映画のロシア:リアルかフェイクか

カルチャー
オリガ・チャイルズ
 「こんなのモスクワじゃない」「これはロシアに見えない」というのがロシアが登場する映画を見ている時にロシア人がよく口にする不平だ。リアル・ロシアとフェイク・ロシアのロケ地を見分けられるだろうか。人気の映画やドラマで実際にロシアの「代役」にされたロケ地を紹介しよう。

**フェイク**

『マクマフィア』

 幼くしてロシアを去り、新たな組織犯罪の中心人物になることを余儀なくされたロンドン在住家庭の跡継ぎが主人公の最近のBBCドラマの最終回の舞台は、モスクワ……らしい。実際にはセルビアのベオグラードで撮影された。悪くないチョイスだ。ベオグラードはどこかソビエト時代のモスクワを思わせる。問題は、ドラマの時間設定は現在で、今のモスクワは変わってしまったということだ。

 この変化は登場人物らがずいぶん古風な地下鉄の駅へと下っていく時に俄然明らかになる。大きな「M」のロゴや改札はすべて間違っている。それから、アレックスが子供時代に住んだアパートを見にその近辺を訪れたという場面で、事態はいっそう悪くなる。アパートやそれを取り巻く建物の様式や種類はモスクワで見られるものではなく、主人公が子供だった頃にも見られなかっただろう。

 ドラマでは実際のモスクワのパノラマ映像やクロアチアのザグレブで撮影された映像も使われている。ドラマの大半の場面はクロアチアで撮られており、時にモスクワの代役になっている。

『ホームランド』

モスクワが舞台とされるシーズン7の場面はハンガリーのブダペストで撮影された。

 劇中で「GRU」(ロシア連邦軍参謀本部情報総局の旧称のアクロニム)の本部とされる建物は旧市街にあり、脚本家らの言う「ロシアで最も安全な場所」とは正反対のように見える。人が壁伝いに歩き、窓から押し入る。本物の本部は最近できた目的に適った建物で、外見ももう少し恐ろしい。ドラマでのような行動はここでは看過されないだろう。

 モスクワでのエピソードとされる場面では、多くのロシア人がおかしなナンバープレートに気付いたことだろう。ハンガリーのものだったり、意図的にまぜこぜにされてでたらめになったりしている。

 『ホームランド』はロケ地をすり替えることで有名だ。以前のレバノンの場面は隣国イスラエルで撮られたもので、次のシーズン8のアフガニスタンの場面はモロッコで撮られるという噂だ。

『キリング・イヴ』

 このドラマのロシア人ファンの中には、モスクワの描写に「気分を害さない」という人もいるが、これはモスクワではない。街中の風景はルーマニアのブカレストで撮影されている。「ロシアの刑務所」とされる場所に至っては、実際には英国の元刑務所の廃屋だ。

『エージェント:ライアン』

 舞台のほとんどがロシアとされる大ヒット映画は、基本的に英国で撮影され、劇中でロシアとされる場所の多くが実際にはロンドンにある。ロシア人の悪役の本拠地も然り、ロシア正教会の教会とされる場面に至っては、ロンドンのウェストミンスター大聖堂(ウェストミンスター寺院と混同しないこと)にあるカトリックの教会で撮影されている。残りの「モスクワ」はリバプールの中心街がロケ地だ。

『チェルノブイリ』

 いくつもの賞を獲得しているHBOのドラマのいくつかの場面は、実際に出来事の本当の舞台であるウクライナで撮られている。だが主なロケ地はリトアニアだった(予算の都合でそうなったという)。同国第2の都市カウナスは、1980年代のモスクワとして代用されている。しかし、30年以上前のロシアの首都を描くのは困難だ。カウナスがそれらしく見えるかはともかく、現在のモスクワは昔と全く違う。

 カウナスにはソビエト時代の建築物が残る地域があり、リトアニアの家庭は今でもソビエトの典型的な生活条件の要素を残している。しかし、これがこのドラマで決定的に史実に反する部分でもある。主人公のアカデミー会員ヴァレリー・レガゾフは、かつて絶大な力を持ったクルチャトフ研究所の所長を務めながら、老朽化した建物で一般市民のみすぼらしい生活条件を共有しているようだ。ドラマの冒頭では、ここで彼は自殺を遂げる。

