンラインで上映された。しかし、溢れんばかりのコンテンツの中に、真に興味深いものはそれほどなく、とくに印象的な長編映画は少ない。こうした状況を背景に、「スプートニク」が西側の評論家から高い評価を得たのは、最近、良質の映画が出ていなかったのも一つの理由であろう。良いSF映画がない中、このエキゾティックな作品が英語圏の観客の目を引いたのである。この夏、映画の公開がほとんどない中、「スプートニク」は大成功を収めたと言っていいだろう。

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