 実際のレガソフが暮らし、命を絶ったのは、モスクワ市シチュキノ地区、クルチャトフ研究所に程近い場所にある大きな2階建の一軒家だ。スターリン時代の新古典主義様式で建てられており、ソ連のスタンダードからすれば広大で特権的だった。ソ連崩壊後も、遺族が家を所有し続けた。

 それでは、レガソフはどのようにしてKGBの目を盗み、回想を吹き込んだテープを取り外しできるレンガの後ろに隠したのか、と熱心な視聴者は尋ねるだろう。レガソフはテープを隠さなかった。彼は友人だったプラウダ紙編集長に宛てたテープをモスクワ大学の自分の事務室に残したのだ。

『007 慰めの報酬』

 映画のラスト、ジェームズ・ボンドは仇を討つためロシアのカザンを訪れる。雪の積もった冴えないバラック街は、実際には英国の元軍事施設の廃屋だ。

**かなりフェイク**

『ミッションインポッシブル/ゴースト・プロトコル』

 たぶん察しが付いただろうが、トム・クルーズがさりげなくクレムリンを吹き飛ばす場面は、クレムリンで撮影されたものなどではない。クレムリンとその内部とされる場所、および市街地の場面の大半はチェコの首都プラハの市内と近郊で撮られたものだ。数百万ドル級のシリーズの興行主らが、実際のモスクワでの撮影が中欧の都市に比べて高すぎると不平を言ったのである。しかし、彼らは赤の広場と(無傷の)クレムリンを含め、実際のロシアのパノラマ映像も撮影している。

『ダイ・ハード/ラスト・デイ』

 『ダイ・ハード』シリーズの5作目は、モスクワで撮影されるという噂が広まっていたが、時期尚早だったようだ。プロデューサーらはモスクワにロケ地としての撮影許可を求め、実現を目指したが、実現性がないとして断念した。ただし、サブの撮影班をモスクワに送ってパノラマ映像やウクライナ・ホテルの外観を含め、一部の場面を撮影させている。主なロケ地はハンガリーのブダペストに移され、劇中でモスクワの代役を務めた。

 この映画では、チェルノブイリもハンガリーで撮影されている。ブダペストの近郊だ。登場人物らがどうやってモスクワからわずか約30分(!)でここに着いたのか不審に思った視聴者もこれで合点がいくだろう。もちろんチェルノブイリはロシアとは別の国にあり、モスクワから何百キロメートルも離れているが、映画はこの事実をしれっと無視している。

『バイオハザードV リトリビューション』

 ゾンビ映画シリーズの最後の作品の一部はモスクワの「シミュレーション」が舞台だ。背景の一部は実際のモスクワで撮影されている。しかし、完成した映画に現れるのは実際のところコンピューターシミュレーションであり、建物の配置や地下鉄アルバーツカヤ駅の位置が実際と異なる。車のナンバープレートはどれも「可笑しい」。撮影班は背景シーンを実際のモスクワ・メトロで撮影することを許されたが、アルバーツカヤ駅のシミュレーションされた輪郭は実際のものに基づいているものの、地下鉄駅の場面は主にカナダのトロントで後から撮影されたらしい……。

**リアル**

『ボーン・スプレマシー』

 マット・デイモンのアクション映画シリーズの一つであるこの作品は、モスクワの場面が実際にモスクワで撮影されたという点でユニークだ。カーチェイスは実物らしい救急車と実際のロシア車の間で行われる。とはいえ、10年近く前の映画なので、現在のモスクワにはもはや「ヴォルガ」のタクシーはない。

 いっそう魅力的なのは、ボーンが高層住宅街を訪れる場面がモスクワ西部のクルィラツコエ地区で撮られた本物だということだ。

『007 ゴールデンアイ』

 ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドの古典映画は、レニングラード(現サンクトペテルブルク)での有名な「戦車チェイス」の場面を撮影するのに予算を惜しまなかった。もちろん破壊的な出来事が起こる場面はセットで撮られているが、市街地の場面はほとんど現地でロケ撮影したものだ。

『ジ・アメリカンズ』

 ロシア人スパイについてのドラマのリアリティーについて文句を言いたいロシア人は多いだろうが(文句なしという人もいるかもしれないが)、シーズン5に登場するモスクワは本物だ。もちろん現在撮影されたものなので、現代のモスクワが30年前の自分を演じていることになる。メディアに対するインタビューで、プロデューサーらは1980年代の景色を装える古風な場所や昔と変わらない場所を探すのに苦労したと回想している。

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